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渡鹿野島遊び2016

2016年夏、渡鹿野島で女遊び(泊まり)をした際の記録。

 髪を乾かしおえたエリーは、ベッドの上に横たわっている私に抱きついてきてくれた。互いに薄手の寝間着を身につけているだけだから、彼女の柔らかい体の感触がもろに伝わってくる。

 私はエリーのやや肉厚な背中を右手で撫でながら、さっき不覚にも感じてしまった彼女への愛おしさが、その手にこめられていくのを、もはや避けられない思いである。


「犬、猫、飼ってるか?」

 とエリーが聞いてきた。

「いない。でも亀、いる」

「カメいるか!かわいいなぁ…!名前は?カメの名前」

「忠左衛門(忠臣蔵の吉田忠左衛門からとった)

「チュウザ…むずかしい名前」

 

 こんな無邪気な会話を、私たちは抱き合いながらつづけていた。国籍がちがうために単純な会話しか出来ないことが、かえって良かった。ベッドの上での男女の会話に、むずかしい内容は必要ない。まるで子供同士がするような無邪気な会話を、暗い部屋のベッドでエリーとつづける私は、今夜初めて会ったのではないような親しみを彼女に対しておぼえるようになっていた。不完全な日本語を話す彼女に、「…うん、うん」と相槌をうってやるとき、自分の心の中に愛情に近いものが湧くのを、私はたしかに感じていた。


「アナタ興奮してるか?勃ってきてるの、わかるよ」

「…うん」

「ナマするか?」

「いや、ゴムつけてで、いいよ」

「ナマしよ?な?」

 

 私は病気とかも恐いし、万が一彼女を妊娠させたりしたら可哀相だから、ゴムをつけてしたかったが、女性の側から言われると、男としては断りようがないところがある。男の私から「ナマでしたい」と頼むのならともかく、エリーからそう言ってきたということは、私に対するサービス精神以上の何らかの感情があるわけで、私はエリーのせっかくの気持ちを無視するわけにはいかなかったのである。ここで頑なに拒否することは、彼女を傷つけることになる。

 

 エリーは私の股間の上にまたがり、野性的なあえぎ声や咆哮をあげ、何度か絶頂をむかえたようだった。先ほどの交わりよりも、彼女は情熱的だった。

「もう…やばい」

 我慢しきれず私が言うと、

「いいよ」

 とエリーにゆるされ、私は彼女の中で果てた。


 行為のあと、私は再び風呂場でエリーに体を洗われたわけだが、私が出たあともかなりの長い時間、彼女は風呂場から出てこなかった。

 体に残った男性の痕跡を長い時間かけて洗い流さないと気が済まない潔癖症なのか、と私は不安になったが、そうではないようだった。

 

 風呂場から出てきた彼女は、私に、

「アナタ、タバコ吸うか?」

 と聞いた。私が吸わないと答えると、


「エリー、タバコの匂い嫌いなぁ。宴会、オキャクサンのタバコの匂い、髪につく。だから宴会のあと、髪洗うの、時間かかるよ」

 

 エリーは今夜、私を迎えに来る前まで宴会のコンパニオンの仕事(おそらく、私と同じ旅館に泊まっていた例の男性一組の宴会であろう)もやっていたため、男性客の吸う煙草の匂いが髪についてしまい、それを洗い落とすのに時間がかかっていたようだ。


「どう?いい匂いか?」

 彼女は煙草の匂いが落ちたか確認したいのか、私を自身のロングヘアーの方に誘った。私が髪の匂いを嗅ぎ、

「うん、いい匂い」

 と言ってやると、

「いい匂いかー。ヨカッタ…」

 と満足そうであった。

 

 エリーは鏡台の前に座り、洗った髪をまた長い時間かけてドライヤーで乾かしていた。キティちゃんのグッズに囲まれた部屋の中、濡れ髪を乾かしている彼女の後ろ姿を、私はベッドの上からながめながら、痛いくらいの愛おしさを感じていた。「タバコの匂いが嫌い」と言いながら、ハローキティだらけの部屋で男性客をとっている彼女の境遇が、私の心の何かを刺激したようだった。

 ただ、他人による演出が入っているといっても、普段エリーが住み暮らしている部屋であることはたしかなようだった。私は、初めて女の部屋に入れてもらった男のごとく、彼女の指示にしたがうしかなかった。

 

 服を脱ぐように言われ、私はトイレと一緒の狭い風呂場で、エリーに体を洗われた。彼女は私の体のいろんな部位を順番に洗い流しながら、

「順番、順番。エリー日本に来る前、保育園の先生やってた。だから子供の体洗う、順番、な」

 と言っていた。彼女は、タイで保育士をしていた頃、体の部位を洗う順番を子供に教えていたことを思い出しているようだった。

 

 風呂場を出た私は、裸体のまま、ベッドに行くように言われる。

 ベッドにエリーが先に横たわり、

「おいで」

 と、ベッドの上の空いたスペースを叩くような素ぶりをした。

 

 私は素直な子供のように、それにしたがって仰向けに横たわった。エリーは私の股間のものにゴムをつけ、唇で愛撫し、一回めの行為がはじまった…。

 何もかも彼女に言われるまま、というような、かなり受け身なセックスだったが、今夜の私は行為目的で来た部分は少なく、それで満足だった。


 おそらく、五十分二万円の「ショート」を選んでいたら、ここまでで終わり、という感じだったのだろう。しかし、私は「泊まり」を選んだので、まだまだここからの夜は長そうだ…。

 

 



 ちなみに、小料理屋の会計は二千八百円であった。二人でビールを一杯ずつ飲んだうえに、エリーが生牡蠣を頼んだりしていたので、結構な金額になるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたが、なかなか良心的な価格で、ひと安心であった。海が近いから、牡蠣などの海産物は、あまり値が張らないのかもしれない。

 

 エリーに導かれるまま、私は小料理屋のビルの階段を上っていった。電灯がない真っ暗な階段で、はたしてこのビルに人が住んでいるのかもよく分からない。

 エリーはその豊満な体を私に密着させ、私の股間に手でちょっかいを出したりした。

「アナタのオチンチン、大っきいよ」

 彼女は感嘆するように言い、何かを期待しているようだった。

 

 時おり股間をいじられながら、廃墟ビルの階段を女性と二人きりで上っていくシチュエイションは、妙に私の興奮を誘うものであった。うす汚れた階段の上を、黒い毛虫がゆっくりと這っていくのが、やけに私の目に焼きついた。

 

 階段を上った先に廊下があり、そこにはさすがに電灯がついている。廊下の一隅にある部屋に、私はエリーに案内されて入った。

 

 そこは女性の一人暮らしの1K、といった風の部屋で、キッチンがやけに広いため2ルームあるかのように見えるところであった。部屋じゅうハローキティのグッズで埋めつくされてピンク色なのが、異様な感じをさせる。これらのキティグッズは、「いかにも女の子の一人暮らしの部屋」というイメージの演出なのだろうか。


 私は実際に行ったことはないが、大阪の飛田新地の遊郭の女の子の部屋も、全く同じようにハローキティで埋めつくされているのを、写真で見たことがある。夜の仕事をしている女の子がみな、ハローキティが大好きだ、ということでは、おそらくないだろう。女の子の意思とは関係なく、夜の商売を取り仕切っている誰かによる意図的な演出を、私は感じとらざるをえないのである。


 エリーは私を案内し、ビルの一階にある小料理屋のような店に入った。ここで一緒に酒を少し飲んで会話をしてから、エリーの部屋に行こうということらしい。

 

 座敷席に、二人で向かいあって座る。


「ビールの小サイズひとつ、頼んでいいか?」

 とエリーが囁くように言った。私はうなずき、自分もビールを注文した。

 ビールを飲みながら、他愛ない会話をした。

 

 エリーはタイ人ということだった。片言の日本語を喋る外国人女性と日本語で会話したことなど、私は今までの人生でなかったために、いまいち勝手がわからず、

(はたしてこの子と無事、一夜を過ごせるのか…?)

 という不安に、依然として駆られている。


「エリーともう一人、アナタのとこ、行ったね。もう一人、日本人。アナタ、ダメだったら、もう一回、別の二人行くよ」

 とエリーは話した。

 さきほど、私の部屋にエリーとともに顔見せに来た大人しそうな女性は、日本人だったらしい。もし、その二人とも私が気に入らなかった場合、また別の二人の女性が私の部屋に送りこまれる予定だったようだ。


 話を聞いていると、平日のこの島には、エリーのような夜の性的なサービスをしている女性は(宴会のコンパニオンは別にして)五人前後しかいないように推測された。週末の金曜土曜になるともう少し増えて十二、三くらい。(週末の稼ぎ時だけ、島の外からやって来る女性がいるのだろう)やはり噂どおり、島の売春業は衰退してしまっているようだ。

 

 エリーの話す片言の日本語は分かりづらい部分はあるものの、こうした島の状況は一回聞いただけですんなりと、私の頭に入ってきた。彼女は日本に来てからの期間が長いらしく、日本語の意志疎通はそれほど難しくはなさそうだ。

 よく考えれば、エリーのぽっちゃりとした体型は、私が男として最も好むところだし、やけに高いテンションも顔見せの時の印象通りのものであった。あとは国籍の違いという壁さえ乗りこえれば、私はこの一夜を存分に楽しめるはずだ。


(最初、外国人だと分かった時の衝撃は相当大きかったが、言葉の壁を意識し過ぎなければ、べつに問題ないかもしれない)

 

 東京から一切寄り道をせずに島に来た私の神経は疲れておらず、まだまだ冷静であった。私には少しずつ希望が見えはじめ、小料理屋を出るころにはいつしか、エリーの片言の日本語との会話を楽しむようになっていた。