エリーは私を案内し、ビルの一階にある小料理屋のような店に入った。ここで一緒に酒を少し飲んで会話をしてから、エリーの部屋に行こうということらしい。
座敷席に、二人で向かいあって座る。
「ビールの小サイズひとつ、頼んでいいか?」
とエリーが囁くように言った。私はうなずき、自分もビールを注文した。
ビールを飲みながら、他愛ない会話をした。
エリーはタイ人ということだった。片言の日本語を喋る外国人女性と日本語で会話したことなど、私は今までの人生でなかったために、いまいち勝手がわからず、
(はたしてこの子と無事、一夜を過ごせるのか…?)
という不安に、依然として駆られている。
「エリーともう一人、アナタのとこ、行ったね。もう一人、日本人。アナタ、ダメだったら、もう一回、別の二人行くよ」
とエリーは話した。
さきほど、私の部屋にエリーとともに顔見せに来た大人しそうな女性は、日本人だったらしい。もし、その二人とも私が気に入らなかった場合、また別の二人の女性が私の部屋に送りこまれる予定だったようだ。
話を聞いていると、平日のこの島には、エリーのような夜の性的なサービスをしている女性は(宴会のコンパニオンは別にして)五人前後しかいないように推測された。週末の金曜土曜になるともう少し増えて十二、三くらい。(週末の稼ぎ時だけ、島の外からやって来る女性がいるのだろう)やはり噂どおり、島の売春業は衰退してしまっているようだ。
エリーの話す片言の日本語は分かりづらい部分はあるものの、こうした島の状況は一回聞いただけですんなりと、私の頭に入ってきた。彼女は日本に来てからの期間が長いらしく、日本語の意志疎通はそれほど難しくはなさそうだ。
よく考えれば、エリーのぽっちゃりとした体型は、私が男として最も好むところだし、やけに高いテンションも顔見せの時の印象通りのものであった。あとは国籍の違いという壁さえ乗りこえれば、私はこの一夜を存分に楽しめるはずだ。
(最初、外国人だと分かった時の衝撃は相当大きかったが、言葉の壁を意識し過ぎなければ、べつに問題ないかもしれない)
東京から一切寄り道をせずに島に来た私の神経は疲れておらず、まだまだ冷静であった。私には少しずつ希望が見えはじめ、小料理屋を出るころにはいつしか、エリーの片言の日本語との会話を楽しむようになっていた。