彼女は自らの汗ばんだ腕を、私の腕にからませ、体を密着させるようにして、暗い路地を案内していった。
さきほどの服装とは違い、彼女は白い半袖の上着に、ジーパン生地の短パンという、夏らしく露出の多い出立ちである。
「暑いなァ…」
と彼女は言いながら、さきほど私の部屋のティッシュからとった一枚で、しきりに顔の汗を拭っている。もしかすると彼女は、汗で化粧が落ちて印象が悪くなり、私から「チェンジ」を言いわたされるのを恐れているのかもしれなかった。まだ性的な行為に到っていないため、私が女の子を替えたい、あるいはキャンセルしたいと言えば、それも可能なわけである。
そんな弱い立場に置かれている彼女に対し、私の本来の性格としては「優しさ」を感じるはずであったが、その時の私には心の余裕がなかった。娼婦に対する優しさよりも、相手が外国人であることへの不安の方が大きかったのである。
「アナタ、いくつか?」
と彼女が問うてきたので、三十一だとこたえると、
「三十一!?エリー三十よ。近いなぁ!」
彼女は源氏名をエリー(仮名)と言うらしかった。
私は、まだ不安の残る頭の中で、
(三十か…。たしか、この子に似ていた例の水商売の女性も同じく、俺のひとつ下だったな…)
などと、どうでもよい事を思い出している…。
つづく