二十時半に旅館にかえり、風呂に入る。二十二時に女の子が迎えに来るそうだから、それまでにゆっくりと仕度を(心の準備もふくめて)すればいい。私はそう思っていたのだが、時計が二十一時半をさしたころに、
ドン、ドン!
と扉が叩かれ、さっきの女の子が一人で入ってきた。
「行くよー」
女の子は私を陽気な声で誘ったが、彼女の日本語にはどこか、片言の響きがある。
(そうか…日本人ではなく外国人だったか…)
私はてっきり、彼女が日本人だと思いこんでしまっていたのだ。「顔見せ」の時にとくに会話を交わさなかったし、その上、私がむかし知り合いだった水商売の女性に雰囲気が似ていたことからつい、外国人である可能性を忘れてしまっていたのである。
彼女は、私が冷房の設定温度を高めに設定していた部屋で、
「暑いなァ…。アナタ、暑くないか?一枚、もらうよ」
と、汗を拭くためのティッシュを一枚拝借したりしている。外国人ならではの、独特なハイテンションで彼女は話した。
(はたして、俺はこのテンションについていけるのか…?)
という大きな不安を抱きながらも、私は急いで仕度を終えなくてはならない。彼女が迎えに来た時間が早かったため、身仕度が整っていなかったのだ。
「行くヨ、はやく、行くヨ」
と彼女に拉致されるかのごとく、私は旅館から出たのだった。
つづく