ちなみに、小料理屋の会計は二千八百円であった。二人でビールを一杯ずつ飲んだうえに、エリーが生牡蠣を頼んだりしていたので、結構な金額になるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたが、なかなか良心的な価格で、ひと安心であった。海が近いから、牡蠣などの海産物は、あまり値が張らないのかもしれない。
エリーに導かれるまま、私は小料理屋のビルの階段を上っていった。電灯がない真っ暗な階段で、はたしてこのビルに人が住んでいるのかもよく分からない。
エリーはその豊満な体を私に密着させ、私の股間に手でちょっかいを出したりした。
「アナタのオチンチン、大っきいよ」
彼女は感嘆するように言い、何かを期待しているようだった。
時おり股間をいじられながら、廃墟ビルの階段を女性と二人きりで上っていくシチュエイションは、妙に私の興奮を誘うものであった。うす汚れた階段の上を、黒い毛虫がゆっくりと這っていくのが、やけに私の目に焼きついた。
階段を上った先に廊下があり、そこにはさすがに電灯がついている。廊下の一隅にある部屋に、私はエリーに案内されて入った。
そこは女性の一人暮らしの1K、といった風の部屋で、キッチンがやけに広いため2ルームあるかのように見えるところであった。部屋じゅうハローキティのグッズで埋めつくされてピンク色なのが、異様な感じをさせる。これらのキティグッズは、「いかにも女の子の一人暮らしの部屋」というイメージの演出なのだろうか。
私は実際に行ったことはないが、大阪の飛田新地の遊郭の女の子の部屋も、全く同じようにハローキティで埋めつくされているのを、写真で見たことがある。夜の仕事をしている女の子がみな、ハローキティが大好きだ、ということでは、おそらくないだろう。女の子の意思とは関係なく、夜の商売を取り仕切っている誰かによる意図的な演出を、私は感じとらざるをえないのである。