もはや直感である。二人の女性が部屋に入ってきてから、わずか十秒間ほどで、私の心は決まっていた。しかし、二人を目の前にして「こっちで!」と指さすわけにもゆかない。お女将は部屋の外に出ているため、お女将に意思を伝えることもできない。
気まずい沈黙が一分間ほどながれた。私が身の処し方に悩んでいると、白い服を着た方の、私の判断から既に外れてしまっている女性が、
「いったん外に出て、お女将に(どちらがいいか)言ってもらいましょうか。その方が…いいですよね…?」
と私に確認した。私はその女性に、自分の選択が見透かされている気がして、なんだか申し訳なかった。
二人が部屋から出て、お女将が入ってきた。私は二人の名前を聞かされていなかったので何と伝えればよいかわからず、
「えっと…ちょっとふっくらとした体型の方の…」
というような説明しかできない。お女将は少し首をかしげていたが、
「黒い服を着た方の子かな…?」
「あっ!そうです」
「…では、お代金の方を、頂戴しても…?」
「はい、はい」
私は財布から四万を出し、お女将にわたした。これで、今夜のだんどりは全て整ったわけである。
それにしても奇妙な感じであった。写真から女性を選ぶのならともかく、目の前に二人の女性があらわれ、
「この二人から、今夜の相手を選んでください」
などという状況に我が身をおくことは、人生において今までもこれからも、二度と(この島に再び遊びに来ようという気をおこさないかぎりは)無いだろう。
廊下でお女将と二人の女性の声が遠ざかっていくのを聞きながら私は、
(申し訳なかった…)
と、選ばなかった方の女性に心の中で頭を下げていた。
彼女はあのような境遇にいる以上、いちいち気にしていないとは思うが、今ごろお女将から私の判断を聞いて、多少は傷ついているかもしれない。そう思うと、罪悪感が湧いた。
「顔見せ」 了