SFAは経営を可視化するツール | 「売れる仕組みづくり」を伝えるコンサルタントのブログ

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[要旨]

中小企業診断士の長尾一洋さんによれば、顧客との関係を強化するためには、SFAの活用が重要であるということです。SFAは、元々、営業プロセスや見込み案件の管理を自動化するツールとして開発されたものですが、現在は、情報共有や、上司から部下への支援などを効率的に行うための支援ツールとなっており、これによって、経験の浅い部下でも一定の成果をあげることができるようになりました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長尾さんによれば、安定的に売上を得るには、顧客との関係を強化し、顧客生涯価値を増やすことが大切であり、そのためには、モノ売りからコト売りへ、商品販売からサービス提供へと、売り切って終わらないビジネスモデルヘの転換を考えることが重要ということについて説明しました。

これに続いて、長尾さんは、SFAの活用法について述べておられます。「アメリカのSFAは、Sales Force Automationの略で、今はOracleに買収されましたが、1993年に設立されたSiebel SystemsがSFAツールをリリースしていましたので、30年も前からあるものです。元々、営業プロセスや見込み案件の管理を自動化するツールとして開発されました。アメリカではほとんどの営業職はコミッション契約で、出来高に応じた報酬を受け取るため、営業担当者の行動を管理するという発想も、その必要もないという背景があります。アメリカでの動きを受けて、1995年頃から日本の企業でもアメリ力式のSFAの導入が進みましたが、前述の理由により、日報画面は当然ながらありません。

そのため、日本人には使いにくかったようで、運用の徹底がなされず効果が出ないケースが続出しました。その後、日本企業向けに日報画面が加えられたりもしましたが、行動管理が目的になってしまい、営業担当者にはまったくメリットがないものになりました。『見張られているようで嫌だ』と感じてしまい、虚偽報告や入力拒否が多くなってしまったのは、当然の流れでした。そこで現れたのが日本式SFAです。同じSFAでも、こちらはSales Force Assistantの略で、営業活動を支援するためのシステムとして登場しました。

営業活動を支援する目的に沿ってSFAを具体的にどのように使っていくかを、5つの段階に分けて説明します。どうしても日本企業ではSFAを日報的な行動管理をするものとして理解しようとするので、日報がどう成長していけば良いのかという提示とともに解説しています。第一段階の『報告書』から始まり、『連絡書』、『計画書』、『情報共有』、そして、最終の第五段階は『先行支援』です。順に詳しく見ていきましょう。

『第一段階:報告書』日報を字の如く『その日の報告』」ととらえると、日報に記される内容はすベて事後報告になります。行動の報告と、結果の報告。ただ一方的に伝えるだけで、上司は『見ました』という確認のみ。特にコメントを入れることもなく、訪問件数や電話本数などをチエックし、一日サポっていなかったかを確認します。コメントを入れるときには、『なぜ○○しなかったのか』、『○○をやるように言ったただろう』といった叱責や注意が中心になり、あとは業務上の指示。営業担当者からすると、叱られるために書いているような感覚になることがあります。

上司にとっては、部下の行動を管理しているつもりになれますが、部下にはまったくメリットが感じられません。いつも見張られている気分になり、叱られないために適当なことを書いてごまかしたりもするのです。内容を重視せず件数を集計するような運用をしていれば、社外で行う営業活動は本人にしか分からないことが多いので、いくらでも嘘が書けてしまいます。これでは営業の業務改善にはまったく役に立ちません。このような行動管理日報は、やがて、悪循環を引き起こします。営業担当者は、適当に脚色を加え、叱られない内容を日報に記載します。

提出を受けた上司は、自分が営業担当者だった頃の経験から、『どうせ嘘を書いている』と思い、真剣に読む気になれません。部下は、適当に書いても叱られもしないし、そもそもちゃんと読んでいないことを察するようになり、ますます嘘やごまかしが増えていきます。このような悪循環のまま、仕組みだけを紙からデジタルに置き換えたとしても、まったく意味がありません。情報を貯めるのが営業DXの肝ですが、嘘や間違った情報をいくら貯めても財産にはなりません。

『第二段階:連絡書』前線で働く営業担当者と上司、双方向のコミュニケーションを目的としたものです。指導育成日報と言っても良いでしょう。特徴は、上司のコメントが毎日必ず入ることです。指導コメントにプラスして相手の存在を認める激励やねぎらい、感謝のコメントが主な内容です。現場の情報がその日のうちに上司や経営者に伝わり、それに対して『ご苦労さん』、『大変だったね』といったねぎらいが本人に戻されます。コメントで反応があるので、営業担当者も日報を書く甲斐があります。現場の状況や営業担当者本人の考えが把握できることで、上司のコメントも的を射たものになり、社内コミュニケーション量が増えて、組織が活性化します。

これは、人間の体にたとえるなら神経網が整備できたということです。戦略実行の最前線である営業現場の情報がその日のうちに上司や経営陣に伝わり、それに対するフィードバックが次の日には本人に戻される仕組みになるわけです。ここでデジタルを活用して運用スピードを上げる意味が出てきます。行動管理的に事後報告の日報運用をしていると、一週間まとめて提出するといったことに陥りやすいのですが、この神経の流れが遅いと良くないので、スビーディーに、デイリーにやり取りしなければなりません。デジタルの力を借りてスピードアップさせることで、日報が会社の神経網となって働き始めるのです。

『第三段階:計画書』日報の成長過程としては、この第三段階が重要です。計画書ですから、『次にどうするか』、『今後どう進めていくか』など未来のことを記入します。それに対して上司は行動する前にアドパイスすることができます。個々の商談において、その日の内容ももちろん記録するわけですが、それで次回はどうするのかという計画も必ず書くようにします。次にどうするのかを書こうと思えば、当然、その日の相手の反応や商談で引っ掛かった点などについても書いておかないと意味が通じません。

これによって、日報が、営業担当者が何をやったかを書くものから、顧客がどうだったのか、顧客が何と言ったのか、顧客の考えは何なのかを書くものに変わるわけです。営業担当者が何をしたかという行動記録は、1年後2年後に読み返したときには、何の価値もありません。しかし、顧客の情報や反応は数年後に過去からの経緯を見返すことで、顧客の考え・事情・判断基準をつかむことができます。だからこそ、情報がデジタル化ぎれ、ダムに貯められていくことに意味があるわけです。

同時に、次回予定や次にどういうアクションを起こすのかが把握できると、上司は具体的なアドバイスがしやすくなり、短期的な成果にもつながる運用ができるようになります。たとえば、『次回は競合商品との比較表をお持ちしようと思います』と書いてあったとすると、『だったら、○○さんの事例も一緒に紹介した方がいいな』とか、『そうするのであれば、競合比較の前に、ちゃんと座標軸を作る話をしておくように』といったアドバイスをすることができます。

営業の経験がある人は分かると思いますが、個々の顧客、個々の商談は千差万別で、定型的なアドバイスは役に立たないことが多いのです。しかし、現場で実際に顧客と会って話をした本人が次の一手を考えてアクションを起こそうとしていることが分かれば、上司は経験知によつて、『だったら……こうしてみては』、『そう進めたいのであれば……あれを忘れるな』といった一歩踏み込んだアドパイスが可能になるのです。これを実現するのが、計画書日報であり、成果につながり顧客を生むものであることから、『顧客創造日報』と私は呼んでいます。

『第四段階:情報共有』ここで意味する共有は、営業部署を超えた他部署との共有のことを指します。たとえば、顧客からの商品に対するクレームや使い勝手などに関する反応は、仕入れ部門や商品開発・製造部門の人たちにとっても貴重な情報です。しかし、これまでは、部署単位で情報がクローズドになっていることが多かったのが実状です。なぜなら、営業部門の日報を他部署が見て意見を言えるようになると、『こんな売り方しているから、せっかくの良い商品が売れないんだ』、『もっとこういうふうに提案すればいいのに』などといった指摘をされることがあるからです。

営業部門にとっては煩わしいばかりなので、『だったら見せたくない』、『勝手に見るな!』と情報を出したがらなくなるのです。けれども、実際には、戦略実行の最前線である営業現場には、部署を超えて共有すベき情報がたくさんあります。組織内の日報が全社に公開されることで、各社員がその情報を活用し、自身の疑似体験量を飛躍的に増加させることができます。

それは、組織全体に相乗効果を及ぽし、企業を大きく成長ざせてくれるでまた、属人的だった知識を社内共有することもできます。日報は社内のナレッジ・データベースとなり、業務上の知恵やノウ八ウが時間と場所を超えて共有されます。さらに、顧客の声を営業部門以外にも『見せる化』することで、全社営業体制の基盤を作ることもできます。情報共有が、行動管理のためではなく戦略実行のためであることを全社員が正しく認識しなければなりません。SFAは経営を可視化するツールだという発想が必要です。

『第五段階:先行支援』先行支援ツールとしての日報、これが目指すベきゴールです。まさにセールスフオースアシスタントとしての機能を持ちます。第四段階までで、顧客情報、案件などの見込み情報、過去からの商談履歴情報営業担当者の行動予定情報などが蓄積可能です。第五段階では、それらの情報を学習し、ヌケモレが生じていないか、そろそろアクションを起こすべき顧客や案件などはないか、次に為すベきアクションは何かといったことを、先行支援として自律的に示してくれます。『そろそろ、B社に訪問した方がいい』『今日の訪問先では過去のクレーム情報がありますから、確認しておきましょう』『前回はこういう理由で失注しているから、こういう提案をしてみたらどうでしょう』『来週、C社の創立記念日です、お祝いの連絡を入れてみたらどうでしょう』

営業担当者一人ひとりにAI秘書がつくイメージでアドバイスを得ることができます。貯まった情報をもとに営業サポートをしてくれるので、ごく普通の営業能力でも、普通に頑張っていれば、それなりの結果が出せるようになります。営業サポートの側面が強くなった第五段階での日報は、上司のためでもなく組織のためでもなく、営業担当者本人、自分自身のためのものとなります。そうなれば、誰もが積極的に正しい情報を入力しようという気持ちになるはずです」(120ページ)

営業担当者の活動状況を、上司が把握し、助言や支援を行うという活動は、論理的には書類によっても行うことができますが、現実には困難です。しかし、社内システムのSFAを使うことで、それを効率よく行うことができるよううになります。そして、その効果は、柳尾さんが示している通りです。ただし、ここで問題となるのは、上司が的確な指示や支援を行うことができるかどうかということです。上司が、部下たちの報告を読むことだけで精一杯になってしまったり、現場での経験が少ないため、部下に対して助言や支援ができなければ、SFAを導入しても、あまり意味がなくなってしまいます。

このようなことは、ときどき見られるのですが、システム導入で失敗してしまう原因は、システムが役に立たないのではなく、使う側のスキルの問題ということがあります。私は、情報システムを絶対視するつもりはありませんが、情報ツールの出現によって、それを使いこなせる会社とそうでない会社で、競争力が広がってしまうという面があるということに注意が必要です。もうひとつのポイントは、長尾さんが、「ごく普通の営業能力でも、普通に頑張っていれば、それなりの結果が出せるようになる」ということです。

すなわち、SFAによって、上司の助言や支援を受けることが容易になれば、経験の浅い部下でも、ある程度の成績をあげることができるようになるということです。これこそ、情報技術のすばらしさと言えるでしょう。かつては、営業マンを育成するには時間や労力が必要であったものの、現在は、数名の優秀な上司がいれば、そのスキルをSFAによって組織的に活用できるようになるということです。したがって、ライバルとの競争に優位に立つには、SFAの活用は避けることはできないと、私は考えています。


2025/3/28 No.3026