アスクル前社長の岩田彰一さんによれば、ベンチャーキャピタル(VC)を利用すれば、実績のない会社でも多額の資金を調達することが可能であるものの、いったん、VCから資金を調達すると、経営の自由度は低くなり、また、資金調達コストも高くなるので、自社の状況を十分に検討してから利用することが望ましいということです。
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今回も、前回に引き続き、アスクルの前社長の岩田彰一郎さんのご著書、「起業家になる前に知っておいてほしいこと-経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩田さんによれば、アスクルが、2017年に、埼玉県にある大型物流センターで大規模な火災が発生しましたが、火災後の初動を間違えずに、自社は加害者であると認識し、できる限りのことすベて迅速に行ったこと、事前にトラブルに対応できる社内のチームをつくっていたことから、災後の対応について一定の評価を得られたということについて説明しました。
これに続いて、岩田さんは、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達について述べておられます。「資金調達の形には、大きく分けて、エクイティとデットの2つがあります。エクイティとは『株主資本』のことで、自社の株式の一部をVCやエンジェル投資家などに分配することで資金を調達します。VCが出資する目的は、IPO(新規株式公開)やM&Aなとで値上がりした株式を売却して利益を得る、キャピタルゲインです。
一方、デットは『他人資本』、『負債』のことで、銀行からの借り入れや社債発行などによる資金調達です。創業から間もないスタートアップがデットで億単位の資金調達をするのは現実的ではありません。銀行は過去の実績を基準に融資を判断するので、実績のないスタートアップにはお金を貸してくれないからです。中小企業に優しい信用金庫や日本政策金融公庫などから惜りられたとしても数千万円程度です。
一方、VCやエンジェル投資家は『将来性』、『成長性』を基準に出資をするので大きく成長する見込みがあれば、実績がなくでも出資してくれる可能性があります。ただ、エンジェル投資家は個人投資家なので出会うのが難しく、また、私が経営しているフォース・マーケティングアンドマネージメントも同様ですが、出資するとしても資金が限られ、起業準備段階のシード期の出資が中心となります。
しかしVCなら、シード期でも数千万円、起業して事業が軌道に乗るまでのアーリーステージだと数億円を調達することも見込めます。複数のVCから調達できれば、数年間で10億円以上の資金を得ることも可能です。ですから、アーリーステージ以降に億単位の資金調達をするには、VCから調達するのが一般的です。しかし、VCから資金を調達した途端、経営者は重荷を背負いこむことになります。早期のIPOかM&Aを求められるからです。
しかも、ハイリターンを期待されます。業績が伸び悩めば、VCから厳しく追及されます。実際に事業をしているわけではない、現場を知らないVCの担当者から『ああしろ』、『こうしろ』と意見され、それを飲まなければならないこともあるでしょう。短期的な収益を求められた結果、本当はやりたくなかった事業をしなければならなくなった、という例もよく聞かれます。経営の自由度が下がり、自分の意志を貫く経営をし続けることが難しくなります。
また、上場の準備にもさまざまなコストがかかります。実は、他の資金調達手段と比ベると、ものすごく資本コストが高いのです。億単位の資金をVCから調達し、最初は喜んでいたものの、後からプレッシャーの重さに気づいて苦悩するスタートアップの経営者を、私はたくさん見てきました。さらに最近では、東証が上場基準を高くするという話が出ています。今後はさらにIPOが難しくなるので、出資先へのプレッシャーがさらに強まるかもしれません。
とはいえ、多くのベンチャー企業がVCから多額の資金調達をしています。自社も同じようにしないと、他のスタートアップや後発で参入してくる大企業に勝つのは厳しくなるかもしれません。もちろん、すベてのスタートアップにVCから声がかかるわけではありませんが、将来性の高い事業を手がけるスタートアップ経営者は、こうした悩みに直面する可能性があります。多額の資金調達と経営の自由度を両立させたいが、現実的には難しい。ならば、どういう選択をするか。そんな決断を迫られるのです」(174ページ)
岩田さんは、VCについて、「経営の自由度が下がる」、「資本コストが高い」という特徴をご指摘しておられます。これは、VCが、実績がない会社に対しても(とはいえ、将来性が見込むことができる会社に限られますが)、多額の資金を提供してくれることの見返りの特徴でもあるので、よいか悪いかではなく、会社のそれぞれの状況に応じて、判断すべきことだと思います。
そして、このVCの特徴の裏返しの特徴を持つ資金調達方法が、銀行からの融資です。すなわち、銀行は、実績のある会社に、限定的な金額の資金しか提供しませんが、調達コストは低く、経営の自由度も損なうことはありません。念のために説明すると、銀行も、「貴社の事業方針を変えなければ、融資を引き上げる」というような銀行の意向を融資相手の会社に伝え、それが、その会社の経営判断に大きな影響を与えることはあります。しかし、銀行は、あくまで部外者の立場です。
一方、VCは、資金の提供を受けた会社の株主であり、議決権を持っています。場合によっては、社長を解任することもできるので、銀行と比較して、圧倒的な影響力を持っています。話をもどすと、VCと比較すると、銀行からの融資は容易であるということがご理解できると思います。というのも、VCは実績のない会社に多額の資金を提供することがあるとはいえ、それは、資金提供を受ける会社が説得力のある説明を行うことが前提です。
一方、銀行、特に地域金融機関では、それほど詳細な説明がなくても融資に応じてくれることが多いです。そして、日本の会社のうち、年商10億円未満の会社が約90%、年商1億円未満の会社が約50%と言われていますので、ほとんどの会社は、VCを利用せず、銀行からの融資だけで十分資金調達が可能です。とはいえ、多くの中小企業経営者の方は、「銀行は希望通りの金額の融資に応じてくれない」、「融資を受けようとすると、たくさんの資料の提出を要求される」と不満をお持ちだと思います。しかし、それらは、資金調達コストの低さや、経営の自由度が高いという条件を考えれば、納得できる範囲のものではないかと思います。
2026/4/12 No.3406




