【合理化と言う名の人手不足・えきねっと不便・ネット予約なのに何故か紙のきっぷが必要?MV操作が難しい・ある程度使い方を知る必要があるチケットレス】JRが「みどり窓口」を減らす理由

 
 
↑JR各社は近年有人のきっぷうりばである「みどりの窓口」を大幅に減らしている。JR東日本の場合、2021年には440駅あったが2025年には140駅程度に減らす。JR西日本も2020年には340駅あったが2030年には30駅程度に減らす。JR西日本はこれとは別に簡易委託駅の全廃もこの頃までに行う方針である。他のJR他社も同様の傾向で、中にはJR九州のように形式的にはみどりの窓口を存続しているが、営業時間が12時00分~15時00までと言ったような極端なものも出現している。
写真はJR東海の掛川駅(北側の木造駅舎側)改札口だが、左側には今でもしっかりとみどりの窓口がある。但しJR東海はそのようには言わず、「JR全線きっぷうりば」と称する。この記事では便宜上全て「みどりの窓口」に言い方を統一する。
 

【JR各社がみどりの窓口を減らす理由】

 
ズバリこれは合理化と言う名の人手不足への対応である。例えばJR東日本(本体)の社員数を見ればわかるが、2005年には約7万人居たのが、2023年には5万人を切っている。20年で社員数が2万人(率にして約3割)も減っている。同社への入社人数は毎年1500人前後なので、退職者が圧倒的に多い。その理由は人数が多かった国鉄時代入社組が定年を迎えた事、昔とは違い今は少ない人数で鉄道運営できる点が大きい。
退職者数=入社数を同じにすれば良いが、その気はないようだ。表向きでは少子高齢化で「なり手が居ない」と言われるが、少なくてもプロ職(現場の駅員や乗務員)に限って言えば、今でも狭き門である事は間違えなく、中途採用を行えば競争倍率が20~30倍に跳ね上がるのもザラにある。乱暴な言い方をすれば、入社希望者全員を採用して入社させれば、JRプロ職における人手不足そのものはありえないはずだ。
しかし、実際にはそうにはいかない。「適性」と言うのが非常に重要視されるもので、「クレペリン検査」はおなじみ。この結果が悪ければ頭が良くてもそもそも入社出来ないし、運転業務にも従事できない(運転士は3年に1度クレペリン検査実施が国から義務付けられている)。要するに「厳選採用」である。
さらに鉄道運営は「少数精鋭」が可能になったので(ワンマン運転化、駅員自体が要らない駅運営、線路設備の維持管理は外注化、昔は人がやっていたのが今は全部機械で出来てしまう等)、そもそも多く人をいる必要がなくなった。
当然だが、自己都合による退職者も少なくない。ブラック企業状態のJR北海道のように離職率が約3割もある所もあれば、逆にJR東海のようにそれが1%しかない所までさまざま。その理由については述べない。
 
みどりの窓口は「待ち仕事」である。お客が来なければ仕事がない。その間は別の業務をやるわけでもなく、単に待っているだけの事が多い。駅形態や利用実態によっては大きな乖離があるが、これが経営者にとっては「生産性が無い」と判断しても仕方ない。今の仕事は(どんな職業であろうが)「止まることなくとにかく動き回れ!無駄を徹底排除!余計な事はやるな!生産性向上だ!」と言う風土である。「タイパ」(タイムパフォーマンス)とも言われるが、「待ち仕事」自体が”時代錯誤”とも言える背景なのは忘れてはならない。
「1人の駅員でいろいろ作業させたい」と言うのは言うまでもない狙いで、JR発足後(平成初期頃から)「合理化」と言う名の下で駅員はいろんな事をやらないといけなくなった。それが今や「人手不足」と表現される後味の悪い事になっている。今や1人で窓口、改札、列車監視、地元企業や学校への営業活動等マルチスキルが求められるようになる。これが国鉄の頃だったら「窓口専業」「改札専業」と言うのがまかり通ったが、今や通用しない。1人勤務の駅も増えて、そうなれば全ての事を1人でやらないといけなくなった(特にJR東海の業務委託駅)。
そこに来て団塊世代の大量退職→国鉄入社組の大量退職と来た。JRは新たな新規補充は実施せず、人手不足の状態で駅運営を維持させようとした。そうなれば無人駅が出るのも仕方ない。でも今やネット社会。これを活用しない手はない。
今まで人が販売していたきっぷは、基本的な乗車券はSuica等のICカードに変わり、指定席券は駅の券売機やネットで買えるようにした。そうなるとどうだろうか?お客は自ずとSuicaやネットの方に流れる。きっぷの発券が必要であっても、窓口でやる必要性も無くなり券売機だけで完結できる。そうなればみどりの窓口そのものを使わなくなる。みどりの窓口の利用が低くなれば「利用者が少ないので閉鎖」と言うのも当然な経営判断と言える。
・・・↑とこれが実態であるが、それでも多くの「矛盾」を抱えている。「みどりの窓口が少なくなって不便!」と言う人は、以下の「矛盾」が許されないためだろう。
 

【矛盾①えきねっと(ネット予約)がそもそも不便だし使えない】

 
↑えきねっとで購入した「週末パス」。大前提として「えきねっと」を使うには会員登録しないといけない。これが東武特急や近鉄特急のように「会員登録不要でも特急券が買える」サービスとの決定的な違い。後者ならばネット接続出来る人ならばクレジットカードさえあれば概ね買う事は出来る。だが「えきねっと」は会員登録と言う面倒くさい作業がある。年会費や登録料は無料だが、JRを使う人が多い人ならまだしも、「数年に1回しかJRは使わない」と言う人になればそれは全く意味がない作業だ。それだったら「駅で買っても一緒だろ!」と言われても仕方ない。
基本的にはクレジットカード支払いなので(一応コンビニや駅での現金払いも出来る)、クレジットカードを持てない・持たない人(18歳以下、現金主義者・ブラックリスト登録など)にとっては不利である。スマホが普及しているので今や極めて少数だが、そもそもインターネットに接続出来ない(使い方を知らない、スマホやパソコンを持った事がない・持ちたくない・持てない)人は最初から「蚊帳の外」である。
「えきねっと」ログイン後の操作がやりやすいか?と言われるとこれが非常にわかりにくい。「スマートEX」や「e5489」ではそうには感じないが(個人の感想)、「えきねっと」は日付・駅名入力後、検索結果表示までの時間がかかり過ぎるし(動作も重いし)、「1本後の列車」と言う選択をしたいときに次の列車にスラスラと転移できない。「えきねっとの不便さ」は他にも山ほどあるが、ユーザー目線で設計されたシステムとは言えない。そうなればお客だって使おうとはしない。こんなのはソフトウェアを変えれば済む話なのに(カネはかかるが)、なぜそれをスグにやらないのか?JR東日本の姿勢が問われている。
 

【矛盾②ネット予約したのに何故か紙のきっぷに発券しないといけない】

ネット予約して、決済もクレジットカードならば、実際に乗車する時はスマホを改札機にタッチするか、有人改札で画面を見せるだけ・・・とはなっていない。何故か紙のきっぷを発券しないいけない。「ネット予約しているのに何故紙でないと乗れないんだ?」と言う理屈は到底理解できない。この辺は九州で大きな問題になったが、抜本的な解決には至っていない。
理由を説明すると長くなるので省略するが、スマホの画面をタッチ(または見せる・QRコードをスキャン)するだけで乗れるようにしないとこの矛盾と言うか「いらだち」は解決しない。自動改札機を通さなければ良い問題で、「画面を見せるだけ」であれば一部のMaSSアプリ(WESTERbyTabiwa等)で既に実装済みである。そういう柔軟な運用を考えてほしい。
 

【矛盾③券売機(MV)の操作が難しいし買えないきっぷが存在する】

 
 
↑では指定席自動券売機(MV)だったら「どんなきっぷでも買えるか?」と言うとそうではない。買えないきっぷが目立つ。例えば一筆書き乗車券、経路が複雑な乗車券、単発的に運転する臨時列車の指定席券、寝台特急サンライズ出雲・サンライズ瀬戸のきっぷ、私鉄との連絡きっぷ、芝居・舞台・テーマパーク等の入場引換券、一部のお得なきっぷ(金額0円の指定席券発行のタイプなど)、障がい者割引、ジパング俱楽部、団体乗車券など。その逆に払い戻し(但し2024年4月から出来るようになった模様)、乗車変更は後術のAMV型のオペレーター対応以外は出来ない。
あくまでもMVは「定番商品」だけで、例えば新宿→甲府の特急かいじ××号の指定席特急券とか、単純な片道(往復)乗車券・名前の知れたお得なきっぷ(18きっぷ等)に限られる。えげつないものだとJR東海静岡駅のMVでお得なきっぷを選択すると、日付を聞かれた後に強制的に「休日乗り放題きっぷ」に誘導するものもあったりする。これはお得な商品がこれしかないためである。少なくても同駅のMVで静岡~東京の新幹線自由席回数券は買う事が出来なかった(窓口のみでの販売)。結局はみどりの窓口でないと販売出来ないきっぷも一定数存在するため、MVが万能とは言えない。
 
さらには操作が難しい。鉄道マニアの私でさえも「う~ん」と頭を抱える事も珍しくない。最初のトップ画面でどこを押してスタートしたら良いかわからない。「指定席」「自由席」「時刻表検索」などの大きな括りはあるが、そもそも指定席や自由席の意味が分からない人(滅多にJRは使わないし、そもそも鉄道が嫌い)もいれば、漠然と「特急かいじ××号のきっぷ」としか考えない人も多いので「??」となってしまう。駅によっては操作方法が券売機横に設置の場合やJR各社のHPに記載はあるが、そういう駅は全国的少ないしHPを見てでも買うお客はかなり少ない(そこまで熱心にきっぷを買いたいのは鉄道マニアだけ)。結局は駅員を呼び出して直接聞くか、操作してもらうかのどちらかである。
 
最近はアシストマルス(AMV)と言うものもある。各社愛称が違っており、JR北海道は「話せる券売機」、JR東日本は「話せる指定席券売機」、JR東海は「サポート付き指定席券売機」、JR西日本や四国は「みどりの券売機プラス」、JR九州は「なんでも私に聞いてください!ど~ぞ」と言う意味不明な名前もあったりする。
どの社もこれを積極的に入れており、「有人窓口の事実上の代替手段」とアピールしている。駅によってはAMV=無人駅化したケースも少なくない(例えばJR東海の稲沢駅など)。お客がタッチパネル操作できっぷを買う事も可能であるが、「オペレーターを呼び出す」と言うボタンを押すと券売機の画面にオペレーターが映し出されて、話ながらきっぷを買う事が出来る。
その仕組みは、ある1か所の事務所に専属のオペレーターを配置し遠隔操作で対応するもの。業務委託の事が多く(直営ではない)、JR四国のように自社ではやらずJR西日本に丸投げと言う事もある。オペレーター対応ならば「一応ほぼ全てのきっぷが買える」事になっている。
しかし、輸送障害による払い戻し・変更等で対応出来ない事もあり、そうなれば「近隣のみどりの窓口でやる」となる。面倒だ。その駅から近隣のみどりの窓口がある駅まではタダで行けるきっぷを発行する(JR西日本)、一度正規の運賃を支払いみどりの窓口でその分を返金(JR東日本)と対応もさまざま。
AMVの評判は良くない。まず待ち時間が長い事。複数の駅から呼び出しがかかっており、待ち人数・待ち時間が表示されるが、その数が多い事も珍しくない。オペレーターが現れるまでに30~60分もかかったという事はザラにある。そんなに待っていられないのである。
オペレーターがその駅付近の地理に必ずしも詳しいとは限らない。JR四国の場合、JR西日本に委託していると前述したがではどこで?となるとそれは大阪。業務知識としては四国に限らずどこに何線が走っていてどんな特急があるのか?と言うのは知っているはずだが、「大浦」とか「中田」と言うローカルな駅名を言われた所で何県何市にあるのか?と言った細かい所までは知っていない。四国特有のローカルルールとかお得なきっぷの情報も持ち合わせていない事が多い。そのため、「定番商品」だけの案内(発売)とするだけとして、実際に利用する経路が実はお得なきっぷの方が安かったとしても、それは最初から案内しないとしている。
 

【矛盾④ある程度使い方を知る必要があるチケットレス】

 
 
JR東日本管内のチケットレス対応の特急券はえきねっとから買える。Yahoo!乗換案内アプリからもリンクが飛んでいるので購入は可能(要えきねっと会員・要ログイン)。駅で紙のきっぷを発券しない場合は定価から100円引きである。これがe5489だと200円引き(JR西日本のクレジットカードを持っていると最大640円程度安くなるがここでは詳細は述べない)。
チケットレス特急券は必ずしも割引があるのかと言うとそうでもない。JR北海道、東武特急、近鉄特急では定価が基本だ。あくまでも特急券なので乗車券が別に必要。概ねSuica等のICカードが使えるのでそれで代用するのが一般的である。
新幹線になると事実上1つに完結していて、スマートEXだと自分が持っているICカード(事前に登録が必要)を新幹線改札口にタッチすればそれで終わりである。いろいろと割引もあったりする。えげつないものだと静岡~東京の自由席利用でも定価の450円引き(1日前までに購入等の諸条件はあるにしても)もあったりする。今まで新幹線・特急の自由席利用(お得なきっぷを除く)で割引すること自体がなかったので、これは相当画期的だ。
しかし、チケットレス特急券を使いこなすには「ある程度使い方を知っている」必要がある。それを何も知らない人が使うのは過酷である。私だって飛行機のチケットレス利用の方法は正直言って知らない。
 

【まとめ】

 
以上の事が主な理由であるが、MV(AMV)やチケットレス推進によってお客も「使い方を知る必要がある」のだ。「一見さん」が使うにはあまりにもハードルが高い
JR西日本は表向きでは「グランドサービスの向上」と称しているが、要は案内係を現場に多く配置して、案内が必要なお客に対しては個別にじっくり説明するが、そうではないお客には案内しない(悪く言えば「検索すればわかるでしょ」的な感覚)対応に移行している。その表れが車内放送でJR東海や西日本の列車内では、乗り換え駅で乗り換え列車の時刻と発車番線を車窓が放送する事は消えた。「ネットで調べてくれ」である。「ネットが出来ないならば社員が直接教える」としている。鉄道業界全体がこういう動きで、昔は定期券利用客が「お得意さん」であったが、今はそれに加えて自社のネットサービス利用者も「お得意さん」。ある意味「お得意さん」に磨きをかけたと言えばそれまでだが、「一見さん」に対しては昔以上に冷たくなる印象があると言わざるを得ない。