JR東日本 支社廃止と事業本部化

 

JR東日本は2026年7月1日付の組織改正で「支社」を廃止する。現行の支社に相当するものとして「事業本部」を管内で36ヶ所も立ち上げる。同社は2022年以降、組織改正を繰り返しており国鉄由来の「電車区」や「車掌区」は2025年3月までに全廃した。そこには「統括センター」と称する現業機関が各地で発足したが、この統括センターも現在進行形で細々と変化を続ける。毎年のように組織改正が繰り返されるため、毎年のように社員の肩書・部署名・名刺・名札等が変わっており、「外の人」からみれば(「中の人」も同じかと思う)コロコロ変わりすぎの印象を持つ。日本国有鉄道発足から75年にわたり「鉄道管理局」→「支社」と言う変遷はあったものの組織体系自体が根本的に変わる。今のJR東日本の現業機関(主に駅と乗務員)はどうなっているのか?簡単にまとめてみたい。

 

JR東日本グループのさらなる飛躍に向けた新たな組織と働き方

 

↑まずはこちらを参照されたい。現段階(2025年5月18日時点)では未公表の所もあるため「外の人」にもわかるようになるのは「事業本部」発足後となろう。

 

【国鉄時代から「駅」・「運転士」「車掌」でそもそも所属職場が違った】

我々利用者が鉄道を利用するにあたり、「駅」には”駅員”が居て(無人駅も一定数存在するがここでは”駅員”が居るとして話を進める)、「列車」には”運転士”と”車掌”が居る(これもワンマン運転で”車掌が居ない”と言うツッコミも聞こえるがここでも”運転士”と”車掌”は居るとして話を進める)。では”駅員”や”運転士”や”車掌”は同じ職場の所属だろうか?

答えは昔はNOであった。だが今はYESである(JR東日本の場合は。他社の場合はNOの事も多いが個別の事例を述べると長くなるので省略する)。この点が今回ブログの根幹的な所になる。

会社組織として見たときに現業機関の社員は「鉄道事業本部」と称する”大きな部”に属する(この呼び名も社によって差異がある)。そこから枝分かれし一旦「支社」になった上で(これが「大きな部門」)、「運輸」「輸送」「指令」「電気」「保線」「駅」「営業」等の現場組織へ細分化する。つまり「列車」を動かすには複数の部署が協力して動かしているのだ。実際には子会社・パートナー会社にも細分化されるため人数としてはもっと多くなる。

JR東日本は単体ベースでも社員数5万人居る。これだけ多ければ同じ会社の中でも部署や地域が違えば「知らない人」も一定数居る。そのため「中の人」であっても初めて会う人に対して最初にやるのは「名刺交換」からだと言う。普通は他社(つまり「外の人」)に対して行うものである。この文化は「外の人」から見れば驚く人が多いと言う。

「駅」と言っても所属社員全員の顔と名前を覚えているのか?と言うとそうでもないようだ。社員数が数名から10~20名程度だったらまだしも、新宿駅のように500名前後も居る駅では流石に厳しいだろう。しかも入れ替わりも激しいため(つまり人事異動が多いため)覚えた頃には居なくなっていたという事もある。

これは「列車」の”運転士”と”車掌”も同様である。職場そのものが違っていたり、中には他社の社員だったという事もある(これはJR他社からの越境乗務があった時代。今はほぼ全廃となっている)。”運転士”の立場で言うと”車掌”が何処の誰か?不明な事も少なくない。JR東海のように途中駅で乗務交代があった時点で車内電話で所属と氏名を名乗る事は案外少なく、そもそも乗務交代の有無さえも分からなかった事もある。車内電話で”車掌”と連絡が必要な場合、呼び出し方法は「車掌さん」から始まる。個別の氏名にはなっていない。

 

【運転士+車掌=運輸区】

意外にもそうなったのはJR発足後ある。JR東日本やJR東海の場合は「運輸区」、JR西日本の場合は「列車区」と称する。とは言っても必ずしも全てとは限らず、首都圏を中心に運転士のみの「電車区」、車掌のみの「車掌区」も一定数残ったが、基本的には「運輸区」で一本化された。JR東海のように運輸区で統一された会社は案外少ない。JR西日本では列車区は少数派で、電車区、運転区、運転所、車掌区、車掌所、鉄道部等になっている。JR三島もJR西日本に準じた形態の事が多い(但し名称は各社異なる)。

JR東日本では平成初期から令和に入るまで「運輸区」が30年近くも続いた。基本的には在来線乗務員の職場であるが(新幹線専属の場合は「新幹線運輸区」と称する)、中には長野総合運輸区のように新幹線と在来線を兼務する職場もあった。また小海線のような地方路線単独で運営する職場については「営業所」になった。2019年以降は社員の働き方改革や会社方針の変更(詳細の説明は省く)等により現業機関そのものを改変した。

 

【駅+運輸区=統括センター】

2022年以降「統括センター」が発足した。これには2形態あり、単に統括センターは駅員+乗務員の所属があるが、これが営業統括センターになると駅員のみの所属となる。この変遷については”複雑の極み”である。例題として八王子支社の山梨統括センターと横浜支社の湘南・相模統括センターについて簡単に説明する。

 

【山梨統括センター】

元となったのは甲府営業統括センターと大月営業統括センターの発足である。2022年3月の事である。管轄範囲は前者が中央東線の甲府、竜王、韮崎、日野春、小淵沢の各駅。後者が中央東線の大月、塩山の各駅である。記載の無い駅(例えば山梨市や石和温泉)は業務委託駅(JR東日本ステーションサービスが受託)か無人駅である。この時点で乗務員組織(甲府運輸区)は変更無し。

2023年3月に甲府営業統括センター+甲府運輸区=甲府統括センターが発足した。細かい事を言うと一応「駅務」と「乗務」は別の部署とされ、前者は「駅業務ユニット」(後術も参照)、後者は「乗務ユニット」と称する。但し実際の業務は1日目は運転士、2日目は車掌、3日目は駅窓口、4日目は事務所で事務仕事という事はあるようだ。マルチタスク化を図っている。

2025年3月に甲府統括センター+大月営業統括センター=山梨統括センターが発足した。つまり山梨県内に2つあった(営業)統括センターを1つに集約した格好で3年で3回も組織改正を行っている。これだと「外の人」から「コロコロ変わりすぎ」と言われても仕方ない。

まだこれでは終わらず、来年2026年7月1日付で名前が「山梨事業本部」に変わる予定だ。現行の山梨統括センターとの違いは担当区間が山梨県内全線全区間(他社管内は除く)になる事で、現行は長野支社管轄の小海線小淵沢~清里間も移管される。

 

【中野統括センター】駅員や乗務員などJR東日本で働く鉄道員のお仕事体験!中野区のふるさと納税返礼品 | JRE MALL Media

 

↑これは参考だが、八王子支社の中野統括センター(旧中野営業統括センター+旧中野電車区+旧中野車掌区)は2024年10月1日に発足した。中野統括センター中野南乗務ユニット(旧中野電車区・運転士のみの職場)において乗務中に体調不良になる社員が多発した。俗に「中電病」とも称するようだが(ここで言う「中電」とは中野電車区の略。中央線快速電車・中距離電車・中部電力・中国電力の略ではない)この点は述べない。

上記リンクの中野統括センターの仕事体験が出来るふるさと納税の返礼品の説明で、駅業務の組織名は「駅業務ユニット」と称する。一般的な会社で言う「〇〇課」に相当する。本来ならば駅職場と乗務員職場は別で人事異動が発生するものであったが、統括センターになった事で人事異動そのものが発生しなくなった。例えば中野南乗務ユニット所属でありながらも、1日目は電車の運転、2日目は電車の車掌、3日目は駅で改札、4日目は事務…と言うようにローテーションされている(午前は車掌、午後は事務という事もあるようだ)。

形式的に乗務ユニットの所属なだけで、運転士は当然動力車免許が必要なので、その資格を保有している”示し”のためにあえて乗務ユニットの所属にしているのかと思う。JR東日本は2019年に制服変更を実施したが、その際に名札から「運転士」「車掌」と言う役職名自体の記載が無いため、ハタから見てこの人が本当に動力車免許を持っているのかわからない。

そのため実際には「駅業務ユニット」と「乗務ユニット」は隔たりなく日々の業務が行われており、動力車免許保有者ならば「駅業務ユニット」所属だからと言って電車を運転しないわけでもないと思われる。

何が言いたいのかと言うと、駅務に関しては「駅業務ユニット」と称すると述べたいのだ。

 

【湘南・相模統括センター】

山梨統括センターよりもやや複雑なのが「湘南・相模統括センター」である。まず組織名に2つの地名を使っている事、間に「・」で区切っているので「外の人」から見れば余計に覚えにくい。

変遷としては、2022年3月に藤沢、茅ヶ崎、平塚等の東海道線・海老名等の相模線の直営駅と相模線の乗務員組織だった茅ヶ崎運輸区を合併して発足。この際乗務員組織は単に「乗務ユニット」だった。また東海道線を担当する国府津運輸区は存続となった。

2024年10月に国府津駅が範囲に加わった。国府津駅は小田原・伊豆統括センターの管理であったが同センターから移管された格好。同時に国府津運輸区と合併し湘南・相模統括センターの中に入った。そうなると乗務ユニットは2つある事になる。担当路線が違うため、旧国府津運輸区は「国府津乗務ユニット」、旧茅ヶ崎運輸区は「相模乗務ユニット」になった。

首都圏では1つの統括センターに2つないし3つの乗務ユニットを抱えている事があり、その場合は路線名や地名を頭に付ける。

2026年7月1日付の組織改正では湘南・相模統括センター+小田原・伊豆統括センターが合併し「湘南伊豆事業本部」になる予定だ。駅間で言えば東海道線と伊東線の藤沢~伊東、相模線が管轄となる。

 

【オフィス・ユニット・リーダー】

「オフィス」とは統括センター内で組織が細分化した場合に充てられる。例えば川崎統括センターの場合、旧鶴見線営業所と合併したがそちらは「鶴見線オフィス」と称するようになった。
「ユニット」とは一般企業で言う「○○課」に相当するもの(詳細は前述した)。各部署の責任者は「〇〇(役職名)リーダー」と名乗る。 つまりカタカナ表記に変わったのだ。
この辺は上記リンクを見ればわかるが、恐ろしいほどカタカナ文字が並んでいる。例えばトッププライオリティ(最優先事項)、ステップアップルート(出世昇進順路)、モビリティ(交通機関)、オペレーション(日々の業務内容)、マーケティングターゲット(営業目標)等。JRグループのプレスリリースでここまでカタカナ文字を並べてくるのは今の所JR東日本くらいである。JR北海道みたいに第一四半期を「1Q」(ファーストクオーター)称している事もあったりする。今まで漢字表現だったのを「国際化」等と称してカタカナ文字を山のように使っている時世である。今や「会議」なんて言わない。「ミーティング」(MTと略す事がある)と称するのが当たり前になったし、JR東日本も社内的には「ミーティング」と称するようだ。 基本的な役職名については漢字表記ではなく、カタカナ文字にしている時点で漢字表現しかなかったお役所由来の国鉄→JRとしては衝撃的な変化だと個人的には思う。

 

【「支社」を廃止して「事業本部」になる】

概ね都県単位を管轄する組織として「支社」があった。これはJR各社の特色で「支社」が違えばたとえ同じ会社でもやっている事がまるっきり正反対の事も珍しくなかった。最もわかりやすいのは放送文面であるが、JR東日本だと基本は同じ大勢でも支社により駅名標のデザインに差異が目立った。さらに2021年頃まで各支社独自にHPを持っていたため、ローカルな情報を掴みにくかった所もあった。前述の統括センターは上部組織としては支社であり、支社が統括センターを管理する図式であった。

これを2026年7月1日付で現行の支社を”分割改組”する(「支社」は廃止する)。実質的には統括センターの中に支社機能を有している感じだ。この組織名を「事業本部」と称するここの看板まではカタカナ文字ではなかった。流石に地名はカタカナ文字には出来ないので、「事業本部」の部分を例えば「セクション」、「グループ」、「エリア」、「ディスクリクト」、「ゾーン」等には何故かならず。漢字表現になっているので統一感は無い。面白い、支離滅裂と言うか。鉄道マニア諸氏も「事業本部」たる組織は現時点ではイメージ出来ないだろうし(私もそうだ)、「中の人」でさえも大半はそうだろう。要するに”JR西日本の「鉄道部」の規模を大きくした組織”と解釈した方がわかりやすいかもしれない。

 

基本的には都県単位で1つの事業本部とする。青森、秋田、盛岡(岩手)、仙台(宮城)、栃木、群馬、山梨がそれに相当する。長野県や新潟県のように面積が広い県、福島県や山形県のように地域によって極端に運行系統が異なる県は2つの事業本部になる。

非常に複雑なのが首都圏で、例えば山手線内だけに6つも事業本部がある。管轄範囲が極端に狭い事業本部(例えば渋谷事業本部のように山手線の大崎~原宿間のみ担当)も存在する。それは利用動向や営業(収益)目標に従った組織編成かと思われる。その点に変動があった場合はさらなる組織改正(事業本部の合併や分離等)も容易に予想できる。

 

ここで気になるのが現在の東北本部の立ち位置である。歴史をたどると仙台支社→東北地域本社と言う変遷を持ち、地方組織の割には優遇されていた。単純に管轄距離数だけで言ってしまえば900キロ程度はある。それもそのはずで宮城県ほぼ全域(気仙沼地域を除く)、山形県置賜地方、福島県中通りと会津が管轄範囲なのでそれくらいの距離になる。それが東北本部から分割改組したとしても事実上の母体後継組織は「仙台事業本部」となるので”優遇”は続くのか?

単純な社員数や車両数等は近隣の事業本部と比べれば大きくなるのだろうが、形式的には他と大差がない。これがどうなるのか?は発足後でないと「外の人」にはわからない。

 

【車両の配置は現段階(2025年5月18日時点)では不明】

皆様気になるこの話題であるが、現段階では不明である。現状は首都圏本部が旧東京、横浜、千葉、大宮、八王子、長野、水戸、高崎の各支社の車両を管理している。東北本部が旧仙台、秋田の各支社の車両を管理している。新潟支社だけはどちらにも属さず単独で車両を管理している。流石に所属車庫の変更は実施しないと思うが

①車両管理は最寄りの事業本部に移管するのか

②地域で1つの事業本部が代表して管理するのか(現行の首都圏本部・東北本部とほぼ同じ)

③それとも本社のモビリティ本部直轄で管理するのか(事業本部にはやらせない)

のいずれだろう。

但し現行では「都コツ」とか「北アキ」のような車両表記が無いため(既存の表記は消去している)、事業本部ごとに「都」「北」のような漢字が充てられる事はなくなるだろう。これは国鉄時代からの伝統であったが遂に消滅し始めるのかもしれない。今や車両は「1両単位」ではなく「編成単位」での管理のため、前者が前提のこの表記は現状合致していない。この点はJR東海も同様で廃車まで1年程度しかなかった211系でさえも積極的に消去したのが記憶に新しい。

 

【まとめ】

と簡単に述べたが、 「外の人」から見れば複雑である。まさか「支社」を廃止するとは思いもしなかった。中にはJR西日本のように支社は残しておきながらも規模としては極めて小さく(例えば山陰支社の場合は社員数が20名程度しかいない)、近畿統括本部や中国統括本部のような大きな組織を作ってそれが既存の支社機能をカバーする体制になっている。JR東日本もこの点は意識したのかもしれないが、上記リンクを見る限りはJR西日本の統括本部とは逆である。
他社も追随するかどうかは不明だが、経営環境が激変する2020年代は大規模な組織改正が実施されても何ら不思議な事ではない。

 

JR東日本 支社廃止と事業本部化