Man is what he reads. -2ページ目

神々の山嶺

 山に関する本が好きだ。とりわけヒマラヤやアルプスといった高峰登山に関わるものがいい。山岳小説、ライターによるルポ、そして登山家自身による記録。様々な形態のものを読んできた。

 

 高峰登山には、面白い読み物の要素が溢れている。

 例えば、対照。人と何か、人と人。比較することで、それら比べられているものの輪郭が際立つ。輪郭が明瞭になることで、その内部に目を向けられるようになり、細かい描写が可能となる。細かい描写は、読者の想像力を刺激し、比較対象の間にある隔たりを実感させる。隔たりとは、ギャップのことである。


 虚空に向かってそびえる巨大な塊。岩と氷と雪。高峰が連なる山脈は、ただ風のみが通過を許された世界だ。そこをよじ登ろうとするクライマーは、ただの黒い点でしかない。物言わぬ巨大な塊と物思う小さな存在との対峙。まさに対照である。そして、そのちっぽけな存在が頂上に立つとき、読者の意識の中で両者の隔たりは最大になる。非日常の出来事は、起ったときにこそ、その非日常性を実感するものだ。近年は、無酸素、単独、厳冬期とクライマーを死に誘う形容詞無しでは高峰登山が成り立たなくなっており、そのギャップは益々大きなものになっている。


 しかしながら、登山読み物の面白さ、その本質は人間と山との間には無い。人間そのものにあると私は考える。

 高峰のような極限の環境においては、人間が人間である理由、それ自体に向き合わざるを得ない。

 人間が人間である理由とは何か。デカルトは、「われ思う、故にわれ在り」と言った。

 人が何かを思う時、本能だけでなく様々な感情が混ざる。感情には、瞬間的なものよりも積み重ねてきたものが反映される。刹那の感情も、私たちが日々を送る中で重ねた経験から生まれる。われ思う時、その足元には当人の人生そのものが横たわっているのだ。故に人の思いはどろどろと粘り気のあるものになり、それを感じ取った他者の心にまとわりつく。身体にへばりつく、雨後の衣服のような感覚を覚えながらも、私たちはその思いを否定できない。それが人間そのものだからだ。


 高峰を登攀する登山家は、デカルトの言う人間そのものである。日中は死と隣合わせに稜線を漸進し、岩壁を攀じ登る。夜は、冷たく閉ざされたテントの中で風の音に怯えながら、自らの内から湧き上がる感情、思いと向き合う、そんな環境に進んで身を向ける登山家とは─。


 無論、当人でなければその真意を知ることはできない。しかし、綿密な取材と人間観察、精密な描写力に基づく本たちによって、他者はその辺縁に触れることができる。そして彼らを通じて、人間が人間である故を感じるのだ。


 実は、私は登山をやらない。そんな私を登山家に惹きつけた本たち。

 どれも面白いが、特に夢枕獏氏の「神々の山嶺」はお勧めだ。


 20世紀初頭、世界初のエベレスト登頂を目指し、8000mを超えた先に消えた英国人登山家ジョージ・マロリー。彼が初登頂したか否かは未だに論議されている。物語は、山岳カメラマンである深町誠が、ネパールでマロリーが所有していたものと思われるカメラを偶然手にするところから始まる。山岳史最大の謎を解く鍵を巡って、錯綜する人間の企み、そこに現れた伝説の登山家羽生丈二。彼もまた、エベレストに取りつかれていた。彼を掻き立てる好敵手長谷恒雄。一匹狼で、変わり者と揶揄される羽生。爽やかな人柄で周囲を惹きつける長谷。大きな挫折をし、表舞台から姿を消した羽生と舞台で輝き続ける長谷。どちらも伝説的クライマーだが、対照的な人間だ。マロリーの謎解きとエベレスト登頂という二つの勲章を巡って、複雑に絡み合う心のうねり─。


 名作である。


神々の山嶺(上) (集英社文庫)/夢枕 獏
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狼は帰らず―アルピニスト・森田勝の生と死 (中公文庫)/佐瀬 稔
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長谷川恒男 虚空の登攀者 (中公文庫)/佐瀬 稔
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神々の山嶺 1 (集英社文庫―コミック版 (た66-1))/谷口 ジロー

中国・インドの戦略的意味

中国・インドの戦略的意味―グローバル企業戦略の再構築/アニル・K. グプタ
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Getting China and India Right: Strategies for L.../Anil K. Gupta
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グローバル市場でのプレゼンス獲得を目指す多国籍業を対象に、その目標に対する中国とインドの戦略的意味について述べた本である。




 著者は、多くのグローバル企業が両国の戦略的意味について、以下のような誤った認識をしていると指摘する。



1、単なるオフショアリング先とみなしていること。

2、単なるコスト削減ツールだとみなしていること。

3、5%~10%の高所得者に絞ったマーケティングをしていること。

 

 これらの認識を改め、中国・インド発のイノベーションにより、両国市場のみならず、グローバル市場全体でシェアを獲得してゆくべきだというのが著者の提案である。先進国で開発し、各地域向けにカスタマイズしてグローバルに販売するグローカリゼーションだけでは生き残れないという訳だ。



 その理由として、著者は中国とインドに共通する4つの事実を示している。


 中国とインドは、その人口規模から、


  1、ほぼ全ての製品とサービスにとって最も巨大な市場であり、かつ幅広い価格帯を

   持つ。

2、安い労働力を供給し続け、高いコスト効率性を長期間にわたってもたらす。

3、大量の大卒もしくは院卒学生の供給により、企業の技術革新を促進する。

4、上記3点から、ハイクオリティかつリーズナブルな製品・サービスを供給する

  新たな競争相手を産み出す可能性がある。

 

 つまり、巨大な市場だが、安い単価という制約条件がある。もちろん、独自のニーズの存在も無視できない。一方で、現地の生活者である、安価な高度知識人材が大量に存在する。



これらが中国とインドに共通する特徴的事実であり、裏を返せば、両国に広く受け入れられる、安価で高品質の製品・サービスを産み出す土壌があることを意味する。そしてそのような製品・サービスが他地域でも受け入れられる可能性は高いだろう。ここが肝だ。



GEのポータブル超音波診断装置は好例だ。先進国のハイエンド機の15%程度という低価格を実現し、かつポータブルという現地ニーズに応える独自の機能を付加この製品は、中国の農村部にある診療所のニーズを捉え、年間2億8千万ドルを売り上げているという。(中国人口の9割が農村部の診療所に罹っており、彼らは診療所まで通院できないことがある)

 もちろん、性能的には先進国で使用されているものには及ばないが、狭い場所や救急現場での利用など、先進国においても新たな需要を開拓したという。

(新しい資本主義の論点 大前研一 ダイヤモンド社 “GEのリバースイノベーション戦略”参照)


前研一の新しい資本主義の論点/大前 研一

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 世界に名だたる企業の動きは早い。GEの事例は、数少ない最新事例では無い。



  以下のレポートによると、Fortune500にリストアップされている企業のうち400社以上が2007年までに中国に研究開発拠点を設立済みだという。

http://scpj.jp/wordpress/wp-content/uploads/downloads/2010/09/RD.pdf

日本企業もぼんやり眺めてはいない。同レポートでは、電機・電子、自動車業界において先駆企業があることが紹介されている。また、TOYOTAが昨年11月に中国での研究開発拠点設立を発表し、年初にはCanonの御手洗会長も日経新聞のインタビューにおいて同様の内容に言及した。欧米企業には少々後れを取ったが、日の丸巨大企業も本格的に動き出している。


販売、生産、新卒採用に続き、ついに研究開発も新興国を志向する時代となった。10数年前、社会に出たころには想像もしていなかったことだ。今や有名大学を卒業し、かつ語学力も有していなければ、日本の多国籍企業には就職も転職もできない時代である。我々団塊ジュニアにとってもツライが、若い人たちが社会人人生の始まりからタフな環境に置かれていることを改めて認識した。





レアジョブ体験記

レアジョブというマンツーマンの英会話レッスンを提供している会社がある。

費用が極めて安いのが特徴だ。

http://www.rarejob.com/login/top.php?mode=on



 詳細は同社のホームページを参照して頂きたいが、仮に毎日1回25分のレッスンを受講できるコースを選択すると、月5,000円の支払いで毎月最大750分の英会話が可能だ。分単位に換算すると、1分当り6.7円である。ちなみに最近流行りのカフェスタイルのマンツーマンレッスンは、1レッスン60分で支払いは2,500円前後のものが多い。これらを12.5回受講すれば750分に到達するが、月の支払総額は31,275円となる。分単位に換算すると41.7円となり、約6倍のコスト差が存在する。また、これらのスクールには別途入会金と月会費が必要なものが多い。



 

安さの秘密は、スカイプと講師がフィリピン大学の学生であることだ。 英会話スクールは労働集約的なサービスであり、人と設備に関わる経費が原価のほとんどを占める。レアジョブのビジネスモデルはその経費をフィリピンに移すことで成り立っている。

 さて、あとは肝心の質の方だ。
実際に三ヶ月間利用してみた感想を述べる。

・講師の数
十分。講師の選択を容易にするサポート機能もある。お気に入りの講師をブックマークする機能や多くの利用者がブックマークしている講師を紹介している「おすすめ」コーナー、所属学部での検索機能などである。


・講師の発音
満足。なまりはあるが、現実には、なまりの無い英語と接する機会は少ない。各講師のプロフィールに肉声での自己紹介が録音されている。新しい講師を予約する場合は、必ずその音声を確認した上で行った為、まったく聞き取れないという事態には遭遇しなかった。


・講師の会話技術
人による。私は、少しでも会話が円滑になるよう自前で話題を用意していた。話題がない場合は、複数の講師に日替わりで同じ話題を持ちかけるなどの工夫をした。同じトピックスでも回数を重ねるごとに巧く表現できるようになってゆくのを実感でき、楽しかった。ちなみフィリピン大学は、同国唯一の国立大学であり、最高位の教育機関である。日本で言えば東大に近い。よってレアジョブに登録している講師についても教養的な側面において不満を感じることは少ない。

・通話環境
満足。現地が悪天候の場合でもレッスンは可能だった。


 

英会話力を向上させるには、とにかく話しまくるしかないが、レアジョブは、それを非常に安価で実現できるサービスである。
 一方コストメリットだけでなく、「人と人との付き合い」を実感することも可能である。音声だけの付き合いだと機械的だと感じる人もいるかもしれないが、仲良くなれば、Youtubeで講師のお子さんや奥さんを見せてもらったり、ウェブカメラを通じてお互いの顔を見ながら会話したりといったコミュニケーションも可能である。

 そういったコミュニケーションを繰り返すと親近感が湧いて、お互いにそれぞれに関連する話題を探したり、知識を身につけたりして更に会話が楽しいものになっていく点は、従来の英会話スクールと変わらない。
 

総合的にみて、非常に優れたサービスであるというのが私の印象である。
 

http://englishschool.tuzikaze.com/price.html