中国・インドの戦略的意味 | Man is what he reads.

中国・インドの戦略的意味

中国・インドの戦略的意味―グローバル企業戦略の再構築/アニル・K. グプタ
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Getting China and India Right: Strategies for L.../Anil K. Gupta
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グローバル市場でのプレゼンス獲得を目指す多国籍業を対象に、その目標に対する中国とインドの戦略的意味について述べた本である。




 著者は、多くのグローバル企業が両国の戦略的意味について、以下のような誤った認識をしていると指摘する。



1、単なるオフショアリング先とみなしていること。

2、単なるコスト削減ツールだとみなしていること。

3、5%~10%の高所得者に絞ったマーケティングをしていること。

 

 これらの認識を改め、中国・インド発のイノベーションにより、両国市場のみならず、グローバル市場全体でシェアを獲得してゆくべきだというのが著者の提案である。先進国で開発し、各地域向けにカスタマイズしてグローバルに販売するグローカリゼーションだけでは生き残れないという訳だ。



 その理由として、著者は中国とインドに共通する4つの事実を示している。


 中国とインドは、その人口規模から、


  1、ほぼ全ての製品とサービスにとって最も巨大な市場であり、かつ幅広い価格帯を

   持つ。

2、安い労働力を供給し続け、高いコスト効率性を長期間にわたってもたらす。

3、大量の大卒もしくは院卒学生の供給により、企業の技術革新を促進する。

4、上記3点から、ハイクオリティかつリーズナブルな製品・サービスを供給する

  新たな競争相手を産み出す可能性がある。

 

 つまり、巨大な市場だが、安い単価という制約条件がある。もちろん、独自のニーズの存在も無視できない。一方で、現地の生活者である、安価な高度知識人材が大量に存在する。



これらが中国とインドに共通する特徴的事実であり、裏を返せば、両国に広く受け入れられる、安価で高品質の製品・サービスを産み出す土壌があることを意味する。そしてそのような製品・サービスが他地域でも受け入れられる可能性は高いだろう。ここが肝だ。



GEのポータブル超音波診断装置は好例だ。先進国のハイエンド機の15%程度という低価格を実現し、かつポータブルという現地ニーズに応える独自の機能を付加この製品は、中国の農村部にある診療所のニーズを捉え、年間2億8千万ドルを売り上げているという。(中国人口の9割が農村部の診療所に罹っており、彼らは診療所まで通院できないことがある)

 もちろん、性能的には先進国で使用されているものには及ばないが、狭い場所や救急現場での利用など、先進国においても新たな需要を開拓したという。

(新しい資本主義の論点 大前研一 ダイヤモンド社 “GEのリバースイノベーション戦略”参照)


前研一の新しい資本主義の論点/大前 研一

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 世界に名だたる企業の動きは早い。GEの事例は、数少ない最新事例では無い。



  以下のレポートによると、Fortune500にリストアップされている企業のうち400社以上が2007年までに中国に研究開発拠点を設立済みだという。

http://scpj.jp/wordpress/wp-content/uploads/downloads/2010/09/RD.pdf

日本企業もぼんやり眺めてはいない。同レポートでは、電機・電子、自動車業界において先駆企業があることが紹介されている。また、TOYOTAが昨年11月に中国での研究開発拠点設立を発表し、年初にはCanonの御手洗会長も日経新聞のインタビューにおいて同様の内容に言及した。欧米企業には少々後れを取ったが、日の丸巨大企業も本格的に動き出している。


販売、生産、新卒採用に続き、ついに研究開発も新興国を志向する時代となった。10数年前、社会に出たころには想像もしていなかったことだ。今や有名大学を卒業し、かつ語学力も有していなければ、日本の多国籍企業には就職も転職もできない時代である。我々団塊ジュニアにとってもツライが、若い人たちが社会人人生の始まりからタフな環境に置かれていることを改めて認識した。