昨日ある調剤薬局の薬剤師の方からこういった質問を受けました。

「60代後半の女性で不安神経症気味の方。

動悸、不眠症状があり心療内科に通院中。しばらく通院して抗不安薬や安定剤で治療していましたが、動悸が治らないと訴えたら、漢方薬も併用で処方されました。
処方内容は⑫柴胡化竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)。ところがこの漢方薬を飲むと逆に動悸がひどくなってしまった。怖くなって服用をやめたが副作用ですか?と尋ねられた?
これは副作用と考えられるのですか?」
体格を聞いたところ痩せていて小柄な感じだそうです。

実際にその方を見ないと断定はできませんが、この場合一番東洋医学的に考えられるのは「虚実」が違うということです。

漢方薬を見立てるときにキーとなるところがあります。
中医学では基本とそして4つ上げていて「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」と分けていて項目が八個あるので「八綱弁証」と呼び、一番大切な情報としています。

後出しじゃんけん的にこの方を考えていくと

「柴胡化竜骨牡蠣湯がこの方の動悸を促進した⇔実証(この処方は心肝火旺という実症状に使う処方です)の薬が合わなかった→この方は虚証の可能性が高い」
「不眠、不安があり60代後半という年齢や体格が小柄で痩せている→体質的に虚証の可能性が高くなる」

ということがうかがえます。

「動悸、不安感→柴胡化竜骨牡蠣湯の適応」とは短絡的に結び付きはしないのです。


柴胡化竜骨牡蠣湯などの「柴胡」が名前につく薬は、陽経の少陽という体の元気がまだあるときによく使われる薬で、病態的には陽証、実証につかう薬です。
気力体力が落ちたり、年齢が60代以降の方にあまり使う処方ではなくなってきます。

こういった「虚実」をきちんと見極めることは、漢方処方の副作用を未然に予防する意味でもとても大切な考え方です。


これを無視して、症状、病名だけでこの柴胡剤を使ってしまい重大な事例が続いたこともあります。この点だけでもしっかりと考慮して漢方薬を使ってもらえればと思います。