↑の2年後のクリスマスイブのお話。未だ恋人未満の博と凛子。進展はあるのか⁇
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クリスマスイブの夜。凛子は都内のとあるホテルのラウンジにいた。
アップにした黒髪に、パールのネックレス。黒のベロアのワンピースにはまるで星屑のようにストーンが煌めいていた。
凛子はカクテルグラスを傾けて、綺麗に飾り付けられたクリスマスツリーをぼんやりと眺めた。
思い出すのは、2年前のクリスマスイブ。ニューヨークのロックフェラーセンターで、博と感動的な再会を果たした。
巨大なクリスマスツリーの下。凛子の目の前に現れた真っ白なロングコートを着た博。博はサングラスを外し、一瞬伏せた目をゆっくりと開き、凛子を見つめた。
優しい眼差し。まるで貴公子のような微笑み。そして、その少しハスキーな声で…
「メリークリスマス。お凛さん」
「わっ⁇」
現実にそう言って今凛子の目の前に現れたのは、白のハイネックに黒のダブルブレストコートを着た博だった。
「ハハハ。どうしたんです?ボーっとして」
博は身のこなしも軽やかに凛子の隣に座ると、長い脚を組んだ。そして、凛子が手にするカクテルにスッと顔を近づけて目を閉じた。
「ん。ベリーニ?」
目を開けて、凛子に聞く。
桃の香りでわかったのだろう。
「ええ。博ちゃんは?」
博は軽く手を上げてスタッフを呼ぶと、ブラックベルベットを注文した。
「メリークリスマス。素敵なドレスのお凛さんに、乾杯」
黒いベロアのワンピースに合わせて、ブラックベルベットを注文したようだ。
「よかったわ。今年はドタキャンされなくて」
去年は博に急な仕事が入り、凛子は博が代わりに寄越した美しい青年とディナーを食べるはめになった。
「まだわかりませんよ。今にも電話がかかってくるかもしれない」
博はそう言うと、内ポケットから携帯を取り出した。凛子はドキッとした。
しかし、博は何も連絡が無いのを確認すると通知を完全にオフにしてまた内ポケットにしまった。
「そんなことしていいの?何か事件が起きたりしたら…」
「きれいな女性と美味しいものを食べてるときに事件は起きない」
「何それ?経験則?」
「いや、ただの僕の願望」
果たしてその願望は、きれいな女性と美味しいもののどちらに比重があるのだろうか。と、凛子は思った。
カクテルを飲み干すと、博はじゃあそろそろ行きましょうかと凛子を促してホテルを出た。
