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2年前のイブの夜。博にホテルの部屋まで送ってもらったのは覚えている。が、残念ながら睡魔に抗えず凛子は寝落ちしてしまった。翌朝目覚めたときにはもう博の姿は無かった。
その後数ヶ月凛子はニューヨークに隠れ住んだ。手配はみな博がしてくれた。
身の危険が無くなると、凛子は帰国した。そして、その後も博と凛子は刑事と情報屋以上の関係にはなっていなかった。
ホテルにほど近いフレンチレストランで、ふたりはクリスマスディナーを堪能した。
美食家の博が選ぶ店にハズレは無い。目の前でハンサムな博が食に関する蘊蓄を語るのを聞きながら、凛子はフルコースに舌鼓を打った。
店を出ると、凛子はもう少し飲もうと博を誘った。
「お凛さん、今夜はもう随分飲んでますよ。帰った方がいいと思いますけどね」
「博ちゃんが付き合ってくれないなら、ひとりで飲むから、いいわよ。博ちゃんはお帰んなさい」
凛子はしっしっと博を追い払うような仕草をした。博は呆れ顔で
「何を言ってるんです。女性をひとりで置いて帰れますか」
と言った。
「じゃあ、付き合って」
凛子は博の腕を取ってその端正な顔を見上げた。
しばし黙って凛子を見下ろしていた博は、
「じゃ、お凛さんの家で飲むってのはどうです?」
と提案した。
凛子は驚いた。
「あたしの…家?」
「お凛さんさえよければ。あなたを送り届けて、一杯だけお付き合いしたら僕は帰ります」
「はぁ…」
凛子は博の意図を図りかねた。
言葉通りに受け取るなら、酔っ払いを早く家に送り届けて安心したい、ということだろう。が、博は凛子の好意に気づいているはずで、そんな女の家に上がって一杯飲む、というのは、その気が無いわけではない、ということだろうか。しかも今夜はクリスマスイブ。
「じゃあ、そうしましょう」
凛子はギュッと博の腕にしがみついて喜んだ。
「うふふ。側から見たらあたしたちカップルにしか見えないでしょうね」
博は辺りを見回し、
「ま、誰も見てませんがね」
とクールにつぶやいた。
刑事の自分と繋がっていることが明るみに出れば、凛子の身が危うくなる。だから、博は凛子と会う場所をいつも慎重に選んできた。
博は表通りに出るとすぐにタクシーを捕まえ、凛子と一緒に乗り込んだ。