(子の大国主神と母の刺国若比賣を祀る、伯耆国の赤猪岩神社)





【古事記神話】本文 
 (~その62 速須佐之男命の子孫 2) 





投稿予約時間の設定を間違え、既に「いいね」をお一人から頂いておりますが…

あらためて本日に投稿し直しました。


前回の記事より、速須佐之男命から大国主神までの系譜が綴られます。

前回の八島士奴美神や、今回は淤美豆奴神(八束水臣津野命)といった、出雲建国に関わる甚だ重要な神が登場します。

この2柱だけで、数本に渡り記事を上げたいくらいくらいの神。
まだまだ出雲は知見が足らず、そこまでには及びませんが…。

今回は系譜上の多くの神が登場。
短めにするつもりですがそれでも長くなりますね…。



【読み下し文】
兄 八嶋士奴美神 大山津見神の女 名は木花知流 [此の二字以て音] 比賣と生みき子 布波能母遅久奴須奴神 此の神 淤迦美神の女 名は日河比賣を娶りて生みき子は深淵之水夜禮神 [夜禮二字以て音] 此の神 天之都度閇知泥神 [都自り下五字以て音] を娶りて生みき子 淤美豆奴神 [此の神の名以て音] 此の神 布怒豆怒神 [此の神の名以て音] の女 名は布帝耳神 [布帝二字以て音] を娶りて生みき子 天之冬衣神 此の神 刺國大神の女 名は刺國若比賣を娶りて生みき子 大國主神 亦たの名は大穴牟遅神 [牟遅二字以て音] と謂ふ 亦たの名は葦原色許男神 [許男二字以て音] と謂ふ 亦たの名は八千矛神と謂ふ 亦たの名は宇都志國玉神 [宇都志三字以て音] と謂ふ 并せて五つの名有り


【大意】
兄(大歳神・宇迦之御魂神の兄)の八嶋士奴美神(ヤシマジヌミノカミ)が大山津見神の娘 木花知流比賣を娶って生んだ子が布波能母遅久奴須奴神(フハノモヂクヌスヌノカミ)。この神が淤迦美神の娘 日河比賣(ヒカハヒメ)を娶って生んだ子は深淵之水夜禮花神(フカフチノミヅヤレハナノカミ)。この神が天之都度閇知泥神(アメノツドヘチネノカミ)を娶って生んだ子は淤美豆奴神(オミヅヌノカミ)。この神が布怒豆怒神(フヌヅヌノカミ)の娘 布帝耳神(フテミミノカミ)を娶って生んだ子は天之冬衣神(アメノフユキヌノカミ)。この神が刺国大神(サシクニノオホノカミに)の娘 刺国若比賣(サシクニノワカヒメ)を娶って生んだ子は大国主神。大穴牟遅神(オオナムヂノカミ)・葦原色許男神(アシハラシコオノカミ)・八千矛神・宇都志国玉神(ウツシクニタマノカミ)の別名があり、計5つの名を持ちます。


【補足】
ついに大国主神の登場!
よくここまで来れたな…と感慨も深く。

◎かなり複雑な系譜が示されています。大国主神までの系譜を示したいために、このようになったのだと思います。

八嶋士奴美神
木花知流比賣(大山津見神の娘)
→布波能母遅久奴須奴神

布波能母遅久奴須奴神
日河比賣(淤迦美神の娘)
→深淵之水夜禮神

深淵之水夜禮神
天之都度閇知泥神
→淤美豆奴神

淤美豆奴神
布帝耳神(布怒豆怒神の娘)
→天之冬衣神

天之冬衣神
刺國若比賣(刺国大神の娘)
→大国主神


石見国 佐比賣山神社(大田市三瓶町)境内にある、八束水臣津野命が国引きした「佐比賣山」を繋いだという杭




◎「木花知流比賣」は同じく大山津見神の娘 木花咲夜比賣(木花開耶姫)と対になる神でしょう。「咲く」と「散る」。

◎「布波能母遅久奴須奴神」は正体不明。
Wikiには以下の通りいくつかの説を上げていますが、少々飛躍し過ぎかと思う部分もあります。あくまでも説の一つとして。

━━「母遅」は大穴牟遅神の「牟遅」、大日孁貴神の「貴」(むち)と同じで「尊貴」の意、「久奴」は「国主」の意とする説があり、須佐之男命の第一世の子、八島士奴美神が大国主神の誕生を予期するのと同様に、この神は大穴牟遅神の誕生の前ぶれに当たるとする説がある。


「布波」が「含(ふふ)む」の語幹フフと同根でまだ開ききらない状態、すなわち「蕾」(母神の性質)のことを言い、「母遅」は上記と同じく「牟遅」と取り、「布波能母遅」を「久奴須奴」にかかる美称とし、「久奴須」は「国巣」で「巣」は人の住居の意、「奴」は主の意として、父神八島士奴美神の島々の領有者としての性質と母神木花知流比売の桜の花が散るという性質を受けて、名義は「将来ある蕾の貴人の、国の住居地の主」とする説がある。

また、「久奴須」を「国洲」「国砂」ととり、国土としての中洲あるいは国土を形成している土砂の意とする説がある。この説を受けて、また、「布波」をふわふわしたものとし、「母遅」を「持ち」で支える意と取り、母神、木花知流比売とも関連させて、「ふわふわした花びらの如き原初の国土を支える国土の土砂の」神の意として、国土創生に関わらせて解する説がある━━


◎「淤迦美神」は竜蛇神のこと。

既にイザナギ神がカグツチ神を切った際に、高龗神(タカオカミノカミ)と闇龗神(クラオカミノカミ)が生まれています。同神かどうかは不明。

文献上初めて祀られたとされるのは大和神社の境内摂社 高龗神社。続いて丹生川上神社 中社


◎「日河比賣」は巫女でしょうか。「日」はやはり「霊」であり、「河で霊的な祭祀を行う巫女」ということではないかと。

◎「深淵之水夜禮花神」はWikiでは以下のように解しています。
━━「深い淵の水が遣れ(やれ)始めること」の意として水の運行の神格化と考えられる━━
「遣れ」については、
━━深い淵の水が目に見えない力によって送り出され流れてゆく、その始め━━と。

◎「天之都度閇知泥神」はWikiでは以下のように示しています。
━━「天之」は天津神ではなく水源を考慮して冠せられたもの、「都度閇」は「集え」で、目に見えない神力によって集められること、「知」は「道」で、ここでは水路、「泥」は親称で、「天上界の集められた水路」となる━━

◎「淤美豆奴神」は、「出雲国風土記」に登場する「八束水臣津野命(ヤツカオミヅオミツノノミコト)」と同神とされます。
冒頭に登場し国引き神話が記されます。出雲国を小さく作ってしまったので、新羅や高志国などの岬を切り取って繋ぎ島根半島を作り、出雲国を大きくしたと伝わります。
ダイダラボッチ伝説の一つとも。

◎「布怒豆怒神」はWikiでは以下のような、いくつかの説を上げています。
━━備後国三次郡の地名「布努郷」と関連づける説や、「フノ」を「クナ」「曲)の音転、「ヅノ」を葛(つた)の意とみて、「くねくねと這う葛」の類で、水にさらして衣類の繊維をとる材料に基づく命名とみる説、「ヌノヅナ」(布綱)からきた「ヌノヅノ」が誤写されて神名として定着したものが「古事記」に受け継がれたものと考えて、布製の綱の神格化とする説がある━━

◎「布帝耳神」はWikiでは以下のような、いくつかの説を上げています。
━━この神は天之冬衣神(衣類の神)の母神であることや、親神の布怒豆怒神を衣類の繊維材料の神と想定する説から、衣に関係のある神と考えられる。「フテ」の語義は未詳で、「フノヅノ」の「フノ」からの転訛とする説がある。「耳」は神霊の意の「霊」を重ねた語と解される。また、誤写による神名と見なし、布の帯を神格化した神で、元は「布帯御霊(ヌノオビミミ)」」と呼ばれていたのが漢字表記が誤写されて神名として定着したのが「古事記」に受け継がれたものとする説がある━━

◎「天之冬衣神」はWikiでは以下の説を上げています。
━━「天上界の、冬の着物」とされ、また「冬衣」は「増ゆ衣」で衣類の豊饒を讚美するとも考えられる━━
能登国に鎮座する重蔵神社(未参拝)の社伝では、天之冬衣神が出雲から能登へ来臨し当地を平定したと伝わっているようです。

◎「刺国大神」はWikiでは以下の説を上げています。
━━刺国大神の「刺す」は「標(しめ)」を刺すこと、占有すること、「大」は刺国若比売に対応する親の意と解し、名義は「国を占有する親」と考えられる━━
本居宣長は紀伊国名草郡に鎮座する刺田比古神社のご祭神に宛てています。娘の「刺国若比賣」の「若」は「和歌浦」に通ずるとも。大伴氏が奉斎した社とされ、遠祖の刺田比古命が妥当なところかと思われますが。

◎「刺国若比賣」

大国主神の母神ということになります。
この後、大国主神の神話が始まり続いていきますが、八十神(兄神たち)に殺されるのを2度に渡り蘇生させています。
伯耆国の赤猪岩神社にて配祀神として祀られています(主祭神は大国主命)。



紀伊国名草郡 刺田比古神社



*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。