「斐伊川」沿いの八岐大蛇公園(島根県雲南市)
*2012年撮影





【古事記神話】本文 
(~その56 八俣遠呂智)




続けてどんどん進めていきます。

理由は紹介記事を上げる神社のストックが完全に枯渇したためです。




【読み下し文】
亦た問ふ汝が哭く由は何そ 答へて白言す 我が女は本より八の稚女在り 是れ高志の八俣遠呂智 [此の三字以て音] 年毎に來ては契り 今其れ來る可べく時にて泣く 爾に其の形は如何と問ふ 答へて白す 彼の目は加賀智の如く赤くして 而して身一つ八頭八尾有り 亦た其の身は蘿及び檜榲生ひ 其の長さ谿八谷峽八尾に度り 而して其の腹を見れば悉に血に爛れる也 [此の赤加賀智者 今の酸醤也] 


【大意】
また速須佐之男命は「あなたが哭く理由は何だ」と問いました。すると手名椎は「私の娘は八人いました。ところが高志(こし)の八俣大蛇が毎年やって来ては娘を喰らってしまう。今ちょうどその時がやってきて泣いているのです」と答えました。「どんな形をしているのだ?」と問うと、「目はほおずきの如く赤く、身は一つですが八頭八尾。身体には苔や檜杉が生え、八つの谷と八つの山に渡ります。お腹は血にまみれてただれています」と答えました。


【補足】
◎「高志の八俣大蛇」と記されています。
分かっちゃいるけど…やはり「高志」なのです。「高志国」なのです。

◎「高志国」は後に「越国」と呼ばれます。後の越前・加賀・能登・越中・越後国のこと。細かくは氣比神宮が鎮座する越前国~彌彦神社が鎮座する辺りの越後国まで。

出雲国と高志国とは古くから交流があり、これは船で辿れば容易に行き来できることから。出雲の八千矛神(大国主命)による、高志の奴奈川比売(翡翠の女王)への妻問い婚がよく知られるところ(→ 奴奈川神社参照)。

丹後国や若狭国を飛ばして高志国というのが、以前からとても気にはなっているのですが…
ここでは直接関係ないので触れずにおきましょう。

◎この「八俣大蛇」神話については、周知の通り古くからいろんな議論が交わされています。ここではいくつか抽出しておきます。

* 産鉄民との戦い
ほおずきのように赤い目、これはたたら製鉄の炎であり、血にただれた腹は炉から流れ出す鉄をイメージしたものとの解釈などから。またこの後に尾から「草那藝太刀(草薙剣)」も出現します。ただし当地で年代不明の「野だたら」跡は多く発見されているものの、6世紀より前には遡られないという説もあるようです。

*「斐伊川」の治水
氾濫を繰り返す「斐伊川」を龍神と捉え、それが八俣大蛇であるとし、櫛名田比賣が氾濫で(龍神が暴れ)飲み込まれる稲田の象徴であると捉えるもの。
苔檜杉、谿八谷八峽…は分かるのですが、腹が血に爛れる…というのはこれには合わないのです。



次回はいよいよ
スサノオ神による八俣大蛇退治の場面です!


糸魚川市田伏の奴奈川神社
*写真は2013年10月撮影