山崎神社 (岩出市赤垣内)


紀伊国那賀郡
和歌山県岩出市赤垣内108
(20台ほどの駐車場有り)

■祭神
大市比売命
須佐之男命
[配祀] 奥津彦命 奥津姫命 火迦具土命 大年神 水波能売命 八衢彦命 八衢姫命 久那斗命 誉田別命 八王子神 伊弉册命 天児屋根命 上筒男命 市杵島姫命 天照皇大神 三筒男之神 猿田彦之命 大倭姫之命 日本武命 稲瀬脛彦命 興玉命 瀬織津姫命 速秋津姫命 速須佐良姫命 気吹戸主命 大雀命 栲幡千千姫命 蛭子神


岩出市中心街の北方、「紀ノ川」北岸の低湿地帯、岩出市赤垣内に鎮座する社。

◎創建由緒について和歌山県神社庁は以下を伝えています。
━━人皇七五代崇徳天皇の御代大治元年(1126年)丙午五月、鳥羽天皇(「上皇」の誤植と思われる)が根来寺を下山され熊野三山へ向われる途中、真田の里まで進まれたとき、にわかに天候が変わり、雷雨はげしく行列を進めることが出来なくなり、お供の人々が心なやみ、天地の神にお祈り申し上げたところ、雲間より神様がお姿を現し、わたくしは、大山津見の御子、大市姫神なり、雷雨をすぐに鎮めますからお発ち下さいというと、たちまちに晴天白日が輝き、神のお姿が雲に乗って消え去り、天皇はしばらくここに、御輿をとめられたので、この地を輿止めと呼び、松の大木が繁っていたが今はその松林もなく人々から忘れられている。その後、上皇がこのことを大変よろこばれて神社の神官をおよびになり、詳しく事情をおききになられ、お使いの人をお詣りさせ、幣帛料・物品をお供えされたということですが、天正年間、秀吉の根来攻めにより兵火にあって、本社・摂社及び古い記録などが焼失してしまった━━
◎大市姫神とは大歳御祖神のこと。スサノオ神との間に大歳神と宇迦之御魂神を生んだと記に記されます。二子の神格から按ずるに、農耕に関連して崇められた神として捉えてよいものかと思われます。遠江国安倍郡に鎮座する静岡浅間神社内の大歳御祖神社を始め、全国各地で祀られる神。

根来寺という仏教施設は当社より北東方向、和泉山脈の裾部にあります。「真田の里」とは「紀ノ川」を20kmほど遡った地、真田幸村父子が隠棲したとされる、住居跡地の周辺を指してのことと思われます。

鳥羽上皇は実に23回も熊野行幸をしており、この説話もそのうちの一つ。また仏教に傾倒していたとされ、仏教施設に立ち寄っていたのも納得のいくもの。

◎この伝承を素直に解すると、既にこの時に当社は鎮座していたものと思われます。そもそもの創建時期や由緒等は不明。弘法大師という僧侶が当社に日参していたという伝承があるものの、こちらも真相は不明、後世に架上された創作話ではないかと考えます。
◎鳥羽上皇と「雷」との関わりを考えねば、当社説話を根本的に解せないと思われます。通覧するに直接的な関連は見出だせないものの、都にて鎮座する市比賣神社(未参拝)が関係するのではないかと。
そちらは宗像三女神・神大市比賣命・下光比賣命の計五女神を祀る社。東西市場の守護神として創建されたと伝わることから、本来の主祭神は神大市比賣命だったと推されます。清和天皇から後鳥羽天皇の27代に渡り、皇子や子女誕生の際に産湯に使われたという「天之真名井」があります。上皇が神大市比賣命に何らか感化されるものがあったのでしょうか。
「雷」に関しては、既に当時は菅原道真公の怨霊による天神信仰は収まりつつあり、学問の神として崇められ始めていた時代。菅原道真公が起こす「雷」への恐怖というのは、当初ほどではなかったと察せられます。この説話内に於いての「雷」は「=菅原道真の怨霊」ではないのかもしれません。
◎当社の原始は大伴氏の始祖 カグツチ神を祀ったのではないかという考えも。大伴氏は「古屋家家譜」によると高皇産霊尊を始祖とし、続いて安牟須比命、香都知命、天雷命と続きます。大伴氏の出自を縄文からのいわゆる「山祇族」とするなら、本来の始祖は安牟須比命。また宝賀寿男氏は香都知命・天雷命を安牟須比命と同神としています。
大市比売命が現れ鎮めた「雷」というのは、この安牟須比命(=香都知命、=天雷命)ではないかとも。「香都知(かづち)」も「雷(いかづち)」のこと。
◎大伴金村の子である磐連公が「甲斐国山梨評山前(やまさき)之邑」に遷居したと「古屋家家譜」にはあります。甲斐国は日本武尊東征の際に祖先の大伴武日命が従軍した所縁の地。
当地は「紀伊国那賀郡山前郷」。同じ那賀郡内の根来寺を、大伴連孔子古(クジコ)が開基したと伝わっていることを鑑みると、十分に可能性があろうかと考えます。
◎明治に現社名に改称するまでは大市姫神社。御祭神には夫の須佐之男命と父の大山津見命が祀られています。配祀の神々は明治の合祀令によるものでしょうか。
悠然とした佇まいがとても美しい社。維持管理も徹底しておられます。

*写真は2019年7月と2025年4月撮影のものとが混在しています。


表参道


こちらは駐車場側(境内南側)からの参道。









「雷除御祈願所 大市姫明神」と刻まれています。

瑞垣内境内社 寿福神社

瑞垣内境内社 五十鈴神社


同上





牛神社。和泉国から紀伊国にかけて多く祀られています。






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