ゴッホの終篤地を訪ねた日本の精神科医。

彼の名は斎藤茂吉。

 

斎藤茂吉とゴッホ(終篤地)

斎藤茂吉(1882-1953)は、山形県

南村山郡金瓶村(現上山市)の守谷家の

三男として誕生。

貧しい家の茂吉(15歳)は同郷で医院を

浅草で開業する斎藤紀一(1861-1928)

の養子候補となり、紀一の勧めで医者を志

す。

明治29(1896)年開成中学校(現開成

高校)に編入した茂吉は同級生に刺激さ

れ歌を詠むようになる。

のち明治44(1911)年東大医科大学副

手となり授業と診療の生活を始める。

死に近き 狂人を守る はかなさに

   己が身すら 愛(は)しとなげけり

 

同年明治44年からアララギ派の編集を大

正3年まで担当し、この年1914年に茂吉

(32歳)は13歳年下の、紀一の長女輝子

(19歳)と結婚する。

彼女は裕福に育った勝気な令嬢で、茂吉

としばしば衝突する。

もの投げて こゑをあげたる をさなごを

  こころ虚しく  われは見がたし

 

輝子(1895-1984)は2年後長男茂太

(のち精神科医・随筆家「モタさん」)

を誕生。

茂吉は精神病学研究のため欧州留学に

大正10(1921)年11月神戸を出航、

香港、マルセイユ、パリを経て12月

ベルリンに到着、ウイーン大学神経学

研究所に入り、翌年ミュンヘン大学転

学後実父が死去する。

 

ゴッホの終篤地と斎藤茂吉・輝子

大正13年7月欧州で医学留学滞在中、

茂吉は現地に妻の輝子(29歳)を迎え、

同年1924年11月斎藤夫妻は、ゴッホ終

篤の地オーヴェルのガッシエ医師の家を

訪ねている。

一向に 澄みとほりたる たましひの

    ゴオホが寝たる 床を見にけり

 

 

芳名録に記載される斎藤茂吉・輝子(1924年11月2日付)

 

このとき、洋画家の宮坂勝が案内役とし

て斎藤夫妻を案内し、3人でガッシエ家

を訪問する。

 

斎藤輝子と「ダンスホール事件」

帰国後長女・百子(大正14年)、次女

昌子(昭和4年)、昭和5(1927)年

次男・宗吉(のち精神科医・小説家の

北杜夫)を誕生する。

 

昭和8(1933)年11月、東京日日新

聞がダンスホール事件を報じる。(11

月8日付)

 

 

事件として報じる東京日日新聞(昭和8年11月8日付け)

 

東京日日新聞が報じるダンスホール事件。

ダンスホール教師と有閑マダム、女給らの

情痴事件であったが、この中に吉井勇の夫

人徳子(伯爵柳原義光の次女)や茂吉の妻・

輝子など教室に通っていたために大きな波

紋をよぶ。

この時の輝子のコメントが掲載される。

「問題の某病院長夫人は語る」にはじま

り、「困ってしまひましたは、男妾だの、

何だのといわれて…食事を共にしたこと

もあり、横浜まで大勢でドライブしたこ

とありますが、その時もダンスしに行っ

た迄で、いまわしい関係なんかありませ

ん、金銭的補助といっても御礼を多くし

た位でそれ以上のことは致しませんよ、

それ程財政的に余裕なんかありゃしませ

ん。

ダンス始めたのは一昨年夏で不眠症で

困ってゐたのでダンスでもしたら…と

主人に勧められやり出したので」と、

彼女のコメント記事が載る。

 

 

 

某病院長夫人のコメント

 

87年前のこの事件。

今からみると考えられない、世の中の風潮、

時代を映しだしている。夫人らのダンスを

「不倫・恋のスッテプ」とし、「有閑女群

の醜行暴露」といい、「教師が悪いか、マ

ダムが悪いか」と世間に問い、警察署長は

「取締規則の不備」と嘆き、女性が蔑まれ

ていた時代の新聞報道。記事は「ダンスは

いかがわしい」を前提にした女性を蔑む新

聞報道である。

 

茂吉は、この報道に大きな衝撃をうけ、妻

を郷里に預け、十数年別居生活を続ける。

また吉井勇はこの事件で徳子と離婚し、高

知県の山里に隠棲したあと国松孝子と再婚

している。

ひとは旧きを守り、新しいものに排他的で、

そのときの世間の考えや時代背景の中で生

きている。ひとの心は不思議で、不可解だ。

 

ゴッホと斎藤茂吉・輝子

茂吉は妻輝子とゴッホの終篤地パリ近郊の

村を訪ねたあと、茂吉は精神科医として、

ゴッホの精神疾患について専門的な考察も

行い、のちに日本における最大のゴッホの

紹介者となる精神科医の式場隆三郎にもオ

ーヴェル行きをすすめる。

 

その後ダンスホール事件で、「精神的負傷」

を追ったという茂吉は別居を決意する。

翌年昭和9(1934)年、こころの病をもつ

茂吉(52歳)は若き美貌の歌人永井ふさ子

(24歳)と出逢う。

 

 

 

 

 

2021.8.24

ゴーギャンの夢(何処に行くのか)ー男と女の物語(168)

2021.8.25

ゴーギャンとゴッホ(「旅の夢」)ー男と女の物語(169)

2021.8.26

ゴッホの夢(「日本の夢」)ー男と女の物語(170)

2021.8.27

ゴッホの夢(「ひまわり」)ー男と女の物語(171)

2021.8.28

ゴッホ(「心の病」)ー男と女の物語(172)