「俺はミックの情熱に従っていた。彼には、好きなようにやってもらいたかった。ただ、途中でミックが飽きて、『ブルース曲をレコーディングするなんて、俺たち何やってんだ?』なんて言い出さないことだけを願っていたよ。夢中になっているミックの様子は見ていて楽しかった」(キース・リチャーズ 『ORICON STYLE』2016年12月1日更新)
ローリング・ストーンズのニュー・アルバム『ブルー&ロンサム』を聴きました。
狂おしく、華のある、ブルース・カヴァー集。心をワサワサと騒がさせ、のけぞらせるアルバムです。まさか2016年になって、こんなストーンズを聴けるとは思ってもみなかった。
狂おしく、華のある、ブルース・カヴァー集。心をワサワサと騒がさせ、のけぞらせるアルバムです。まさか2016年になって、こんなストーンズを聴けるとは思ってもみなかった。
当初、新曲を中心にレコーディングを進めていたところ、作業の箸休めにキースが用意してきたリトル・ウォルターのBlue And Lonesomeにミック・ジャガーがハマり、「次はあの曲なんか、どう?」と続けていくうちに、3日間で1枚のアルバムとして完成したのだとか。
ホンマかいな?といつもなら言葉半分に受け止めるのが、この手のエピソード。でも、このアルバムに関しては間違いなく本当でしょう。だって、音がそれを証明している。いにしえのブルースマンたちが憑依したかのようなミックの塩っ辛く激しいヴォーカル、そしてその様子に大ハシャギしてギターをかき鳴らすキースの視線の温もりが端々から伝わってきます。
ストーンズのレコーディングにダラダラとしたジャム・セッションが付きものなのはよく知られており、どちらかというと、ミック・ジャガーはそういうやり方を引き締めて効率よく進めたがる人。しかし、今回はどうも違ったようです。キース・リチャーズがロン・ウッドと組んで仕掛けた網にミックが引っ掛かった。もしくは、こっちがより正確だと思うのだけど、ミックが嬉々として乗っかった。
キースにしてみれば、内心ほくそ笑みながら、「しょうがねぇなぁ、もう1曲だけだぞ」という塩梅で「付き合ってやった」のでしょう。なぜなら、キースのいちばん好きなミックがここにいる。ここ20年か30年のあいだにストーンズ・ファンが望んできた、そんなミックが気持ちよく歌って吠えているアルバムです。セッションの空気やノリを重視するドン・ウォズのプロデュースも奏功しています。
ストーンズの新作がブルースのカヴァー・アルバムになると聞いたとき、彼らの年輪を刻みつけるような枯れた作品になるのかな、とも予想しました。とくにミックは近年プライベートでいろいろ大変なことがあったので、リハビリ的な意味合いも想像したのです。そして同時に、そういうストーンズはあんまり聴きたくなかった。
ところが、聴いてみて仰天しました。こんなエネルギッシュなリハビリはありえない。全編にわたって、野卑でたくましく、ふてぶてしく粘っこく、それでいてシルエットはシャープな、荒ぶるストーンズが戻っています。録音も、50年代のブルースのレコード盤をストーンズが乗っ取ったみたいに、烈音がナマナマしい。
ところが、聴いてみて仰天しました。こんなエネルギッシュなリハビリはありえない。全編にわたって、野卑でたくましく、ふてぶてしく粘っこく、それでいてシルエットはシャープな、荒ぶるストーンズが戻っています。録音も、50年代のブルースのレコード盤をストーンズが乗っ取ったみたいに、烈音がナマナマしい。
スタジオ盤としてはひとつ前にあたる、2005年の『ア・ビガー・バン』は、70年前後に確立されたミック・テイラー在籍時のストーンズ・サウンドを「原点」に定め、そこに立ち返ったアルバムでした。2本のギターのルーズな絡みを土台に、カントリーやファンク、ソウルなどを食い散らして築き上げたおなじみのストーンズ節への回帰です。じつはその中には、60年代の彼らを想起させるBack Of My Handも入っていたのだけれど、『ア・ビガー・バン』はおもに70年代ストーンズのレプリカをファンに提供してくれた心地良いアルバムでした。
今回の『ブルー&ロンサム』は、いわばそのBack Of My Handを11年ぶりに煮込んだみたいな、コテコテに味の濃い、そして体に悪そうなブルースの出し汁がテンコ盛りです。このアクの強さが、バンドが一丸となって叩きだす音のリアルさと相まって、これほどまでにハッキリと原点回帰を示していながら、後退的な印象を与えないうえ、まったくノスタルジックな匂いもしない。
今回の『ブルー&ロンサム』は、いわばそのBack Of My Handを11年ぶりに煮込んだみたいな、コテコテに味の濃い、そして体に悪そうなブルースの出し汁がテンコ盛りです。このアクの強さが、バンドが一丸となって叩きだす音のリアルさと相まって、これほどまでにハッキリと原点回帰を示していながら、後退的な印象を与えないうえ、まったくノスタルジックな匂いもしない。
それに、貫禄とか風格とかではなく、なんだかわからないけどエラくカッコいい。『スティール・ホイールズ』も『ヴードゥー・ラウンジ』も『ブリッジズ・トゥ・バビロン』も『ア・ビガー・バン』も、頭の悪い中学生にもお薦めできるロックのカッコよさは備えてなかった。
”不良中年”でも”キレる老人”でもない。そんな括りに収まらない、ザラザラしてイカれた音がずっと鳴り響くアルバムです。ブルースのブの字も知らない若者にこそ無理やり聴かせたい。
ふと思ったことがあります。これって、「逆『ダーティ・ワーク』」なんじゃないのか、ということ。ミックがドカンと主役を張っているのが逆。なによりミックとキースの関係性があの時とは逆。そのうえで、『ダーティ・ワーク』に漲っていたヤケクソに攻撃的な勢いが、もっと柔軟に、もっと結束力を強めて、しぶきを飛ばして迫ってくる。
こうなってくると、当初の予定だったというオリジナル曲でのアルバムのほうも気になりますが、しばらくはこれで充分。なにせ、まだ10回くらいしか聴けていないのだから。
ストーンズの新作にここまで興奮している自分に驚いています。いや、しかし、まいったな。
ストーンズの新作にここまで興奮している自分に驚いています。いや、しかし、まいったな。
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