『スプートニクの恋人』初の村上春樹。そして多分最後になると思います。

小説家を目指すすみれ、その友人の小学校教師の主人公、そして経営者つまりパトロンのミュウ。

この三人の三角関係の物語、といった感じ。でも、内容はすみれと二人の話です。


タイトルの『スプートニクの恋人』とはロシアの文学派の名前を間違えたことに由来しています。

この意味は簡単に言うと「旅は道連れ」でしょうか。ここでのスプートニクはすみれのことを指しています。


この本のあらすじは、このすみれ。煙のようにいなくなってしまう、ということです。

あらすじで書くとほんの数行、エピソードも数行に満たない内容です。


こういった薄い内容を一冊の本、1つの小説に仕上げるのは作者の技量・力量だと思います。

この技量・力量に頼っているだけの小説です。


なぜこう思ったかというと、登場人物たちの薄い掘り下げ、魅力のなさを感じたからです。

登場人物の誰もがクールさと傍観とはき違えています。最後に登場する教え子もそうです。

この登場人物たちの滑稽にも見える半主体性な雰囲気、無気力で無感動な空気は、この物語の至るところに充満していて、本を読んでいるこちらも「人が好きでいなくなったんだもん。諦めようぜ。」と思わせてくれます。

そして、本に一番大事な、本の世界に入り込むことさえ「本の世界にはいってどうするのさ。」と言われているようで、こういう感想を述べることすらはばかってしまいます。

雰囲気と空気感でだけで読ませている感じがしました。

自分がもし知り合いがいなくなったら馬鹿なぐらいにもっと騒ぐし、滑稽なぐらいじたばたするけどなぁ~。


自分の中でもこの小説を読んだことは衝撃的な出来事でした。

登場人物の掘り下げがなくても登場人物たちが付け足し程度でも小説ができることと、

エピソードは一個あれば十分なことを教わりました。

非常に教わることの多い小説だと思います。


・読んだ日:'99/07/29~08/03。


『スプートニクの恋人』 『スプートニクの恋人』 - 村上 春樹
出版社 : 講談社
出版日 : '99/04/20
売り上げランキング : 199,519
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『正義は勝つ』フジテレビ系列のいわゆる“水9”ドラマ枠で放送されていたドラマのノベライズ。

その職業に就いている人しか分からないようなその職業特有の悩みや思い、トラブルを取り上げ、そこから一般の人でも抱える同じような問題をクローズアップしています。

こういった理路整然とした方法がきちんと守れられているので、分かりやすく、読みやすく、入り込みやすい作品になっています。


今回は「弁護士」が主人公ということで、特に、守秘義務という悩みからから捉えていく展開は「読み応えあり」でした。


この作品の大きなテーマは職業倫理や、「正義」という形で表すことのできない信念といったものです。

こういったものを守り続けていくことは、自分の信じた道を歩くことです。

自分の信じた道を歩ことはすわなち「生きる」ことでしょう。

こういったものはもちろん十人十色で人からどう言われても揺るがない、そんなもののはずです。


このドラマの主人公は「自分とは違う」と思っていた人物が自分と同じ「正義」で苦悩します。

複雑に絡み合って交錯していく「正義」。

「正義」とは一体何なのか?を考えることのできた良作でした。


ぜひこの作品の、こういった職業の世界観・職業観・倫理観に浸ってみて下さい。


・読んだ日:'98/02/21~02/22。


『正義は勝つ』 『正義は勝つ』
脚本 - 戸田山 雅司/ノベライズ - 田村 章
出版社 : フジテレビ出版
出版日 : '95/11/30
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おすすめ平均☆

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『夢を見ずにおやすみ』鷺沢萌さんの小説。

1つの家族を舞台にした、『今日も未明に電話は鳴った』『あなたがいちばん好きなもの』『夢を見ずにおやすみ』を収録。

1話目は息子、2話目は母、3話目は息子の同級生と、主人公がそれぞれ違う形式になっています。


何と言っても「父」のキャラクターにひかれます。物語の登場人物、妻・愛人・かつての愛人などもそのキャラクターにどうしてもひかれてしまっています。そのひかれてしまう過程や状況の描写が面白いです。


この作品のテーマは「夫婦」です。

どんな夫婦にもその成立過程や成長過程になんらかのドラマが存在します。

ネタバレになってしまうので言いませんが、今回の夫婦の結婚でのエピソードもなかなか面白いです。

もしかしたらこんなエピソードはどんな夫婦にも多かれ少なかれあるような気がしました。


こういったドラマ。

このドラマの数だけきずなが強まるとか、愛が深まるとかはあるのでしょうか?

3話目『夢を見ずにおやすみ』は書き下ろしで、まるでそういったことは「ない」と結論付けるために付け加えられた話のように感じました。

ウェディングマーチ奏者という職業としての視点と妻という役割としての視点。

その2つから「夫婦」というものを、厳しく、明るく、そして暖かく描いています。


「一人よりも二人」とはよく聞く言葉です。

この本を読んで「二人でいることは一体何なのか?」ということを改めて考えさせられました。


・読んだ日:'99/07/10~07/11。



『夢を見ずにおやすみ』 『夢を見ずにおやすみ』 - 鷺沢 萠

出版社 : 講談社
出版日 : '96/01/08
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『三国志 孔明死せず』う~ん・・・。

粗いです。その一言に尽きます。


本全体、ストーリーや展開に勢いがあってすぐに読むことはできるんですが、歴史好きの、三国志好きの独りよがりになってしまっているような気がしました。


歴史マニア向けにするならば、前置きや登場人物紹介がしつこいですし、説明が多い気がします。
一般向けにするならば、架空の登場人物やifの描き方に説得力がないし、人間味が薄過ぎます。

こういったどっちつかずな内容は特につらく感じました。


ストーリー・展開ともに面白いです。しかし、話が脱線ばかりしていてまとまりがないように感じました。
もっとシンプルに、無駄なぜい肉をそぎ落とすべきでした。


これははっきり言って編集者さんの力不足です。
そんなことを感じる一冊です。


・読んだ日:'98/03/14。


『三国志 孔明死せず』 『三国志 孔明死せず』 - 伴野 朗

出版社 : 集英社
出版日 : '96/08/30
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『月はピアノに誘われて』『月刊カドカワ』に連載していた小説。

客のほとんどいないキャバレーで演奏をしているかつての大ヒットバンド、平均年齢44歳のおじさんバンドのお話。そのバンドが・・・という展開。ネタバレするので書きませんね。


このバンドのメンバーひとりひとりが個性的ですごくいい人たちで面白いです。

「古き良き日本人像」と言った感じでしょうか。

そして義理人情のいわゆる「浪花節」な展開。しかし内容は、サクセスストーリー、アメリンカンドリーム。

この日本とアメリカのいいとこ取りな展開や設定がたまりません。

もしかしたら日本人ってこんなアメリンカンドリームをいつだって憧れているのかも・・・なんて思いました。


今回のテーマは「音楽」なので、ミュージックビジネス・音楽業界の権謀術数がたくさん描かれています。

この辺は作者の勝手知っているところで、さすがに描写が丁寧でうまいです。

でもこういうビジネスにも汚れることなく、自分を貫き通すメンバーたちがいます。

何があってもいつまでも変わらないことは必ずあります。


このメンバーにとっては「音楽を誰よりも愛していること」がそれですかね。

こんな純粋な気持ちや想いがこの小説をより一層魅力的なものにしているんだな、と感じました。


・読んだ日:'98/02/15~02/17。


『月はピアノに誘われて』 『月はピアノに誘われて』 - 木根 尚登(TMN)

出版社 : 角川書店
出版日 : '91/06/30
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『周 公旦』古代中国、周王朝の建国の功臣、周公旦の後半の半生記です。

古代中国の周といえば、神話と史実の端境期。そんな時代に生きた人物です。物語の内容や雰囲気がそんな時代背景を色濃く映し出しているのが印象的です。


一代の傑物、最強の兵法家太公望。兄であり君主である周王。

そんな稀代の傑物たちとの関係の描き方がまずうまいな~と感じます。

底知れない怖さや危うさ、そんな雰囲気を上手に描いています。

特に太公望・・・こんな人物と平時に渡り合うことはできないな~。

「狗兎死して走狗煮らる」とはいかないぐらいの人物なんですね・・・。


周公旦と言うと「礼」の創始者として有名です。

人民のため、そして国のために悩み続けた人物であったに違いありません。

それは相容れることの無い「大義」と「礼」、「礼」と「戦」、「戦」と「大義」という矛盾に苦悩した姿が想像できるからです。

中国をそして東アジアを形成する「礼」と「儒」をまとめたのは言葉に出せないほどの功績です。

しかしその功績は、「礼」と「儒」が決して認めない「戦」によってなされたのがものすごく皮肉だな~と感じました。


本の内容は濃く、厚いです。実際序盤~中盤まではちょっと冗長な感じは否めません。

しかし中盤以降、当時蛮の国であった楚に亡命するくだりは面白いです。

これぞ周公旦の真骨頂!とうなります。

矛盾と戦うことだけではなく、矛盾をどう受け入れるのかということを知ることのできる一冊です。


・読んだ日:'00/05/29~05/30。


『周 公旦』 『周 公旦』 - 酒見 賢一

出版社 : 文芸春秋
出版日 : '99/11/10
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『たのもしき日本語』『月刊カドカワ』連載していた日本語のお話。

これは日本語の名著ですよ~。

まさしく、帯にあるように「日本語やそれ以外の言葉を明快に憶測」。

日本語を、明快に明るく笑い飛ばす楽しさ、ばかばかしさがたくさん詰まっています。


 いろいろな単語や動詞、いろんな言葉のイメージや概念を語り尽くすだけなのですが、その語り口や切り口、発想がとにかく奇抜で独創的で、若干飛んでいる(笑い)のが楽しいです。


 前半は日本語、後半は外来語(ロシア・フランス・オランダ・ドイツ・アイヌなど)なのですが、語感の響きや言葉の響きのイメージを日本語の対訳と照らし合わせているのが面白いです。

この本を読むと、日本語の奥深さや楽しさをすごく感じます。

こんなにたくさんの外来語が日本に定着するなんて本当に懐の深い言語なんだな~と嬉しく感じました。


巻末の挨拶が特に秀逸です。

 挨拶に「GOOD」を付けない日本語の奥ゆかしさが楽しいです。「日本語を使う日本人に生まれてよかった!」とすら感じました。

普段何気なく使っている言葉たちにいろいろな思いや意味が内包されていると思うと楽しくてなりません。

まさに「日本語のたのもしさ」を感じることのできる一冊です。


・読んだ日:'99/07/14~07/16。


『たのもしき日本語』 『たのもしき日本語』 - 吉田 戦車・川崎 ぶら
出版社 : 角川書店
出版日 : 94/01/31
売り上げランキング : 129,105
おすすめ平均☆

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『イエロー・サブマリン』 作者病没のために絶筆となったしまった長編野球小説です。

 山際 淳司さんはノンフィクション作家さんで、たまに短編なども書かれていたのですが、長編、しかも題材が野球ということがとても珍しく、嬉しく、楽しく感じました。

 メジャーリーグに携わるオールドプレーヤーやオールドスカウト、チームメイトやオーナーなどの登場人物たちが人間味にあふれていて暖かい。ここにはアメリカ野球の爽快さや、快活さ、抜ける青空のような気持ちよさがあります。


この小説を読んで、まず古代中国の諸氏百家の思想「性善説」を思い起こしました。

それは、人と人とのつながりの素晴らしさ、そしてそれを大事にすることはいつの時代でもどの国でも関係なのかな、と感じたからです。


 登場する父と子、田島光と佐々木幸一の描き方や空気感がすごく上手でした。

変に粘着質でべたべたせずに、かと言ってドライすぎもしない。この絶妙の距離感を情感豊かに描いています。

 この「父」としての在り方や考え方といったものを考えさせられました。

男として、男にしかわからないもの。そして男と男に通じ合っているもの、そういったものをキャッチボールのように伝えられ合うことのできるようになりたいな、と感じました。


・読んだ日:'98/07/01~07/05。


『イエロー・サブマリン』 『イエロー・サブマリン』 - 山際 淳司

出版社 : 小学館
出版日 : '98/06(発刊は文庫のみ)
売り上げランキング : 319,141

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『イン ザ・ミソスープ』読売新聞に連載していた小説の書籍化。

帯の文、「子供の犯罪に理由はない。子供の迷子に理由がないのと同じだ。」がこの本のすべての内容を凝縮しています。


子供・特に赤ちゃんは最初は残酷です。おもちゃを壊したり、動物をいじめたりします。

小さいうちにこの「魔」を落とされてみんな大人になっていきます。
もし、その「魔」が落とされずに大人になったら?

これは考えただけでも怖いです。


ストーリーは単純です。展開も明解です。が、その内容は鮮烈で、暴力に満ちています。


この本を読むと、今いる日本人の思想や価値観がいかにばかげているかを思い知らされます。

当時オープンしたばかりの高島屋タイムズスクウェア。タイム社の建物が何もないのになぜタイムズスクウェアだったのでしょうか?

こんなことがまかり通っていますし、今現在ですら状況は変わっていないような気がします。


殺人鬼フランク。彼に殺されるような日本人にはなりたくないと感じました。

平和に浸かり過ぎ、平和に慣れ過ぎてしまった日本人。彼はそんな日本にやってきました。

その理由がすごく面白い、と感じました。

ラストはネタバレになってしまうので言いませんが、こういう日本であること、こういう日本に住んでいることをもっと誇りに思いたいと感じた1冊です。


・読んだ日:'98/02/27。


『イン ザ・ミソスープ』 『イン ザ・ミソスープ』 - 村上 龍

出版社 : 読売新聞社
出版日 : '97/10/16
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『アムリタ(下〉』『アムリタ』(上) の続き。オカルトな弟のためにサイパンに旅立った主人公。

そのサイパンでの後編~新しい人物たちとの出会い。

長編ですが、こうやってどんどん新しい登場人物たちが現れて飽きさせません。


 誰もが「ここにいる」「ここにこうして生きている」と自己表現をしています。それは活動しているときだけではなく、眠っているときも、死んで魂になってしまってもです。

 「生」は永遠ではありません。だから楽しい。

 誰も自分のことをわかってはくれません。だから「友」を作る。

 矛盾やパラドックスだらけですが、ここには「幸福」や「生」の不思議やいたたまれなさがすごくあふれています。

 この小説は普通ではない人たちの悲しさややるせなさ、思いが詰め込まれています。


 主人公の朔美ちゃんはこういった「非常人」や「超人」を「常人」に中和してくれているような気がしました。

こういう能力は誰にでも生まれ持ったものではないような気がします。

 「生」を割り切り、「魂」を割り切り、「自分」を割り切り、「幸福」を割り切る。このを割り切るとは、クールになるとか、冷静になるとか、冷めるとかではなく、存在していること、ここにあることを認めることかもしれません。言葉で言うと簡単なような感じがしますが、できないことでしょう。


 この本のタイトル『アムリタ』。

これの言葉の意味は「生きていることはごくごくと水を飲むということ」という意味です。

 この言葉。すごくこの本の内容を表しているように感じました。

水は吸収されます。生きるには必要不可欠です。しかし、存在を忘れてしまいがちです。このあまり重要に感じないことをきちんと重要に感じよう、という主題。すばらしいことだなと思いました。


長編で、内容もオカルト的でとっつきづらいような感じがするかもしれません。

だからこそ伝えたい思い、感じて欲しい心、忘れてしまった何かを思い出させてくれます。

吉本ばななさんだからこそ実現した不思議で暖かい、素晴らしい物語です。


・読んだ日:'99/07/15~07/16。


『アムリタ(下〉』 『アムリタ(下〉』 - 吉本 ばなな(よしもと ばなな)
出版社 : 新潮社(書籍は福武書店)
出版日 : '02/09(書籍は'94/01/12出版)
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