このブログの昔の記事のリンクから次の立体にたどり着きました。
Pyritohedral near-miss johnson - Pentahexagonal pyritoheptacontatetrahedron - Wikipedia
この画像が載っているのは、次の英文wikiのページです。
Pentahexagonal pyritoheptacontatetrahedron - Wikipedia
展開図(net)も載っています。
立体の英名は次の通り。
pentahexagonal pyritoheptacontatetrahedron
ウーム、長いですねぇ・・・
和名はまだないようなので、記事の題名の通り「5角6角Th対称74面体」としておきます。
こう訳す理由とその意味についてはこの後で解説します。
英語の読みをカタカナで示します。
「ペンタヘㇰサゴナㇽ゚ パイライトヘㇷ゚タコンタテㇳラヘドロン」
まず英語の名称の説明から。
pentagonal:5角形の <- pentagon 5角形
hexagonal:6角形の <- hexagon 6角形
pyrito:黄鉄鉱の <- pyrite 黄鉄鉱
heptacontatetrahedron:74面体 <- hepta +conta +tetra +hedron
ペンタゴン the Pentagon は、米国防総省を意味しますが、これはその建物の形が5角形であることから名付けられています。
学名に数字を含めるときは、古典ギリシア語から由来した接頭辞を用います。
ここで用いられているのは、次の5種類です。
penta:五
hexa:六
hepta:七
conta:十
tetra:四
このうち、“conta” は見慣れないと思うかもしれませんが、30,40,・・・,90 の「十」を表します。
また、 “gon” は、「~角形」を表す接尾辞で、”gonal” だと形容詞形「~角形の」です。
“hedron” は、~面体を表す接尾辞です。
分からなかったのが、”pyrito” です。
“pyrite” が黄鉄鉱なので、「黄鉄鉱的」つまり「黄鉄鉱の対称性を有する」という意味と解釈しました。
しかし、この多面体のような規則性をもつ黄鉄鉱の結晶写真は見つかっていません。
(黄鉄鉱は化学組成が FeS2 で、鉄Feと硫黄Sからなります。キンキラキンに輝くので、「愚者の金」として有名な鉱物です。)
英文wikiを読むと、”pyrito” は Th という対称性を表すようです。
これについては、最後に解説します。
以上から、意味をとって全体を訳すと次のようになります。
・5角形の面と6角形の面をもちTh対称性を有する74面体
でも、これでは長すぎるので「5角6角Th対称74面体」と略したわけです。
この立体はニアミス立体(near-miss Johnson solid)に分類されます。
ニアミス立体とは、「面がほぼ正多角形からなる凸多面体」のことです。
ニアミス立体のご紹介1 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
すべての面が正多角形であれば、正多面体(5種類)、半正多面体(13種類)、正角柱(無限系列)、反正角柱(無限系列)、ジョンソン立体(92種類)のいずれかに分類されるはずですが、この立体は何れでもありません。
したがって、この立体の面はすべてが正多角形ではないのですが、一見するといずれの面も正多角形に見え、ニアミス立体としては立派な方です。
Wikiによると、5角形と6角形は正5角形、正6角形にできるようですが、その場合、3角形は少し歪むとのことです。
ただ、紫の3角形だけは対称性から間違いなく正3角形です。
英文wikiの解説によると、2006年にメーソン・グリーン(Mason Green)によって発見されたとのこと。
次にこの立体の多面体としての各要素(頂点、稜、面)の数を数えます。
面、頂点、稜の順です。
画像をご覧になりながら、以下の解説をお読みください。
まず面から。
面は分かりやすいように、
6角形:青
5角形:緑
3角形:黄、赤、紫
の5色に塗り分けられています。
同じ3角形でも、その位置により黄、赤、紫の3種類があります。
それぞれの枚数を数えます。
青い6角形の面は、立方体の面の位置にあるので、全部で6枚。
紫の3角形の面は、立方体の頂点の位置にあるので、全部で8枚。
緑の5角形の面は、立方体の稜の位置にあるので、全部で12枚。
赤い3角形の面は、紫の面1枚につき3枚あるので、8×3=24枚。
黄色い3角形の面は、赤の面と1対1で対応しているので、24枚。
3角形の面は、黄、赤、紫を合計して、8+24+24=56枚。
したがって、面の数は全部で、56+12+6=74枚。
74は名称にも入っていますね。
次は頂点です。
頂点には次の3種類があります。色も併記します。
(3356) 黄赤緑青
(3536) 黄緑黄青
(33335) 赤紫赤黄緑(or 黄赤紫赤緑)
ここで (n1n2n3…) という数字は、その頂点を取り囲む面が順にn1角形、n2角形、n3角形、・・・であることを表します。
小さい数字を先にしていますが、時計回りのものも反時計回りのものもあります。
それぞれの個数を数えます。
頂点(3356) 黄赤緑青 は、青の6角形の面1枚につき4個あるので、6×4=24個。
頂点(3536) 黄緑黄青 は、青の6角形の面1枚につき2個あるので、6×2=12個。
頂点(33335) 赤紫赤黄緑 は、紫の3角形の面1枚に付き3個あるので、8×3=24個。
したがって、頂点の数は、全部で 24+12+24=60個となります。
最後は稜の本数です。
稜にはそれを挟む面に応じて、紫-赤、赤-黄、赤-5、黄-5、黄-6、5-6 の6種類あります。
紫-赤 は、紫の3角形の辺なので、8×3=24本。
赤-黄 は、赤の3角形と同数なので、24本。
赤-5 は、赤の3角形と同数なので、24本。
黄-5 は、黄の3角形と同数なので、24本。
黄-6 も、黄の3角形と同数なので、24本。
5-6 は、5角形と同数なので、12本。
したがって、稜の数は、全部で 24+24+24+24+24+12=132本となります。
まとめると、次のようになります。
・面:5種類、74枚
3角形:56枚
紫:8枚
赤:24枚
黄:24枚
5角形 緑:12枚
6角形 青:6枚
・頂点:3種類、60個
(3356) 黄赤緑青:24個
(3536) 黄緑黄青:12個
(33335) 赤紫赤黄緑:24個
・稜:6種類、132本
青-赤:24
赤-黄:24
赤-5:24
黄-5:24
黄-6:24
5-6:12
オイラーの多面体公式は次のように成り立っています。
60 -132 +74 = 2.
面と稜の数の関係、頂点と稜の数の関係も次のように成り立っています。
3×56 +5×12 +6×6 = 2×132 = 264.
4×24 +4×12 +5×24 = 2×132 = 264.
要素数を数えたので、次は対称性です。
面の数を数えたとき、立方体と対比しました。
立方体の場合には向かい合う正方形の面心を貫くのは4回回転軸ですが、問題の立体では青い6角形の面心を貫く2回回転軸C2が3本あります。
また、紫の正3角形の面心を貫く3回回転軸C3が4本あります。
同様の対称性をもつ身近な立体として、バレーボールのボールがあります。
バレーボール用ボール20選!種類・値段・大きさなど人気メーカーごとに徹底解説 - ファブスポーツ (med-fitness.jp)
最初の画像(色は無視してください)か次の多数のボールが重なったモノクロの画像をご覧ください。
この立体(バレーボールのボールも同じ)の回転群は、正4面体と同じ回転対称性をもつので、T です。
また、鏡映や反転を含めた合同群は、Th になります。
回転群 T は位数12、合同群 Th は位数24です。
Th は実はこのブログ初出です。
(私は独自にエクセルで多面体のデータベースをつくっており、約200種類の多面体を登録していますが、Th対称性をもつのはこれだけです。)
Th は変格操作(回転ではない合同変換)を12個含みますが、そのなかには空間反転と、6角形と5角形を2分する対称線をもつ鏡映3種類もあります。
それに対し、正4面体の合同群 Td は空間反転を含まず、鏡映も Th とは異なります。
Th についてはもっと詳しく解説したいのですが、シェーンフリース記号の体系的説明もまだなので、別の機会にします。
多面体など幾何の連載一覧 | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)
★ 昨日と本日(1月28・29日)、藤井聡太王将に羽生善治九段が挑戦する第72期ALSOK杯王将戦七番勝負の第3局が石川県金沢市の金沢東急ホテルで行われ、95手で先手の藤井王将が勝利しました。これで王将の側から見て2勝1敗となり、防衛に向けてまた一歩前進しました。第4局は、2月9・10日に行われます。藤井王将は、羽生九段先手の第4局に勝てれば、防衛はほぼ確実となりますが、負ければタイに戻るので、次こそが正念場です。