ニアミス立体のご紹介1

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目次
 0.はじめに
 1.英文wikiのリスト
 2.切頂カタラン立体ほか
 3.ペトリー拡大
 4.対称多面体
 5.雑多なニアミス立体
 6.フラーレン、ゴールドバーグ多面体など
 7.おわりに


 0.はじめに
「ニアミス」”near miss”は日本語にもなっていますが、航空機どうしの異常接近を意味します。
(英語には他にも意味があるようです。)
ニアミス立体(near-miss solid)というのは、詳しくはニアミスジョンソン立体(near-miss Johnson solid)のことで、ジョンソン立体と見間違えるような立体という意味です。
以前ご紹介したジョンソン立体の定義は、「面がすべて正多角形からなる凸多面体のうち、正多面体、半正多面体、正角柱、反正角柱のいずれでもないもの」で、全部で92種類ありました。
それと見間違うというのですから、一見面がすべて正多角形であるように見えるが、正確には(少なくとも一部は)正多角形ではない凸多面体ということです。
これを略して、「面がほぼ正多角形からなる凸多面体」ということにします。
しかし、一見正多角形に見えるというのは曖昧な表現であり、ニアミス立体とそうでない立体の間に厳密な境界は存在しません。
まあ、紙などを使い正多角形の面で構成してみて一見して歪みが分からなければ(あるいは目立たなければ)、ニアミス立体といってよいと思います。

そういう事情でニアミス立体の範囲はそもそも限定できないのですが、以下では、英文のいろいろなサイトからニアミス立体(と私が判断するもの)のリストを引いて、私なりに解説を付けます。
解説を付けるのは読者の理解のためばかりではなく、万一そのサイトが閉鎖・削除されてしまっても文章の記述だけでニアミス立体を再構成できるようにするためでもあります。

なお、本稿は多面体シリーズの第9弾です。
これまでの多面体シリーズの連載は次の通り。
(1) 正多面体のご紹介1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/67542574.html (2回)
(2) 半正多面体のご紹介1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68018327.html (2回)
(3) ジョンソン立体の解説1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68080663.html (3回)
(4) 整凸多面体などについてもろもろ1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68340624.html (3回)
(5) 正多面体と基本単体1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68419441.html (3回)
(6) 正多面体と群1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68563131.html (4回)
(7) 菱形多面体のご紹介1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/70297013.html (2回)
(8) 平行多面体のご紹介1:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/70345664.html (3回)


 1.英文wikiのリスト
英文のWikipediaには、"Near-miss Johnson solid"という項目があり、ニアミス立体の例として11種類の立体が表の形で整理されています。
https://en.wikipedia.org/wiki/Near-miss_Johnson_solid
小さい立体をクリックすると拡大します。
この表に載っている立体に、上から順に番号を振って、Nwiと呼ぶことにします。
ただし、iは1~11までの番号、wはwikipediaの頭文字です。
順に解説します。
なお、名称の後の記号はコンウェイ記号と呼ばれるもので、意味は次の通りです。
 元となる立体
T:正4面体、C:立方体、O:正8面体、D:正12面体、I:正20面体、
Pn:正n角柱
 操作(アルファベット順)
 a:中点切り(ambo)、c:切稜(chamfer)、d:双対(dual)、e:拡大(expand)、k:方化(kis)、
t:切頂(truncate)、tn:n価の頂点のみ切頂、s:捩り切り(snub)
たとえば、Nw2のt6dtTは、正4面体Tを切頂tしてから、その双対dをとり、さらに6価の頂点を切頂したものです。

・Nw1 切頂双3角錐 t4dP3
双3角錐J12(dP3)はジョンソン立体の一種で、2つの正4面体(正3角錐)を貼り合わせたもの。(J12はジョンソン立体のリストの12番という意味)
貼り合わせた部分にできる4価の頂点3個を切頂すると、Nw1が得られる。
元の正3角形の面6枚は5角形になり、切頂した部分には4角形の面が3枚できる。
対称性は、正3角柱や双3角錐と同じD3h(位数12)。

・Nw2 切頂3方4面体 t6dtT=t6kT
3方4面体”triakis tetrahedron”はカタラン立体の一種で、半正多面体の一種である切頂4面体の双対。
「3方」は”triakis”(トリアキス)の訳で、元の立体(この場合は正4面体)の正3角形の面すべてに3角錐を取り付けたものという意味。
3方4面体の頂点には3価のもの4個と6価のもの4個があるが、うち6価の頂点をすべて切頂すると、Nw2が得られる。
3方4面体の12枚の鈍角2等辺3角形は5角形となり、切頂した部分には4枚の6角形ができる。
対称性は、切頂4面体と同じTd(24)。

次の2つもカタラン立体から作られます。
・Nw3 切稜立方体=切頂菱形12面体 t4daC=cC
Nw3を作るには2つの方法がある。
準正多面体の一つである立方8面体の双対である菱形12面体(カタラン立体の一種)には、3価の頂点が4個と4価の頂点が6個あるが、うち4価のものをすべて切頂すると、Nw3が得られる。
切頂により12枚の白銀菱形はすべて6角形となり(本ブログでは白銀6角形と呼ぶ)、切頂でできた面6枚は正方形となる。
もう一つの方法は、立方体の切稜(せつりょう)である。
(切稜の原語は”chamfered”(チャムファド)で、「面取り」という建築関係の訳語がありますが、私は大工さんではないので(^_^、”truncated”(トランケイティド)の「切頂」に合わせて「切稜」という訳語を提案します。)
切稜とは稜を削り取る操作で、削り取られた稜は6角形になる。
また、切稜は、一般に「元の立体の各面を切り離して、その間に6角形を挿入する操作」とも解釈できる。
(立体と面の絶対的大きさは問わないので、両者は同じことになる)
ただし、6角形の角度がどうなるかは元の立体により異なる。
対称性は、立方体と同じOh(48)。

ここで、順番を変えて、Nw3と同じ方法で作られるNw7を取り上げます。
・Nw7 切稜12面体=切頂菱形30面体 t5daD=cD
準正多面体の一つである20・12面体の双対である菱形30面体(カタラン立体の一種)には、3価の頂点が20個と5価の頂点が12個あるが、うち5価のものをすべて切頂すると、Na7が得られる。
切頂により30枚の黄金菱形はすべて6角形となり(本ブログでは黄金6角形と呼ぶ)、切頂でできた面12枚は正5角形となる。
Nw7を作るもう一つの方法は正12面体の切稜である。
削り取られた稜は6角形となる。
対称性は、正12面体と同じIh(120)。

次のNw4、Nw5、Nw6はいずれも丸塔に関連した立体です。
ジョンソン立体の一種である正5角丸塔J6=R5とは、20・12面体を2つに割って得られる立体で、正3角形10枚と正5角形6枚、正10角形1枚からなり、正10角形を底面とし正5角形のうち中央のものを天井とすると、安定した空間配置となります。
単に丸塔というと、R5を指します。
R5の隣接する正5角形2枚とそれらに挟まれる正3角形2枚からなる部品を、R2と呼びます。
ジョンソン立体の一種である双三日月双丸塔J91には、R2が2つ含まれています。
次に、R5の隣接する正5角形3枚と正3角形4枚からなる部品を、R3と呼びます。
ジョンソン立体の一種である(どん尻に控えている)3角広底球形屋根丸塔J92には、R3が1つ含まれています。
ただし、R2、R3ともに以下ではニアミス立体の部品となっているので、3角形が正3角形ではなくなっている点にご注意。
ここまでが準備です。

・Nw4 名称なし
Nw4は、底面と天井が正6角形、側面が6つのR2からなる。
対称性は、正6角柱と同じD6v(24)。

・Nw5 名称なし (R2)3(R3)2
Nw5は、上蓋(ふた)と下蓋がR3、両者をつなぐ側面が3枚のR2でできている。
対称性は、正3角柱と同じD3v(12)。

・Nw6 4面化12面体 (R3)4
Nw6は、4つのR3を正4面体と同じように貼り合わせたもの。
名称に含まれる「12面体」は、正12面体を3枚の正5角形からなる断片4つに切り分けて間に3角形を挟んでできたものというニュアンスかと。
対称性は、正4面体と同じTd(24)。

Nw8~Nw11までの4種類の立体は、いずれも切頂20面体から作られます。
切頂20面体とはいわゆるサッカーボール形で、正5角形12枚と正6角形20枚から構成される半正多面体です。(実は、最近のサッカーボールは違うようですけど)
切頂によりできる半正多面体が全部で5種類ある中で、切頂20面体だけなぜニアミス立体を作ることができるのかというと、その面を構成する正5角形と正6角形の大きさが近いため、中点切り等の操作によりニアミス立体となるのです。
切頂20面体の対称性は、正12面体・正20面体の一族なので、Ih(120)です。

・Nw8 中点切切頂20面体 atI
切頂20面体に中点切りaを行ったもの。
中点切りとは、立方体Cと正8面体Oから立方8面体aC=aOを作り、正12面体Dと正20面体Iから20・12面体aD=aIを作る操作のこと。
切頂20面体の稜は、正5角形と正6角形に挟まれるものと2枚の正6角形に挟まれるものの2種類あるので、その中点にも2種類あるため、3角形は正3角形ではなくて2党辺3角形になる。
Nw8は、3角形60枚、正5角形12枚、正6角形20枚から構成される。
対称性は切頂20面体と同じIh(120)。

・Nw9 切頂切頂20面体 ttI
切頂20面体にさらに切頂を行ったもの。
(「切頂切頂」はあまりにも芸がない気がするので、「二重切頂」にしようかとも思いましたが、文字数が短くなるわけでもなし、まあいいか(^_^)
3角形はやはり2等辺3角形。
Nw9は、3角形60枚、正10角形12枚、正12角形20枚から構成される。
対称性は切頂20面体と同じIh(120)。

・Nw10 拡大切頂20面体 etI
切頂20面体の各面を引き離して、頂点に正3角形、2枚の正6角形の間に正方形、正5角形と正6角形の間にほぼ正方形(正確には台形)を入れたもの。
正5角形の辺の長さは、正6角形の辺の長さよりわずかに短い。
立方体(正12面体)に同じ拡大操作eを行ったものが斜方立方8面体eC(斜方20・12面体eD)。
Nw10は、正3角形60枚、4角形90枚、正5角形12枚、正6角形20枚から構成される。
対称性は切頂20面体と同じIh(120)。

・Nw11 ねじれ切頂20面体 stI
切頂20面体に捩じり切りsを行ってできる立体。
捩じり切りとは、立方体からねじれ立方体sCを、正12面体からねじれ12面体sDを作る操作。
Nw11は、3角形240枚、正5角形12枚、正6角形20枚から構成されるが、3角形はさらに役割の異なる黄色の60枚と水色の180枚に分けられる。
ねじれ立方体やねじれ12面体と同じくNw11もキラルであり、対称性はねじれ12面体と同じI(60)。

以上出てきた多面体を表の形で整理しておきます。
番号  名称         対称性  面 稜 頂点  面の内訳     
        コンウェイ記号     F  E  V   F3 F4 F5 F6   .
Nw1 切頂双3角錐  t4dP3  D3h(12)  9 21 14  0 3 6 0
Nw2 切頂3方4面体 t6dtT  Td(24)  16 42 28  0 0 12 4
Nw3 切頂菱形12面体 t4daC Oh(48)  18 48 32  0 6 0 12
  ( 切稜立方体   cC )
Nw7 切頂菱形30面体 t5daD Ih(120) 42 120 80  0 0 12 30
  ( 切稜12面体   cD )
Nw4 名称なし        D6h(24) 26 54 30  12 0 12 2
Nw5 名称なし  (R2)3(R3)2 D3h(12) 26 51 27  14 0 12 0
Nw6 4面化12面体   (R3)4 Td(24)  28 54 28  16 0 12 0
Nw8 中点切切頂20面体 atI  Ih(120)  92 180 90  60 0 12 20
Nw9 切頂切頂20面体  ttI Ih(120)  92 270 180 60 0 0 0

                           F10=12, F12=20
Nw10 拡大切頂20面体  etI Ih(120)  182 360 180  60 90 12 20
Nw11 ねじれ切頂20面体 stI I(60)   272 450 180  240 0 12 20

.番号  頂点の内訳       .
Nw1 2(555), 12(455)
Nw2 4(555), 24(556)
Nw3 24(466), 8(666)
Nw7 60(566), 20(666)
Nw4 12(556), 12(3355), 6(3535)
Nw5 6(555), 12(3355), 9(3535)
Nw6 4(555), 12(3355), 12(3535)
Nw8 60(3536), 30(3636)
Nw9 120(3,10,12), 60(3,12,12)
Nw10 60(3454), 120(3464)
Nw11 60(33335), 120(33336)
(注)1 面の内訳は、現われることの多い3角形(F3)から6角形(F6)までは表の形で載せ、7角形より大きい面は「Fn=」の形で載せた
2 Nw5とNw6のコンウェイ記号の欄は、コンウェイ記号ではなく、以前の連載「ジョンソン立体のご紹介」で紹介したときのものである。
3 頂点の内訳は、たとえば12(455)なら周りに面が4角形、5角形、5角形の順に並ぶ頂点が12個あるという意味である。ただし、時計回りか反時計回りかは問わない。10角形以上の面がある場合は間に「,」を入れた。

------------------------ 続 く -----------------------

 

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