関手の性質と随伴3 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 関手の性質と随伴1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12618803922.html

 関手の性質と随伴2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12619031952.html

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  5.さまざまな随伴の例

 ここからは、随伴を構成する関手たちの例を取り上げます。

 互いに逆向きの3つ以上の関手が随伴関係でつながっているとき、これを随伴の鎖(chain)といいます。

 例示の最後の方では関手の関手も出てきて(5-10)、相当複雑になります。

 

 

   5-1 代数の圏における忘却関手と自由関手

 

 第1節では、忘却関手と自由関手について紹介しました。

 2つの代数構造の圏について、その間の忘却関手U と自由関手F は多くの場合に次の随伴関係をもちます。

   自由関手 ┤ 忘却関手,

 または

   FU   U :忘却関手,F :自由関手.

 あるいは 標語的に

 ・自由関手は忘却関手の左随伴である。

 ・忘却関手は自由関手の右随伴である。

 

 いくつか例を挙げると、

     Grp     CRing     Vect k      Ab

   F↑ ┤↓U   F↑ ┤↓U   F↑ ┤↓U   F↑ ┤↓U

     Set      Set       Set      Grp

 他にもたくさんありますが、一つ一つを丁寧に説明するのは自由関手の部分が大変です。

 

 最初のものだけみておくと、

   g:F X → G   in Grp

   f :X → U G  in Set

 例示として、2元集合 X={x, y} と,位数3の巡回群(加法表示) G=C3=3 をとります。

 FX はxとyから生成される自由群(乗法表示)、UG は集合{0, 1, 2}となります。

 さらに射の例として、

   写像 f :{x, y}→{0, 1, 2};x|→1,y|→2

 をとると、

   群準同型 g;e|→0,x|→1,x2|→2,x3|→0,y|→2,y2|→1,y3|→0

 となります。

 

 忘却関手と自由関手の随伴関係は、両者とも正確な定義があるわけではないので、多くの場合に成り立つというだけです。

 ただ、最も簡単な代数構造の圏と見なすことのできる集合圏 Set への忘却関手に対しては、ほとんどの場合に左随伴となる自由関手が存在します。

 一方で、忘却関手はほとんどの場合に右随伴をもちません。

 

 でも、「ほとんどの場合」というのは当然例外があるわけで、その例外とは

 ・左随伴ももたない忘却関手 : 体の圏から集合圏への忘却関手 UFldSet

   ∵ 0 が乗法に関して逆元をもたないため

 ・左随伴だけでなく右随伴ももつ忘却関手 :

 群の圏からモノイドの圏への忘却関手(包含関手)UGrpMon

   左随伴F は、モノイドに、群にするのに必要な逆元を放り込む関手

   右随伴S は、モノイドの元のうち、逆元をもつ元だけから群をつくる関手

      Grp

   F↑ ┤↓U ┤↑S

      Mon

 私の考えた例ですが、0 以外の整数が乗法に関してなすモノイド (×, ×, 1) については、

  左随伴による像は 0 以外の有理数の乗法群 (×, ×, 1)、

  右随伴による像は乗法群 ({1, -1}, ×, 1)

 となります。

 ( ( ) 内は (台集合, 演算, 単位元) の意味で、右上添字×は 0 を取り除くことを意味します。)

 

 

   5-2 位相空間の圏 Top の忘却関手とその左右随伴

 

 位相空間の圏 Top の対象は位相空間、射は連続写像です。

 Top から Set への忘却関手U には、左右の随伴が存在します。

 

     Top     U :忘却関手(位相空間をその台集合に写す)

   ↑ │ ↑    I :集合に密着位相(indiscrete topology)を導入する関手

   DUI    D:集合に離散位相(discrete topology)を導入する関手

   │ ↓ │

     Set

 

 密着位相とはすべての部分集合が開である位相 O (X)=P (X)、

 離散位相とは全空間Xと空集合∅だけが開集合である位相 O (X)={X, ∅} です。

 ただし、O (X) は位相空間Xの開集合系(開集合全体の集合)、P (X) は集合Xのべき集合(部分集合全体の集合)。

 

 以下、Xを位相空間、Yを集合とします。

   UX → Y  in Set

   X → IY   in Top

 上→下:任意の写像 f に対して、密着位相空間 Y の開集合Yと∅の逆像は

   f-1(Y)=X,f-1(∅)=∅ となるので、f は連続写像となります。

 下→上:連続写像は写像なので、Top の射は Set の射です。

 

   DY → X  in Top

   Y → UX  in Set

 下→上:離散位相空間 DY の部分集合はすべて開集合なので、任意の写像 f に対して 位相空間Xの開集合Uの逆像 f-1 (U) も開集合となり、f は連続写像となります。

 

 

   5-3 小圏の圏 Cat の忘却関手と随伴の鎖

 

 小圏の圏 Cat から Set への忘却関手を含む次の随伴の鎖が存在します。

      Cat

   │ ↑ │ ↑

   CDOI

   ↓ │ ↓ │

      Set

 O :小圏をその対象(object)のつくる集合に写す関手。

  小圏間の関手は集合間の写像に写されるが、小圏内の射は無視される。

 D :集合を離散圏(discrete category)に写す関手。

  離散圏とは、恒等射以外の射をもたない圏。

 I :集合の全要素間に前順序≦を導入して前順序圏に写す関手。

  すべての対象間で成り立つ≦を射とみなす。

   ∀x,y (x≦y ∧ x≧y).

 C :小圏を「対象間に射が存在する」という同値関係で割った商集合に写す関手

  「対象間に射が存在する」という同値関係で割るとは、射でつながった複数の対象、たとえば次のX, Y, Z, W, Vを同一視する(一つにまとめて考える)ということ。

   X   Z   V

    ↘ ↙ ↘ ↙

     Y   W

 なお、関手C は左随伴をもたず、関手 I は右随伴をもたないので、この鎖はこれ以上左右に伸びません。

 

 関手O は小圏の構造を忘れる忘却関手なので、U を使ってもいいと思いますが、ここでは対象Objectの頭文字をとっています。

 関手DI は対象については同じですが、射について異なります。

 

   DX → S  in Cat

   X → OS  in Set

 DX→S:離散圏 DX を小圏Sに写す関手。

 X→OS:集合Xを小圏Sの対象集合に写す写像。

 g:DX→S は、小圏 DX の対象xをSの対象sに写し、DX の恒等射 1x をSの恒等射 1s に写す。DX には恒等射以外の射は存在しない。

 f :X→ OS は、集合Xの元xを OS の元 O(s) に写す。

 

   OS → X  in Set

   S → IX  in Cat

 OS→X:小圏Sの対象集合を集合Xに写す写像。

 S→ IX:小圏Sを前順序圏 IX に写す関手。Sの射 s→t は x≦y ∈X に写される。

 g:OS→X は、集合 OS の元をXの元に写す。

 f :S→ IX は、小圏Sの対象sを IX の対象xに写し、Sの射 h:s→t を X の射 h(s)≦h(t) に写す。h(s)≦h(t) は、h(s) から h(t) への唯一の射。

 

   CS → X  in Set

   S → DX  in Cat

 CS→X:小圏Sからできる商集合を集合Xに写す写像。

 S→DX:小圏Sを離散圏 DX に写す関手。

 g:CS→X は、集合 CS の元をXの元に写す。

 f :S→DX は、小圏Sの対象sとsに射で連結しているすべての対象 s', s" を離散圏D Xの対象xに写し、Sの射 h:s'→ s" を DX の恒等射1xに写す。

 

 -------------------------- 続 く ---------------------------

 

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