関手の性質と随伴1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12618803922.html
関手の性質と随伴2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12619031952.html
--------------------------------------------------------
5.さまざまな随伴の例
ここからは、随伴を構成する関手たちの例を取り上げます。
互いに逆向きの3つ以上の関手が随伴関係でつながっているとき、これを随伴の鎖(chain)といいます。
例示の最後の方では関手の関手も出てきて(5-10)、相当複雑になります。
5-1 代数の圏における忘却関手と自由関手
第1節では、忘却関手と自由関手について紹介しました。
2つの代数構造の圏について、その間の忘却関手U と自由関手F は多くの場合に次の随伴関係をもちます。
自由関手 ┤ 忘却関手,
または
F ┤U U :忘却関手,F :自由関手.
あるいは 標語的に
・自由関手は忘却関手の左随伴である。
・忘却関手は自由関手の右随伴である。
いくつか例を挙げると、
Grp CRing Vect k Ab
F↑ ┤↓U F↑ ┤↓U F↑ ┤↓U F↑ ┤↓U
Set Set Set Grp
他にもたくさんありますが、一つ一つを丁寧に説明するのは自由関手の部分が大変です。
最初のものだけみておくと、
g:F X → G in Grp
f :X → U G in Set
例示として、2元集合 X={x, y} と,位数3の巡回群(加法表示) G=C3=Z3 をとります。
FX はxとyから生成される自由群(乗法表示)、UG は集合{0, 1, 2}となります。
さらに射の例として、
写像 f :{x, y}→{0, 1, 2};x|→1,y|→2
をとると、
群準同型 g;e|→0,x|→1,x2|→2,x3|→0,y|→2,y2|→1,y3|→0
となります。
忘却関手と自由関手の随伴関係は、両者とも正確な定義があるわけではないので、多くの場合に成り立つというだけです。
ただ、最も簡単な代数構造の圏と見なすことのできる集合圏 Set への忘却関手に対しては、ほとんどの場合に左随伴となる自由関手が存在します。
一方で、忘却関手はほとんどの場合に右随伴をもちません。
でも、「ほとんどの場合」というのは当然例外があるわけで、その例外とは
・左随伴ももたない忘却関手 : 体の圏から集合圏への忘却関手 U :Fld→Set.
∵ 0 が乗法に関して逆元をもたないため
・左随伴だけでなく右随伴ももつ忘却関手 :
群の圏からモノイドの圏への忘却関手(包含関手)U :Grp→Mon.
左随伴F は、モノイドに、群にするのに必要な逆元を放り込む関手
右随伴S は、モノイドの元のうち、逆元をもつ元だけから群をつくる関手
Grp
F↑ ┤↓U ┤↑S
Mon
私の考えた例ですが、0 以外の整数が乗法に関してなすモノイド (Z×, ×, 1) については、
左随伴による像は 0 以外の有理数の乗法群 (Q×, ×, 1)、
右随伴による像は乗法群 ({1, -1}, ×, 1)
となります。
( ( ) 内は (台集合, 演算, 単位元) の意味で、右上添字×は 0 を取り除くことを意味します。)
5-2 位相空間の圏 Top の忘却関手とその左右随伴
位相空間の圏 Top の対象は位相空間、射は連続写像です。
Top から Set への忘却関手U には、左右の随伴が存在します。
Top U :忘却関手(位相空間をその台集合に写す)
↑ │ ↑ I :集合に密着位相(indiscrete topology)を導入する関手
D ┤U ┤ I D:集合に離散位相(discrete topology)を導入する関手
│ ↓ │
Set
密着位相とはすべての部分集合が開である位相 O (X)=P (X)、
離散位相とは全空間Xと空集合∅だけが開集合である位相 O (X)={X, ∅} です。
ただし、O (X) は位相空間Xの開集合系(開集合全体の集合)、P (X) は集合Xのべき集合(部分集合全体の集合)。
以下、Xを位相空間、Yを集合とします。
UX → Y in Set
X → IY in Top
上→下:任意の写像 f に対して、密着位相空間 IY の開集合Yと∅の逆像は
f-1(Y)=X,f-1(∅)=∅ となるので、f は連続写像となります。
下→上:連続写像は写像なので、Top の射は Set の射です。
DY → X in Top
Y → UX in Set
下→上:離散位相空間 DY の部分集合はすべて開集合なので、任意の写像 f に対して 位相空間Xの開集合Uの逆像 f-1 (U) も開集合となり、f は連続写像となります。
5-3 小圏の圏 Cat の忘却関手と随伴の鎖
小圏の圏 Cat から Set への忘却関手を含む次の随伴の鎖が存在します。
Cat
│ ↑ │ ↑
C ┤D ┤O ┤I
↓ │ ↓ │
Set
O :小圏をその対象(object)のつくる集合に写す関手。
小圏間の関手は集合間の写像に写されるが、小圏内の射は無視される。
D :集合を離散圏(discrete category)に写す関手。
離散圏とは、恒等射以外の射をもたない圏。
I :集合の全要素間に前順序≦を導入して前順序圏に写す関手。
すべての対象間で成り立つ≦を射とみなす。
∀x,y (x≦y ∧ x≧y).
C :小圏を「対象間に射が存在する」という同値関係で割った商集合に写す関手
「対象間に射が存在する」という同値関係で割るとは、射でつながった複数の対象、たとえば次のX, Y, Z, W, Vを同一視する(一つにまとめて考える)ということ。
X Z V
↘ ↙ ↘ ↙
Y W
なお、関手C は左随伴をもたず、関手 I は右随伴をもたないので、この鎖はこれ以上左右に伸びません。
関手O は小圏の構造を忘れる忘却関手なので、U を使ってもいいと思いますが、ここでは対象Objectの頭文字をとっています。
関手D と I は対象については同じですが、射について異なります。
DX → S in Cat
X → OS in Set
DX→S:離散圏 DX を小圏Sに写す関手。
X→OS:集合Xを小圏Sの対象集合に写す写像。
g:DX→S は、小圏 DX の対象xをSの対象sに写し、DX の恒等射 1x をSの恒等射 1s に写す。DX には恒等射以外の射は存在しない。
f :X→ OS は、集合Xの元xを OS の元 O(s) に写す。
OS → X in Set
S → IX in Cat
OS→X:小圏Sの対象集合を集合Xに写す写像。
S→ IX:小圏Sを前順序圏 IX に写す関手。Sの射 s→t は x≦y ∈IX に写される。
g:OS→X は、集合 OS の元をXの元に写す。
f :S→ IX は、小圏Sの対象sを IX の対象xに写し、Sの射 h:s→t を IX の射 h(s)≦h(t) に写す。h(s)≦h(t) は、h(s) から h(t) への唯一の射。
CS → X in Set
S → DX in Cat
CS→X:小圏Sからできる商集合を集合Xに写す写像。
S→DX:小圏Sを離散圏 DX に写す関手。
g:CS→X は、集合 CS の元をXの元に写す。
f :S→DX は、小圏Sの対象sとsに射で連結しているすべての対象 s', s" を離散圏D Xの対象xに写し、Sの射 h:s'→ s" を DX の恒等射1xに写す。
-------------------------- 続 く ---------------------------