関手の性質と随伴1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12618803922.html
関手の性質と随伴3:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12619225489.html
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5-4 終圏 1 への関手!とその左右随伴
ただ1つの対象*とその恒等射 1* だけからなる圏は、小圏の圏 Cat において終対象となることから、終圏と呼ばれ、1 ={*} と書きます。
(対象は何でもいいので、*としています。したがって、終圏は無数にありますが、同型を除き一意的です。)
任意の圏C から終圏 1 へのただ1つの関手は、C のすべての対象を*に写し、すべての射を恒等射 1* に写します。
これを!で表します。
!:C→1 ;X|→*,f |→1*.
終圏への関手!:C→1 は、左右の随伴をもち、それらはC の終対象と始対象を指定します。
C !:圏C から終圏 1 へのただ1つの関手
↑ │ ↑ U:圏C の終対象 1 を指定する関手
F┤!┤U F:圏C の始対象 0 を指定する関手
│ ↓ │
1
!X=* → * in 1
X → U*=1 in C
F*=0 → X in C
*→ !X=* in 1
終圏 1 では、射は*の恒等射 1*:*→* しか存在しないので、X→1 も 0→X も1通りに定まることが分かります。
ちなみに、終圏 1 は Cat の終対象ですが、Cat の始対象である空圏 0 からどの圏C に対してもただ1つの関手が存在します。
しかし、その関手は右随伴も左随伴ももちません。
これは、0 自身以外の圏から 0 に向かう関手が存在しないためです。
5-5 対角関手の右随伴は積関手、左随伴は余積関手
任意の圏C において、対角関手Δには左右の随伴が存在し、右随伴は積関手、左随伴は余積関手となります。
C Δ:C→C ×C ;X|→(X, X),f |→(f, f).
↑ │ ↑ ×:C ×C→C ;(X, Y)|→X×Y,(h, j) |→h×j .
+┤Δ┤× +:C ×C→C ;(X, Y)|→X+Y,(h, j) |→h+j .
│ ↓ │
C ×C
右随伴×
g:ΔX=(X, X) → (Y, Z) in C ×C
f: X → Y×Z in C
この式は、×の記号が上下両方に出てきて紛らわしいのですが、対 (Y, Z) は積圏 C ×C の対象です。
それに対して、Y×Z は対象どうしの積であり、圏C の対象です。
Δ
X → ΔX=(X, X)
h↙ ↓f ↘ j ↔ ↓g=(h, j)
Y ← Y×Z → Z ← (Y, Z)
p1 p2 ×
単位 ηX : X→X×X.
余単位 ε(Y, Z) : ((Y×Z), (Y×Z))→(Y, Z).
これは射影の対となっている。
p1: Y×Z|→Y, p2: Y×Z|→Z.
左随伴+
g: X+Y → Z in C
f:(X, Y) → ΔZ=(Z, Z) in C ×C
i1 i2 +
X → X+Y ← Y ← (X, Y)
h↘ ↓g ↙ j ↔ ↓f =(h, j )
Z → ΔZ=(Z, Z)
Δ
単位 ηX: (X, Y) →(X+Y, X+Y).
これは入射の対となっている。
i1: X|→X+Y, i2: Y|→X+Y.
余単位 εZ:Z+Z→Z.
Hom集合(射の集合)の形で書くと、
C (X, Y×Z) ≅ C ×C (ΔX, (Y, Z)) ≅ C (X, Y)×C (X, Z).
C (X+Y, Z) ≅ C ×C ((X, Y), ΔZ) ≅ C (X, Z) ×C (Y, Z).
あるいは同じことですが、
(Y×Z)X ≅ YX×ZX in C
Z(X+Y) ≅ ZX×ZY in C
ここでのべき乗は、いずれもHom集合を意味します。
極限・余極限として登場した終対象、始対象、積、余積が別の見方では随伴として捉えられるのは、圏論の世界の奥深さを示していると思います。
他の極限・余極限である等価子、余等価子、引き戻し、押し出しについても、随伴として捉えることができますが、今回は省略します。
5-6 積関手の右随伴はべき関手
集合の圏 Set には、べき集合というものがあります。
これを一般の圏に拡張します。
べきの定義 : 二項積をもつ圏C において、対象 XY と射 eval:XY×Y→X が次の性質をみたすとき、XY を対象YとXのべき(exponential)という。
・ 任意の対象Zと射 f:Z×Y→X に対し、
eval ○ (g×1Y) = f
となる射
g : Z→XY
がただ1つ存在する。
Z Z×Y
g↓ g×1Y↓ ↘ f
XY XY×Y → X
eval
このとき、射 eval を評価(evaluation)という。
また、fとgを互いの転置(transpose)という。
したがって、「転置の転置は元の射」である。
・ 集合の圏 Set におけるべきは、べき集合である。
・ 圏C において、対象XをべきXY に写す関手を、べき関手(exponential functor)といい、次の記号で表す。
-Y :C →C ;X|→XY,f|→ fY
ただし、射は f:X→X' に対して、 fY:XY→X'Y で表す。
・ 集合の圏 Set では、べき関手は P :Set→Set;X|→P (X).
射については、 f:X→Y に対して、 f:P (X) →P (Y);X' |→ f(X') 、ただし X‘⊂X。
なお、Set のべき関手にはここで出てきた共変のものと後で出てくる反変の逆像関手があるので、注意が必要です。
同様に、次の形の積関手を考えます。
-×Y:C →C ;X|→X×Y,f |→ f’
ただし、射については、 f:X→X’ を f':X×Y→X'×Y に写します。
・ 積関手 -×Y の右随伴は、べき関手 -Y である。
-×Y┤-Y
f:Z×Y → X in C
g:Z → XY in C
-×Y
Z → Z×Y
g↓ ↓f
XY ← X
-Y
Hom集合の形で書くと、
C (Z×Y, X) ≅ C (Z, XY).
あるいは同じことですが、
XZ×Y ≅ (XY) Z in C.
左辺も右辺も同じべき乗の形ですが、右辺の ( ) 内は圏C のべき、それ以外はHom集合を意味します。
集合の圏 Set では両者は一致します。
余単位は次の通り評価evalとなります。
εX:XY×Y → X in C
1 :XY → XY in C
5-7 べき集合と開集合系・閉集合系の間の随伴
Xを位相空間とし、その台のべき集合を P (X)、開集合系(開集合全体の集合)を O (X)、閉集合系(閉集合全体の集合)を C (X) とします。
P (X),O (X),C (X) のいずれも、その元(Xの部分集合)を対象とし、包含写像を射とする圏とみなすことができます。
O (X) とC (X) は、いずれも P (X) の部分集合なので、包含関手
Inc :O (X)⊂→P (X); U|→U
Inc :C (X)⊂→P (X); V|→V
が存在します。ただし、Uは開集合、Vは閉集合。
さらに、WをXの部分集合とします。
包含関手 Inc は随伴をもちます。
O (X) Inc:包含関手(inclusion functor)
Inc↓┤↑Int Int:内部関手(interior functor)(部分集合をその内部に写す)
P (X)
Inc U ⊂→ W in P (X)
U ⊂→ Int W in O (X)
要は、横線の上下どちらかの式が成り立てば、
U=IncU ⊂ Int W ⊂ W
となっているわけです。
そして、U=Int W である場合も、Int W=W である場合もあり得ます。
C (X) Inc:包含関手
Cl↑┤↓ Inc Cl:閉包関手(closure functor)(部分集合をその閉包に写す)
P (X)
Cl W ⊂→ V in C (X)
W ⊂→ Inc V in P (X)
要は、横線の上下どちらかの式が成り立てば、
W ⊂ Cl W ⊂ V=Inc V
となっているわけです。
そして、W=Cl W である場合も、Cl W⊂V である場合もあり得ます。
------------------------ 続 く -------------------------
★ この連載もいよいよ次回で最後です。