関手の性質と随伴1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12618803922.html
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3.圏同型と圏同値
同型という概念は、もともと1つの圏の対象間で定義されるものでした。
ただ、圏自体も小圏の圏 Cat などの対象となるので、圏の同型を定義することができます。
圏同型の定義 : 2つの圏 C, D が同型(isomorph)であるとは、1組の関手
F:C→D , G:D→C
が存在して、
1C = G○F , 1D = F○G
が成り立つことである。
このとき、
C ≅ D と書く。
ただ、この条件はきつすぎるので、少し条件を緩めた次の概念が多用されます。
圏同値の定義 : 2つの圏 C, D が同値(equivalent)であるとは、1組の関手
F:C→D , G:D→C
と1組の自然同型
α:1C → G○F in Fun (C, C ),
β:F○G → 1D in Fun (D, D )
が存在することである。
このとき、
C ~ D
と書く。(先の圏同型の記号もこれと同じ大きさが望ましいです。)
また、関手 F とG は互いの擬逆(pseudo-inverseスードウ・インヴァース)であるという。
なお、自然同型の向きは逆でも同じなのですが、後で出てくる随伴に合わせてあります。
圏同値は、圏同型の一般化で、恒等自然変換 1C , 1D を自然同型 α, β に置き換えたものとなっています。
定義 : 関手 F:C→D が対象上で本質的に全射 (essentially surjective on objects) であるとは、D のどの対象Yに対しても、C の対象Xが存在して、F X ≅ Y となることである。
単なる対象上全射との違いは、対象間の等号“=”が 同型“ ≅ ”に置き換わっていることです。
・ 圏同値である関手は、対象上で本質的に全射である。
定理(圏同値の条件) : 関手について次の2つの条件は同値である。
a.圏同値である。
b.充満忠実かつ対象上で本質的に全射である。
証明:面倒なので、アウディ著p.196~8、レンスター著p.40,p.47,p.221,2を参照(^^;
次の図式を使う。
F:C→D, G:D→C,
α:1C → G○F in Fun (C, C), β:F○G → 1D in Fun (D, D)
とする。以下、関手間の ○ や ( ) は適宜省略する。
αX in C in D
X → GFX FX
f↓ ↓GFf ↓Ff
X’ → GFX’ FX’
αX'
βY in D in C
Y ← FGY GY
g↓ ↓FGg ↓Gg
Y’ ← FGY’ GY’
βY'
3-1 圏同値の例1 SetI ~ Set/I
I を集合とするとき、(Ai)i∈I という形の添字付集合族全体は、離散圏 I から集合の圏 Set への関手圏 Fun (I, Set ) =SetI とみなすことができます。
・ 添字付集合族の圏 SetI と I 上の Set のスライス圏 Set/I は同値である。
SetI ~ Set/I.
SetI の対象は、添字付集合族 (Ai)i∈ I ,
射は、添字付写像の族 (fi:Ai→Bi )i∈ I .
Set/I の対象は、集合Xから I への写像 f:X→ I ,
射は、写像の3つ組 (f, g, h) で、g:Y→ I,h:X→Y,f =g○h となるもの。
関手は、
F :SetI→Set/I, G :Set/I→SetI
F ((Ai) i∈ I ) = π:∐ i∈ I Ai → I ; (i, a)|→a.
ここで、∐ i∈ I Ai = {(i, a)|a∈Ai}は余積(直和集合)。
G (α:A→ I ) = (α-1{i}) i∈ I
写像 d:J→I に対して、関手 Setd は f に沿った再添字付けである。
(Setd (A i) ) j = A f ( j ).
次の図式が引き戻しとなる。
~
I SetI → Set/I
d↑ Setd↓ ↓d*
J SetJ → Set/J
~
3-2 圏同値の例2 Par ~ Set*
・ 集合と半写像の圏 Par と点付き集合の圏 Set* は同値である。
Par ~ Set*.
Par の対象は、集合( Set と同じ)。
射である半写像(partial maps) f:X-⇁Y とは、Xの部分集合 Uf に対して写像
|f| : Uf →Y (Uf ⊂X)
として定義される。
恒等射は、Set と同じ 1X。
射 f:X-⇁Y と g:Y-⇁Z の合成 g○f:X-⇁Z は、写像 |g○f| : |f|-1(Ug)→Z.
|f|-1(Ug) ⊂→ Uf ⊂→ X
↓ ↓|f|
Ug ⊂→ Y
↓|g|
Z
F:Par → Set*;X|→X*.
ただし、X*=(X∪{*}, *).
射については、F (f) = f*:X*→Y*.
f*(x) = { f (x) x∈Uf の場合
{* それ以外の場合
G:Set* → Par;(X, a) |→X\{a}.
射については、g:(X, a)→(Y, b) に対し、
G (g):X\{a}-⇁Y\{b} が、定義域 UG (g)=X\g-1(b) で、 g(x)≠b となるすべてのxに対して G (g) (x)=g(x) と定義される。
例:X={0, 1, 2},Y={a, b, c}
f:{1, 2}-⇁{b, c}, |f|:{2}→{b, c};2|→b.
g:(X,{0}) →(Y,{a});0|→a,1|→a,2|→b.
4.随伴の定義
圏同型の概念を緩めて、圏同値を定義しました。
圏同値の概念をさらに緩めたものが随伴(ずいはん)です。
ただし、圏同型と圏同値は主に圏どうしの関係の概念でしたが、随伴はむしろ関手間の関係であり、その意味では関手間の擬逆という概念を緩めたものというべきかもしれません。
圏同型 ⇒ 圏同値-擬逆 ⇒ 随伴
マクレーンは、彼の有名な教科書の序文で
>スローガンは「随伴関手は至るところに現れる」である
と述べています。(本文中でも繰り返しています。)
随伴(adjunction)の定義 : 圏 C と D、その間の互いに逆向きの関手の組 F:C →D と G:D→C を考える。
D
F↑↓G
C
F がG の左随伴(left adjoint)である、またはG がF の右随伴(right adjoint)であるとは、
C の任意の対象Xと D の任意の対象Yについて、Hom集合間の1対1対応
D (FX, Y) ≅ C (X, GY) ・・・ (1)
が自然に成り立つことである。(「自然に」の意味は、後の単位と余単位の部分の内容ですが、当面は無視してかまいません。)
このとき、
D
F↑ ┤↓G
C
あるいは単に
F ┤G
と書く。
どっちが左でどっちが右か混乱しそうですが、(1)式で “ ,” の左側に来る関手が左随伴、右側に来る関手が右随伴と覚えてください。
・ 随伴は、存在しない場合もあるが、存在する場合には同型を除いて一意的である。
つまり、ある関手の左(右)随伴は、高々1つしか存在しない。
Hom集合の個々の射に着目して、式の変形のように
g:F X→Y in D
f:X→G Y in C
という書き方をすることもあります。
(この書き方が不適切というわけではありませんが、できれば、fやgは→の上下に小さく書きたいところです。)
上の射と下の射が1対1で対応していることを意味するので、横線の上下を逆にしても成り立ちます。
このとき、D の射 f と C の射gは、互いの転置(transpose)と呼ばれ、
f = φ(g), g = ψ(f) と書きます。
φとψは逆なので、
φψ = 1D, ψφ = 1C
となります。
つまり、「転置の転置は元の射」です。
(1)式と合わせて
ψ:D (FX, Y) ≅ C (X, GY):φ
という書き方をすることもあります。
(転置を射の上に横棒を引いて表す流儀もありますが、このブログではうまく表せないので上のような記法を採用します。)
随伴の単位と余単位の定義 : 自然変換 η:1C→ GF と ε:FG→1D を
ηX = φ(1FX) : X→GFX
εY = ψ(1GY) : FGY→Y
として定義する。
ηを単位(unit)、εを余単位(counit)という。
1FX:FX→FX in D
ηX:X→GFX in C
εY:FGY→Y in D
1GY:GY→GY in C
f = φ(g) = G (g)○ηX : X→GFX→GY.
g = ψ(f) = εY○F (f) : FX→FGY→Y.
C D
│η│ ↘F G ↙│ε│
1C→GF D C FG→1D
↓ ↓ ↙G F ↘↓ ↓
C D
どうにも美しくありませんが、この辺が“記号のお絵かき”の限界です・・・
随伴の定義を終えるのに際し、”全体像”の分かる図式を示しておきます。
横線の上と下が対応します。
FX Y
1FX↑ g g↗ ↑εY
FX → Y FX → FGY in D
F (f)
G (g)
GFX → GY X → GY in C
ηX↑ ↗ f f ↑1GY
X GY
単純ではないことがしみじみ分かりますね(^_^
--------------------------- 続 く -----------------------------
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