多面体のコンウェイ記号と行列表示1:
https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12599917604.html
-------------------------
2.コンウェイ記号の行列表現
さて、多面体にはさまざまな属性があり、それらは数値などで表示することができます。
その中で一番基本的なのは、頂点、稜、面の数です。
そこで思い切って単純化して、多面体をその頂点、稜、面の数がつくるベクトルとみなすこととします。
たとえば、立方体では頂点が8個、稜が12本、面が6枚、正8面体では立方体と頂点と面の数が逆なので、それぞれ次のようになります。
C =〔8 12 6〕T, O =〔6 12 8〕T
(右辺右肩のTは、行と列を入れ替える操作である転置(transpose)を表します。本来は列ベクトル(縦長)として表すべきところ、紙幅をとるので行ベクトル(横長)として表すためです。)
ここで、頂点、稜、面の順序ですが、これまでは面、稜、頂点という順にすることもあり、混乱がなければ気にしてこなかったのですが、ここでは次元の小さい方から 〔頂点(0次元),稜(1次元),面(2次元)〕 の順に統一します。(こうすると、ちゃんとした数学らしいですね(^_^)
実は、ベクトル表示だと次のようにまったく異なる多面体が同じ値となって区別できないという問題が生じます。
・切頂8面体 tO と切頂立方体 tC はどちらも、 〔24 36 14〕T
・切頂20面体 t I と切頂12面体 tD はどちらも、〔60 90 32〕T
面の形という重要な情報すら失われるものの、位相(topology)の観点からは最小限の情報が残っていると考えるわけです。
こういう問題があることを念頭に置いて以下をお読みください。
ところで、たとえば正8面体は立方体の双対ですから、
dC = O
となります。
CとOがベクトルであることを考えると、この式は、「双対をとる」というような操作が、ベクトルを変換して別のベクトルをつくる演算子であることを意味します。
そのような演算子は、行列として表示できます。双対の場合は、
d = 〔0 0 1〕
〔0 1 0〕
〔1 0 0〕
とおけば、
〔0 0 1〕〔8〕 = 〔0・8+0・12+1・6〕 = 〔6〕
〔0 1 0〕〔12〕 = 〔0・8+1・12+0・6〕 = 〔12〕
〔1 0 0〕〔6〕 = 〔1・8+0・12+0・6〕 = 〔8〕
となり、dC = O がみたされています。
大げさな計算をした割には、頂点の数と面の数が入れ替わっただけですが、一番簡単で分かりやすい例として取り上げました。
(行列の計算方法は、かさばるわりに面白くないので、ネット上で解説を探してください。次の記事にも簡単な解説があります。(多項式の次が行列です。)
小さな環など5:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471789815.html )
以下、操作の行列表現(matrix representation)を示します。
順序(左端の数字)は、行列の2行2列目の数字の順です。
この数字は稜の本数が元の何倍に増えるかを示すもので、稜係数(edge factor)あるいは膨張率(inflation rate)と呼ばれます。
1 Seed:S, Dual:d.
〔1 0 0〕 〔0 0 1〕
〔0 1 0〕 〔0 1 0〕
〔0 0 1〕 〔1 0 0〕
2 Ambo:a, Join:j=da.
〔0 1 0〕 〔1 0 1〕
〔0 2 0〕 〔0 2 0〕
〔1 0 1〕 〔0 1 0〕
3 Truncate:t, Kis:k=dtd.
〔0 2 0〕 〔1 0 1〕
〔0 3 0〕 〔0 3 0〕
〔1 0 1〕 〔0 2 0〕
4 Expand:e=aa,Ortho:o=de=daa.
〔0 2 0〕 〔1 1 1〕
〔0 4 0〕 〔0 4 0〕
〔1 1 1〕 〔0 2 0〕
Chamfer:c.
〔1 2 0〕
〔0 4 0〕
〔0 1 1〕
5 Snub:s, Gyro:g=dsd.
〔0 2 0〕 〔1 2 1〕
〔0 5 0〕 〔0 5 0〕
〔1 2 1〕 〔0 2 0〕
6 Bevel:b=ta, Meta:m=db=dta.
〔0 4 0〕 〔1 1 1〕
〔0 6 0〕 〔0 6 0〕
〔1 1 1〕 〔0 4 0〕
Chamfer以外の行列、つまりコンウェイが当初提案したものは、「左右対称」となっている点が目に付きます。
3.正多面体、半正多面体、カタラン立体などのコンウェイ記号表示
この節では具体的な例をみていきます。
複数のつくり方があるものが多いので、すべてを網羅しているわけではありません。
正多面体
正4面体 : T = 〔4 6 4〕T = Y3.
正8面体 : O = 〔6 12 8〕T = aT = A3.
立方体 : C = 〔8 12 6〕T = jT = dA3= P4.
正20面体 : I = 〔12 30 20〕T = sT = k5A5.
正12面体 : D = 〔20 30 12〕T = gT = t5dA5.
正4面体は特殊な正3角錐Y3、正8面体は特殊な正3角反柱A3、立方体は特殊な正4角柱P4と見なすことができます。
正4面体以外の正多面体は、いずれも正4面体Tに操作を加えることでつくり出すことができます。
立方体は、特殊な凧形3角双角錐 dA3、正20面体は、特殊な双正5角錐反柱 k5A5、正12面体は特殊な切頂凧形5角双角錐 t5dA5と見なすことができます。
その他の種となる多面体(n≧3)
角錐 : Yn = 〔n+1 2n n+1〕T.
角柱 : Pn = 〔2n 3n n+2〕T.
反角柱 : An = 〔2n 4n 2n+2〕T.
台塔 : Un = 〔3n 5n 2n+2〕T.
反台塔 : Vn = 〔3n 6n 3n+2〕T.
双角錐 : dPn =〔n+2 3n 2n〕T.
凧形双角錐 : dAn =〔2n+2 4n 2n〕T.
角錐、台塔、双角錐ではn>5だと、凧形双角錐ではn>3だと、整凸多面体(面がすべて正多角形の凸多面体)にはなりません。
また、反台塔ではnの値にかかわりなく、整凸多面体になりません。
半正多面体
立方8面体 : 〔12 24 14〕T = aC = aO.
20・12面体 : 〔30 60 32〕T = aD = a I.
切頂4面体 : 〔12 18 8〕T = tT.
切頂立方体 : 〔24 36 14〕T = tC.
切頂8面体 : 〔24 36 14〕T = tO.
切頂12面体 : 〔60 90 32〕T = tD.
切頂20面体 : 〔60 90 32〕T = t I.
斜方立方8面体 : 〔24 48 26〕T = eC = eO.
斜方20・12面体 : 〔60 120 62〕T = eD = e I.
切頂立方8面体 : 〔48 72 26〕T = bC = taC.
切頂20・12面体 : 〔120 180 62〕T = bD = taD.
ねじれ立方体 : 〔24 60 38〕T = sC.
ねじれ12面体 : 〔60 150 92〕T = sD.
カタラン立体
菱形12面体 : 〔14 24 12〕T = jC = daC.
菱形30面体 : 〔32 60 30〕T = jD = daD.
3方4面体 : 〔8 18 12〕T = kT = dtdT.
3方8面体 : 〔14 36 24〕T = kO = dtdO.
4方6面体 : 〔14 36 24〕T = kC = dtdC.
3方20面体 : 〔32 90 60〕T = k I = dtd I.
5方12面体 : 〔32 90 60〕T = kD = dtdD.
凧形24面体 : 〔26 48 24〕T = oC = deC.
凧形60面体 : 〔62 120 60〕T = oD = deD.
6方8面体 : 〔26 72 48〕T = mC = dbC = dtaC.
6方20面体 : 〔62 180 120〕T = mD = dbD = dtaD.
5角24面体 : 〔38 60 24〕T = gC = dgC.
5角60面体 : 〔92 150 60〕T = gD = dgD.
ニアミス立体
Nw1 切頂双3角錐 : 〔14 21 9〕T = t4dP3.
Nw2 切頂3方4面体 : 〔28 42 16〕T = t6dtT = t6kT.
Nw3 切稜立方体=切頂菱形12面体 : 〔32 48 18〕T = t4daC = cC.
Nw7 切稜12面体=切頂菱形30面体 : 〔80 12042〕T = t5daD = cD.
Nw8 中点切切頂20面体 : 〔90 180 92〕T = at I.
Nw9 切頂切頂20面体 : 〔180 270 92〕T = tt I.
Nw10 拡大切頂20面体 : 〔180 360 182〕T = et I = aat I.
Nw11 ねじれ切頂20面体 : 〔180 450 272〕T = st I.
Nc1 切頂3方8面体 : 〔56 84 30〕T = t8dtO = t8kO.
Nc2 切頂3方20面体 : 〔140 210 72〕T = t10dt I = t10k I.
Nc3 切頂5角24面体 : 〔56 84 30〕T = t4dsO.
Nc4 切頂5角60面体 : 〔140 210 72〕T = t5ds I.
Nc5 交互切頂立方体=切稜4面体 : 〔16 24 10〕T = cT.
一番左の記号は連載「ニアミス立体のご紹介」で私が付けたものです。
ニアミス立体のご紹介1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471789591.html
ニアミス立体のご紹介2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471789598.html
ニアミス立体では tn という形の操作が頻出しますが、これは頂点周りの形状に関する情報を前提としているわけで、行列表現とは整合的ではないと思います。
ただし、Nw3 と Nw7 は、cC,cD という別表記であれば行列表現と整合的です。