目次
0.コンウェイ記号とは?
1.多面体と操作を表す記号
2.コンウェイ記号の行列表現
3.正多面体、半正多面体、カタラン立体などのコンウェイ記号表示
0.コンウェイ記号とは?
基本となる多面体からつくられる多面体を表すのに用いられるのが、コンウェイ記号(Conway notation、コンウェイ記法)です。
コンウェイ記号は「ニアミス立体のご紹介」という連載ですでに使用していますが、今回はより本格的にご紹介したいと思います。
最初に、コンウェイ記号の考え方を説明します。
半正多面体は、正多面体に5種類の操作を加えることにより得られます。
また、カタラン立体は、半正多面体に双対をとるという操作を加えることにより得られます。
さらに、ニアミス立体の一部は、半正多面体、カタラン立体などに同様の操作を加えることにより得られます。
以上を一般化すると、重要な凸多面体のかなりの部分は、基本となる多面体に一定の操作を加えることにより得られることが分かります。
それならば、得られた多面体は、基本となる多面体を表す記号と、それに加えられる操作を表す記号を組み合わせることにより、表せるはずだ、というのがコンウェイ記号の考え方です。
したがって、コンウェイ記号は、対称性の高い半正多面体やカタラン立体、一部のニアミス立体などを記述するのに有用です。
ただ、ジョンソン立体の解説では、使う機会がありません。
以下、この記事は英文wiki ”Conway polyhedron notation”に基づいていますが、そのまま引き写しているのではなく私なりにアレンジしているため、それによる間違いの可能性があります。
https://en.wikipedia.org/wiki/Conway_polyhedron_notation
なお、この記事は多面体シリーズの第11弾となります。
これまでの連載記事については次をご覧ください。
多面体の連載など一覧:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12598605490.html
1.多面体と操作を表す記号
コンウェイ記号は、元となる多面体とそれに対する操作それぞれの記号を組み合わせたものです。
・ 元となる多面体の記号
T:正4面体、C:立方体、O:正8面体、D:正12面体、 I :正20面体、
Pn:正n角柱、Yn:正n角錐、A:正n角反柱、Un:正n角台塔、Vn:n角反台塔
・ 操作の記号(アルファベット順)
a:中点切り(ambo)、b:二重切り(bevel)、c:切稜(chamfer)、d:双対(dual)、e:離面(expand)、
j:菱形化’ (join)、 k:方化(kis)、kn:n角形の面のみ方化、m:6方化’ (meta)、
o:凧形化’ (ortho)、 t:切頂(truncate)、tn:n価の頂点のみ切頂、s:捩り切り(snub)
コンウェイ記号の組合せ方は、元となる多面体の記号を一番右に書き、それに加えられる操作の記号はその左側に書きます。
加えられる操作が複数あるときは、右のものほど先に作用するという約束です。
(要するに、関数や写像の合成と同じです。そのもとは英語などの語順から来ているのでしょう)
たとえば、taCは、立方体Cに中点切り a を行い、その後、切頂 t を行ってできる立体である切頂立方8面体を表します。
taC = t(aC).
後でみるように、一般には1種類の多面体を表すのにコンウェイ記号による表記が何種類も存在します。 記号についてより詳しく説明します。
多面体の記号は、 5種類の正多面体については、それぞれの頭文字をとっています。
Tetrahedron,Cube,Octahedron,Dodecahedron,Icosahedron.
角柱は Prism のP、角錐は pYramid のY、反角柱は Antiprism のAで、これまでと同じです。
しかし、台塔の記号は、以前の記事「ジョンソン立体の解説」では cupola キューポラの音をとってQでしたが、今回は cUpola のUです。
(以前とは参照元が異なるので、記号も変更しますが、混乱はないと思います。多分・・・)
反台塔は台塔のUの次のアルファベットVをとったのだと思います。
PYAUVの後ろに付くnは、それらの天井あるいは底面がn角形であること、つまり
Pn:n角柱、Yn:n角錐、An:n角反柱、Un:n角台塔、Vn:n角反台塔
を意味します。
ジョンソン立体はこの記事には登場しないのですが、もし使うのであれば、そのままJnとします。これはn番目のジョンソン立体を意味します。
Pnがn角柱、・・・を意味するのと、nの意味が異なるので、ご注意ください。
次に、操作の記号について、解説します。
双対 d は、各面の中央に新たな頂点をとり、それらを結んで新たな立体をつくる操作です。
双対多面体と元の多面体を比べると、面が頂点に、頂点が面になり、稜は中点が同一で90°回転します。
双対の双対は元の立体になります。
dd = S.
ここで、右辺のSは Seed の頭文字で、種多面体という意味。
恒等操作なので、identify の i とかになるのかと思うと、そうではなく、「種(たね)」なんですね。
中点切り、切頂、二重切り、離面、捩(ねじ)り切りの5つは、正多面体から半正多面体をつくる操作です。
半正多面体のご紹介1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471786164.html
(第2節です)
中点切り a は、稜の中点に新しい頂点をとって、隣り合う新頂点どうしを結ぶ操作です。
中点切り a は、双対 d をとってから中点切り a を行っても同じになります。
a = ad.
切頂 t は、頂点周りを取り除いてそこに新たな面をつくる操作です。
中点切りと切頂の違いは、中点切りでは元の稜が稜としては残らないのに対し、切頂では元の稜も残るため、切頂でできた立体の方が稜の数が多いことです。(後述の稜係数(膨張率)は中点切りが2で切頂が3)
二重切り b は、中点切りに続けて切頂を行う操作です。
b = ta.
離面 e は、各面を切り離して、稜のあったところに正方形(長方形)を挿入し、n価の頂点のあったところにn角形の面を挿入する操作です。
離面は、中点切りを続けて2回行う操作と同じことです。
e = aa.
捩り切り s は簡単には説明できないので、上の記事をご覧ください。
方化 k は、多面体のn角形の面に低いn角錐を取り付ける操作です。
これにより、5種類の正多面体からカタラン立体である 3方4面体、3方8面体、4方6面体、3方20面体、5方12面体を直接つくることができます。
たとえば、4方6面体は立方体Cから方化kによってつくられるので、kCと表されます。
一方、4方6面体は、立方体の双対dである正8面体から切頂 t によってつくられる切頂8面体の双対 d でもあるので、dtdC と表すこともできます。つまり、
kC = dtdC
元となる立体から異なる操作によって同じ立体をつくり出すことができました。
一般に、方化 k は、双対dと切頂 t の組合せにより
k = dtd
と表すことができます。
なお、カタラン立体のうち6方8面体、6方20面体は、同じように「方」を含んでいますが、方化kisではなく、6方化' metaという操作によってつくられ、それぞれmO,mI と表されます。
6方化' は、面の中央と稜の中点を持ち上げ、それらと元の頂点を新たな頂点とする操作です。
なお、m = db = dta、つまり6方化’ は二重切りの後で双対をとる操作と同じです。
(metaのうまい訳語が思いつかなかったので、仮訳として右肩に” ' ”を付けています。次の「菱形化'」「凧形化'」も同じです。)
菱形化' joinは、正多面体から準正多面体の双対である菱形多面体をつくりだす操作です。
j = da.
凧形化' orthoは、正多面体からカタラン立体の一種である凧形多面体をつくりだす操作です。
o = de = daa.
切稜 c は、稜を削り取る操作です。
切稜は、これまで見てきた操作とは異なり、コンウェイが当初提案したものではなく、後に追加されたものです。
半正多面体やカタラン立体をつくる操作ではなく、ニアミス立体をつくる操作となります。
注意しなければならないのは、以上の操作を行うことにより稜の長さや面の頂点での角度、また二面角がどうなるかは不問にするという点です。
つまり、頂点、稜、面、頂点の価数、面が何角形かは重要ですが、稜や面が歪んでいてもかまわないということです。
これは、幾何学(geometry)ではなく、位相(topology)の観点に立っていることを意味します。
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