複数の幾何学 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

コクセター『幾何学入門 上・下』の内容紹介第9弾です。

https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471780747.html

https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471781186.html

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最初の頃、本書には幾何学の4つの流れあるいは視点が含まれていると述べました。
ここでは第4の流れの各幾何学のうちこれまであまり触れていなかったものについて紹介します。

・ユークリッド幾何学について確認的に。
ユークリッド幾何学は、われわれが小学校以来習ってきた幾何学で、2千年以上の昔に幾何学の父と称されるアレクサンドリアのエウクレイデス(Ευκλειδηs、英語名Euclid、ユークリッド)がギリシア幾何学の成果を『原論』(Στοιχεια(ストイケイア)、英語名Elements)として集大成したものです。
そこでは、公理(axiom)または公準(postulate)と呼ばれるいくつかの仮定を基にして、さまざまな定理・命題を証明していきます。
しかし、その中には一部の公理・公準を取り除いても証明できる定理・命題があり、それらはユークリッド幾何学より一般的な幾何学の内容と考えることができます。
以下では順序の幾何学、アフィン幾何学、絶対幾何学がこれに該当します。
また、双曲幾何学のようにユークリッド幾何学とは矛盾する公理・公準に基づいて展開される別の幾何学もあります。
ユークリッド幾何学が無矛盾であれば、これらの幾何学も無矛盾であることが証明されています。

ユークリッド幾何学とは別の幾何学については、公理による証明とは別の基準もあります。
クラインのエルランゲン目録(1872年のエルランゲン大学就任講演)によると、1つの幾何学を他の幾何学と区別する基準は、当該幾何学の諸命題の真偽を変えないような変換群にあるということです。ユークリッド幾何学については、等長(合同)変換と相似変換がそれに当たります。

ユークリッド幾何学以外のさまざまな幾何学については、簡単に触れるにとどめます(第III部)。
・「順序の幾何学」は、基本概念として「点」と「AとCの間にBがある」だけを採用して作られる幾何学で、アフィン幾何学と絶対幾何学を含みます(第12章)。これほど抽象的な幾何学であっても、ちゃんと「次元」を定義することができるのが不思議です。

・「アフィン幾何学」は、順序の幾何学に「平行」という概念を加えたものです(第13章)。
基本となる変換は、平行線を平行線に移す「アフィン変換」です。
ただし、アフィン変換は角度や長さ(距離)を保存しないため、アフィン幾何学にはそれらの概念がありません。
また、円という概念もなく、回転という変換も定義できません。
一方で、面積は定義できます。
面積を保存するアフィン変換を「等積アフィン変換」といいます。
相似変換はアフィン変換の一種であり、等長変換は等積アフィン変換の一種であって、アフィン幾何学はユークリッド幾何学を含みます。
なお、「アフィン」(affine)という言葉の意味は調べても分かりませんでした。

・「射影幾何学」は、アフィン幾何学に1本の無限遠直線を加えたもので、平行概念も「間」という概念も存在しません(第14章)。したがって、順序の幾何学には含まれません。すべての2直線は1点で交わるのです。射影幾何学の平面はすでに解説した射影平面です。
もともとは絵画において無限遠を表現する透視図法の考察から発展したものだということで、デザルグとパスカルが基礎を築いたとされます。

・「絶対幾何学」は、順序の幾何学に第3の基本概念として「合同」を付け加えたものです(第15章)。
絶対幾何学はユークリッド幾何学と双曲幾何学を含みますが、球面幾何学は含みません。


双曲幾何学については次回に回します。