#384 バスターンテーブルの今 ~桶川駅東口から~ | 関東土木保安協会

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関東土木保安協会です。

 

皆さん、転車台はイメージできますでしょうか。

そう、機関車トーマスなどで出てくる、機関車を転回させるものです。

転車台は容易に転回できない鉄道車両等には最適なアイテムですが、自動車でも立体駐車場などでその姿を見る事ができますね。

場所が限られれば、例え自動車と言えど転回が容易にできることが求められます。

 

しかし、それが大型の自動車となると話が少し違います。

今回は、その昔には所々で目にする事ができた「アレ」についてフォーカスを当ててみましょう。

 

 

 

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埼玉県桶川市。

それほど広くない面積ながら、高崎線沿線の他市町村と同じく、中山道の宿場町として栄えました。

現在、人口7万人を有す市となっています。

 

そんな桶川市ですが、高崎線の桶川駅で面白い物があります。

冒頭で述べたあれ、ターンテーブルです。

その期待された役割通り、狭い駅前の限られたスペースでバスを転回させるために設置されています。

というのも桶川駅は、工場跡地の再開発があった西口に対し、中山道沿いの古き良き街並みを残す東口は、現在でも昭和感あふれる雰囲気を存分に残しているのです。

 

▲桶川駅東口の様子

 

さて、東口に降り立ってみましょう。

駅前に向かって伸びてくるのは幅員7mの道路、そして左右に広がるのは一方通行の狭すぎる路地です。
この21世紀の現在でも、駅前ロータリーとは無縁の、田舎の駅前(より込み入ってるとも思えますが)のような光景が広がっています。

 

▲上写真の奥から駅舎方面を望む。バスが転回するのは難しい空間だ


日高屋、ロッテリアとテナントを横目に進むと、バス停があります。そしてその先に、、ありましたありました。。例のブツが。
 

▲バスのターンテーブル


こちらが、バス用のターンテーブルです。
外観は、滑り止め加工がされた鉄板が円形になっているだけで、立体駐車場に見られるような普通車用のものと変わりないです。

 

 

▲ターンテーブルの拡大。立体駐車場のものを大きくした印象

 

ここが特徴的というのは、テーブル上部に動作用のスイッチがブラブラと下がっているところでしょうか。

 

▲バスの脇に垂れ下がる操作紐。紐色と先端を色違いにして区別している


紐は2本下がっていて、説明書きによると青×黒が120度回転で赤×白は180度回転のようです。

 

▲操作紐の注意書き


以前は竹ノ塚にも同様のものが残っていましたが、このタイプでした。

各地でも似たようなものが散見されるので、運転士が操作するこのようなタイプが主流なのでしょう。

 

▲時代を感じさせるポールと、先端の修復感溢れるスイッチ収納箱


この場所は、比較的高頻度なバスの運行間隔とその敷地の制約から、進入してきた方向と全く同じ方向に180度転回しようとすると、すでに後続のバスが後方に控えていることがあるため、120度転回して車両の出入りをやりくりしています。
このやり方を行うとどういうことになるかというと、バス停が設置されている脇を通過したバスが転回後120度斜め(バス停より道路側)に向くため、バス停から少し離れた所にバスが停車することになります。
雨天時も何のその、乗客達には折角の屋根付きのバス停から数メートルの徒歩を強いることになっています。なんとも苦労が見られるバス停です。

 

▲東武バスが行っていた時代の注意書き。紐の色が異なっていたらしい


バス自体も、中型車が運用されており、私が訪れた日も全ていすゞ/日野自動車のエルガミオ/レインボーでした。
需要もあっての選定なのでしょうが、隣にはタクシーも並ぶなか、あの駅前にバスが3台も発着しやりくりするのを想像すれば、中型車でないと難しいのかと納得します。

なお、別にコミュニティバスも走っていますが、こちらはショートボディで小回りが利くようになっており、駅前での折り返しもしません。

 

▲先端には暴進防止の大きな車止めが設置されている


郊外、人口増加、団地、バス増発、駅前開発・・・
全く別の言葉同士が、繋がっているとふと感じます。
木造アパートから、鉄筋コンクリートの集合住宅へ。
そしてその集合体が団地へ。
団地の居住者達が通勤者となって駅へ。
桶川も他の都市同様、その流れに乗ってきたと言っても間違いないでしょうが、その痕跡が駅前のこの誰にも注目されないであろう丸い鉄板に凝縮されているというのは大袈裟でしょうか。

せかせか動く円盤に、想いを寄せつつ眺めている私であります。

▲ゆっくりとターンテーブルへ移動するバス。動作させるタイミングは状況による


なお、稼働中の様子を見たい方、現地に行かなくとも、動画サイトに他に取材された方々が動作の様子を多数アップしているので、見てみてください。

 

▲土地借用の詳細。平成92年までの30年契約だ


借地の看板を見ると、ターンテーブルは1987年に設置されたようで、契約上は昭和92年(2017年)までの借地となっています。
借用名目は、ターンテーブルの設置に伴うと。うん。
結構な代物かとも思いましたが、意外と経年は若かったですね。
が、それでも30年経ちます。他のターンテーブルも絶滅寸前の今、アフターサポートを考えると苦しい状況なのかと察してしまいます。

 

▲車両が載った状態。ここから動作を開始する


そんな希少なターンテーブルの今後ですが、去就は公式には明らかにされていませんが、既に余命宣告がされたに近い状況です。
長年暗礁に乗り上げていた東口駅前の再開発事業が決定し、2019年の竣工に向けて工事が進んでいます。駅前でも立ち退きが進み、今の古典的な街路が大きく姿を変えようとしています。
完成予想では、ロータリーが設置され、バス乗り場も新設されるとのことです。
となると、ターンテーブルは必然的に不必要となるのは想像できます。
撤去費用もかかるため、このまま残置されるとも思いましたが、前出の写真にあるように借地である上に更新の都合もあるため、早々と撤去される可能性は高いと思われます。

▲夕日を浴びて回転するバス


駅前再開発なぞ何のその、まだまだ郊外型大規模SCなど数少ない、往年の駅前街路の香りを存分に漂わす貴重なアイテムとして名残惜しいですね。

あまりの名残惜しさに、夜まで張り込んでみました。

 

▲昼夜働き続ける、縁の下の力持ちだ


て・ん・か・い・・・・・

ダム、発電所、全国の様々な土木施設がインフラツーリズムとして注目されるなか、炭鉱や製糸場など近代の施設も世界遺産となり注目されていますね。

このような現在細々と残っているような現役稼働中の生きた近々代遺産というべき代物は、その立ち位置から容赦なく撤去されるのは目に見えています。
どうか、生前の姿を多くの方に評価されて最期を迎えられるように、と願うばかりです。

 

 

<参考>

・桶川市 : 桶川駅東口周辺地区の整備について