プリズン・サークル(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

プリズン・サークル(ネタバレ)

プリズン・サークル



2019/日本 上映時間136分
監督・製作・撮影:坂上香
撮影:南幸男
録音:森英司
音楽:松本祐一、鈴木治行
アニメーション監督:若見ありさ
出演:拓也、真人、翔、健太郎、支援員たち、受刑者たち、出所者たち
パンフレット:★★★★(700円/コラム3本にシンポジウムの文字起こしなど、読み応えアリ)
(解説)
官民協働による新しい刑務所であり、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを導入している日本で唯一の刑務所でもある「島根あさひ社会復帰促進センター」。受刑者たちはプログラムを通じて、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死など、自身が犯してしまった罪はもちろんのこと、貧困、いじめ、虐待、差別といった幼い頃に経験した苦い記憶とも向き合わなければならない。カメラは服役中の4人の若者を追い、彼らがTCを通じて新たな価値観や生き方を身につけていく姿が描かれる。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




90点


「“監獄の円環”(プリズン・サークル)!m9`Д´) ビシッ」なんて書くと「HUNTER×HUNTER」の念能力っぽいな…なんて文章は心底どうでも良いとして。昨年12月末に「2020年1月公開で観たい映画の覚え書き」を書いた時は「一応観たい」程度の気持ちだったんですけど、なんとなく気になってしまったので、3月19日(木)、横浜のシネマ・ジャック&ベティにて、メンズデー割引を利用して「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」とハシゴしてきました(その後、渋谷に移動して「ジュディ 虹の彼方に」を鑑賞)。「マサニコレダッ!ヘ(゚∀゚*)ノ」とカタカナで思ったり。


木曜日のgif。スクリーン・ジャック、観客は25人ぐらいでした。


鑑賞後の僕の気持ちを代弁するチャック・ルイスを貼っておきますね(「餓狼伝」より)。



本作は「Lifers ライファーズ 終身刑を超えて」「トークバック 沈黙を破る女たち」といった“アメリカの受刑者”をテーマにしたドキュメンタリーを手掛けてきた坂上香監督が、今度は「島根あさひ社会復帰促進センター」という日本の刑務所を撮影したドキュメンタリーでしてね。パンフによると、取材許可に6年、撮影に2年かかっただけでなく、一時は撮影した映像を持ち出すのも禁止されたそうで、結局、完成までに10年近くかかったという力作なのです。日本では「島根あさひ社会復帰促進センター」のみで行われている更生プログラム「TCユニット」(ベースは「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」という参加型集団アプローチ)に参加している受刑者たちや、参加後に出所した人たちの様子を全10章の構成で見せながら、受刑者たちが語る「過去のトラウマ」などをアニメーションで表現したりと、扱う題材は骨太ながらもかなり観やすかった印象。


アニメパートは「Birth つむぐいのち」などで知られる若見ありさ監督が担当したそうな。



とりあえず内容を適当かつ雑に書いておくと、メインになるのは、オレオレ詐欺で捕まった拓也(仮名/22歳)、オヤジ狩りで逮捕された真人(仮名/24歳)、傷害致死を犯した翔(仮名/29歳)、借金苦から親戚の家を強盗した健太郎(仮名/27歳)の4人。「TCユニット」に参加した彼らは、四者四様に苦しみながらも、他者と対話することで自分自身に向き合うようになりましてね。で、出所した後の人たちが前向きに話し合ったり、グレーな生き方をしている仲間を叱咤激励したりする様子も映されたりする中、あーだこーだあって、最終的には拓也が出所したところで(顔からボカシがとれる!)終わってたんじゃないかしらん。


劇中に出てくる受刑者の顔には全員ボカシがかかってましたよ。



本作を観て考えさせられたことは3つあって。1つ目は、拓也と真人と翔の生育環境がヘビーだったこと。僕がフィクション作品を楽しむ時は基本的に「悪・即・斬」であって、「街のダニども」をできるだけ無惨に殺してほしいタイプではあるんですが(苦笑)、現実社会ではそうも言ってられないというか。僕が警察官だったのは20年以上前&わずか4年半の期間でしたけど、劣悪な家庭環境で育った子どもはマジで大変ですよ…。まぁ、「家庭環境のせいにするな (`Д´)」ってのはごもっともだし、「配られたカードで勝負するっきゃないのさ、それがどうゆう意味であれ ( ´_ゝ`)」なんて「名言」もそりゃそうかもだけど、とはいえ、それを「普通に食事ができる」「親がお金の心配をしていない」「暴力を振るわれない」といった家庭で育った人が言っちゃうのは「なんだかなー (゚⊿゚)」感が漂うワケでさ。なんかね、そういった事情は多少なりとも考慮してあげるべきではあるし、犯罪率を下げるにはまず社会の状況を良くしなくちゃいけない…なんて当たり前のことをあらためて思わされましたよ。

2つ目は、健太郎の事件が他人事ではなかったこと。この人は他の3人と違って生育環境もそこまで酷くはなくて、元自衛官で婚約者がいるぐらいに「普通の生活」を送っていたにも関わらず、お金に困って強盗しちゃいましてね…(逮捕後、婚約者はお腹の子どもを堕胎して絶縁…という地獄!)。もうね、「顔見知りの親戚の家に押し入る」「でも殺すつもりはなかった(これは本当だと思う)」という犯行の概要を知ると、「なにその杜撰な犯罪計画!(°д°;) ヒィッ」と口がアングリ状態になるワケですが、しかし。要は「犯罪なんてリスキーな手段に手を染める人は冷静な思考ができなくなっている」ってことじゃないですか。僕も一歩間違えば、何かボタンを掛け違えれば、精神的に追い詰められれば、いつ犯罪をするかわからないというか、「誰だって道を踏み外す可能性はある」んですよね、たぶん。「反省させると犯罪者になります」でも同じようなことが書かれていましたが、だからこそ厳罰化よりも更正に力を入れるのが大事なんでしょうな。映画の最後に「TCユニット」参加者の再犯率の低さがテロップで流れてましたけど、間違いなくもっと導入した方が良いというか(4万人以上いる受刑者のうち、参加できるのは約40人)、日本の刑務所のシステムも見直す時期が来ていると思ったり、思わなかったり (・ε・) ドッチダヨ


なんとなく僕の気持ちを代弁する松尾象山を貼っておきますね(「餓狼伝」より)。



3つ目は、言語化することの大切さ。「TCユニット」に参加した受刑者たちは、対話することによって「自分が何を考えていたか」が分かるようになり、「自分が犯した罪」にも向き合えるようになるんですが、これって誰にでも当てはまることなんじゃないかと。もちろん「人に話を聞いてもらう=自分を尊重してもらう」「人の話を聞く=他者への想像力を働かせる」といった要素も大事ですが、ちょっと思い出したのが、前にジェーン・スーさんが勧めていた「世界一やさしい問題解決の授業」という本で、モロに「言語化することで状況を客観視する」という手法が共通するというか。実際、僕もこのブログで「さまざまな過去の出来事」を書くことで救われている面もあるし、他の人に話したり、紙に書いたりして物事を分析するのって、間違いなく問題解決に有効なんでしょうな。「TCユニット」は受刑者向けですけど、確かにこういったプログラムはアルコールや違法薬物の依存症治療などにも役立つ…どころか、たぶんいわゆる“普通”に暮らす僕らも経験しておくと良いような気がした次第。


こうやっていろいろな人と冷静に対話を重ねたり…。


状況を紙に書いたりすることって、受刑者じゃなくても、かなり役立つんじゃないでしょうか。



その他、「拓也が考えた『嘘つき少年』の話のレベルが高い!」とか「日本の刑務所の“軍隊っぽさ”がスゲー気持ち悪い」といったことは置いとくとして。僕的には常々「厳罰化より更正に力を入れた方が良いのでは?」と考えていたことを映像化してもらったような気分になったというか、「マサニコレダッ!ヘ(゚∀゚*)ノ」とカタカナで思ったほどでしたよ(なんだこれ)。何はともあれ、日本の刑務所での新しい試みを映した骨太かつ面白いドキュメンタリーなので、ぜひ多くの人に足を運んでほしいし、中高生あたりには学校で見せても良いんじゃないでしょうか。まぁ、最後にちょっと感じた不満を正直に言語化しておくと、刑務所モノの定番である筋トレシーンがイマイチだったことぐらいカナー。以上、読者に「てめぇ、舐めてんのか!( ゚д゚) コロスゾ」と思われそうな文章を書いて、この駄文を終えたいと思います。


本作でも筋トレっぽいシーンは映るんですが、残念ながら「足上げ腹筋」程度であり、服も着てましてね。



僕はもっとこんなアグレッシ部な筋トレシーンが観たかったのでした(「ブラッド・スローン」より)。




おしまい (ノω・、) アタシッテホントバカ




坂上香監督の著書。ライファーズ=終身刑受刑者を取材したノンフィクションだとか。



当ブログで貼りがちな元刑務官による新書。タメになりました。



ごめんなさい、こういう刑務所映画が好きなのです、その1。僕の感想はこんな感じ。



ごめんなさい、こういう刑務所映画が好きなのです、その2。僕の感想はこんな感じ。



ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の刑務所映画では、これが一番オススメだと思う。