屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ(ネタバレ)

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ



原題:Der Goldene Handschuh
2019/ドイツ、フランス 上映時間110分
監督・脚本:ファティ・アキン
製作:ヌアハン・シェケルチ=ポルスト、ファティ・アキン、ヘルマン・バイゲル
原作:ヘインズ・ストランク
撮影:ライナー・クラウスマン
美術:タモ・クンツ
衣装:カトリーン・アッシェンドルフ
編集:アンドリュー・バード、フランツィスカ・シュミット=ケルナー
音楽:F・M・アインハイト
音楽監修:ピア・ホフマン
出演:ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、カーチャ・シュトゥット、マルク・ホーゼマン、ハーク・ボーム、トリスタン・ゲーベル、グレタ・ゾフィー・シュミット
パンフレット:★★★☆(700円/柳下毅一郎さんと石井光太さんのコラムが良かった!)
(あらすじ)
第2次世界大戦前に生まれ、敗戦後のドイツで幼少期を過ごしたフリッツ・ホンカ。彼はハンブルクにある安アパートの屋根裏部屋に暮らし、夜になると寂しい男と女が集まるバー「ゴールデン・グローブ」に足繁く通い、カウンターで酒をあおっていた。フリッツがカウンターに座る女に声をかけても、鼻が曲がり、歯がボロボロな容姿のフリッツを相手にする女はいなかった。フリッツは誰の目から見ても無害そうに見える男だった。そんなフリッツだったが、彼が店で出会った娼婦を次々と家に招き入れ、「ある行為」に及んでいたことに、常連客の誰ひとりも気づいておらず……。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




80点


連続殺人鬼の実話映画なら何でも観る」というワケではなく、最初はあまり興味がなかったんですけれども。予告編を観たらなかなかハードそうだったし、そう言えば「週刊文春エンタ!」で宇多丸師匠が褒めていたことを思い出したので、急遽観ることにしましてね(微笑)。3月19日(木)、横浜のシネマ・ジャック&ベティにて、メンズデー割引を利用して観てきました(その後、「プリズン・サークル」をハシゴしてから、渋谷で「ジュディ 虹の彼方に」を鑑賞)。「なんて奴ッッ (`Δ´)」と思ったり。


木曜日のgif。観客は25人ぐらいだったような。


鑑賞中の僕の気持ちを代弁する烈海王を貼っておきますね(「バキ」より)。



最初にあらすじを適当かつ雑に書いておくと、舞台は1970年代の西ドイツ・ハンブルグ。フリッツ・ホンカは安アパートの屋根裏部屋に暮らしていて、場末感漂う酒場「ゴールデン・グローブ」に通って酒を飲みまくっては、女性を誘うエブリデイ(でも全然モテない)。ただ、ナンパできた女性(a.k.a.落ちぶれた娼婦)を暴力的に扱うだけでなく、たまに殺しちゃったりするから困りものでして。さらに、外に運び出すのが大変だからと、死体は解体して部屋の物置に入れておくから、近所の人に悪臭を指摘されまくるのでした(でも無視)。で、車にはねられたことがキッカケとなって、一度は酒を断って真人間になろうとするも、つい掃除係をレイプしようとする→失敗して、「もうどうにでもなーれ♪ ヘ(゚∀゚*)ノ」気分になりまして。最終的には、下の部屋が火事になったことがキッカケとなって死体が発見される→逮捕! エンドクレジットでは、屋根裏部屋の写真や見取り図、ホンカの写真などが映ってましたよ、たぶん。


実際のホンカはこんな人。


ホンカが住んでいた部屋。映画では、かなりリアルに再現されてました。



90年代、「羊たちの沈黙」が大ヒットしてハンニバル・レクター博士が人気キャラになったせいなのか、それ以来、巷に「人間とは興味深いものだ ( ´_ゝ`) フフフ」といったムードの超人的な連続殺人鬼キャラが続々登場するようになった印象があるんですが、基本的には「そんな奴いねぇよ」って話じゃないですか。連続殺人犯なんて、自分の衝動を抑えられない“弱い人間”であり、自己中心的なクズでしかないワケで。そりゃあ、計画的に何年も犯行を重ねてきた殺人犯もいますけど、とはいえ、「さぁ、ゲームを始めようか ( ̄ー ̄) ニヤッ」なんて奴は架空の存在であって、本物は決してそんな“カッコ良い人間”ではないよなぁと。つーか、僕的に最も不快なのは、“自分より弱い人”を狙う精神性の低さであり、どうせ誰かを殺すなら自分より強い者に立ち向かってほしい…って、なんだこの話 ( ゚д゚)、 ペッ


まぁ、武道家も勝算のないケンカはしないみたいですが…という、唐突な愚地独歩(「グラップラー刃牙」より)。



で、本作ですけど、もうね、「男の最悪な部分」を煮染めたような映画でした… (`Δ´;) ヌゥ 僕は連続殺人犯を“ゲスい人間”として描いた「冷たい熱帯魚」「凶悪」「全員死刑」といった実話ベースの犯罪映画が大好きなんですが…。これらの作品に出て来た悪党たちの方が「金目当て」だった分、まだマシに見えたほど、本作で描かれたフリッツ・ホンカは身もフタもなかったというか。「死体を運ぶのが億劫→物置に放り込む」と短絡的で後先を考えないわ、自分が「下」だと思った女性に対してはセクハラ全開だわ、スムースに暴力を振るうわと、「『人間のクズ』という言葉に肉体を与えたらこんな男になるんじゃないか?」と思うレベルだったのです。とにかく酷かったのが女性たちへの暴力行為で、「なんて奴ッッ (`Δ´)」と激怒しっぱなし。特に入れ歯の娼婦ゲルダ(マルガレーテ・ティーゼル)が奴隷のように扱われるくだりはイライラしたし、彼女が救世軍の女性に救われた時は「良かったねぇ… (ノω・、) グスン」と涙がこぼれましたよ。


非モテをこじらせて殺人鬼と化したホンカ。清々しいほどのクズでしたよ。


住む場所がなくてホンカの家に転がり込むも奴隷のように扱われるゲルダ。逃げられて本当に良かった…。



ただ、ハッキリ言って、こんな「最低最悪な男の映画」なのに、他人事とは思えない部分もあったのも確かでしてね…(遠い目)。例えるなら、そりゃあアトロクの「クソLINE」特集を聴いた時は「世の中には無礼かつバカな男がいるもんだ ┐(´ー`)┌ ヤレヤレ」と呆れながらも、とはいえ、「僕も過去にクソLINEのようなことをしていた可能性があるのでは!? (°д°;) ヒィッ」と背筋が凍ったりもした…って感じ。本作は、いきなり死体解体シーンから始まるし、その後は酒場でゲルダをナンパして酷い扱いをしたりと、基本的には感情移入ゼロ状態で観ていたんですが…。途中、ホンカがベッドで布団を抱きしめて悶えるシーンが映し出された時に「あぁっ!Σ(゚д゚;)」と。


このシーンでございます。



あれは、あの行為は、「非モテ」として生きてきた人なら誰もがやったことがあるじゃないですか(勝手な決めつけ)。中高生のころ、「僕を愛してくれる女性なんて一生現れないんだ… (iДi) ウェェェェェ」と絶望して、布団を抱きしめて悶絶した夜を過ごしたじゃないですか。好きな人に相手にされなくて、眠れない想い抱きしめた夜の数だけ孤独になったじゃないですか(BabyI miss You)。「どうせ使い途のないチンコなら、いっそ切って宦官になって『史記』を編纂しよう… (ノω・、) シバセン」なんて思考が飛躍した日もあったじゃないですか。掃除係ヘルガ(カーチャ・シュトゥット)がちょっと悩みを話してきただけで恋をしてしまうくだりも痛いほど分かるしさぁ…。今の僕は妻子がいて、それなりに「素晴らしい日々」を噛み締めて生きてますけれども! でも! だがしかし! それって単に運が良かっただけであり、もし彼のようにもっと人生がうまくいっていなかったら、ルート分岐の選び方によっては僕だってホンカのようになる可能性もあるんじゃないか?(今からでも!?) 途中からはそんな複雑な思いを抱きながら鑑賞した次第。


もうね、ヘルガの悩みが実に味わい深くて、そりゃあ「恋しちゃったんだ (〃∇〃)」とYUI気分になるのは超わかる。


ただ、酒が入ったら即レイプってのは極端すぎて、まったく擁護できないのでした ( ゚д゚) シネヨ



本作は非常に良く出来ていて。そりゃあ凄惨としか言いようがない内容なんですけど、思いのほか楽しく観られちゃうから、スゲェなと。例えば、本作は意外とアクション演出がしっかりしているんですよ。もちろん「87イレブンが手掛けた!」といった感じではないものの、ホンカのヘルダへの暴力描写とか、巨漢の娼婦vsホンカ(チンコに辛子を塗られて悶絶!(ノ∀`) イヤーン)とか、ヘルガのレイプ未遂シーンとか、長回しにしてリアルに見せたりと、ところどころにK.U.F.U.が感じられて好感が持てました(描かれていること自体は酷いんですが、あまりにドタバタしていて、少し笑えたりもする)。直接的なゴアシーンはないのに、ちゃんと残酷に見える演出にも感心しましたね。で、役者さんたちも素晴らしくて、ホンカ役のヨナス・ダスラーが良かったのは当然だとして、何よりも娼婦役を演じた人たちがマジで体を張りまくっていて(冒頭の死体役の人含む)、見事としか言いようがなかったです。


ヨナス・ダスラーがホンカに変身するメイキングを貼っておきますね↓




あと、ところどころで、大学生ヴィリー(トリスタン・ゲーベル)とペトラ(グレタ・ゾフィー・シュミット)の物語が挟まれてまして。結局、ホンカのストーリーとはドラマチックに絡まないまま終わるワケですが、「街で殺人鬼と気づかずにすれ違っているかもしれない」的なスリリングさがあって良かったです(リア充との対比的な意味合いもありそう)。そして、酒場の便所で調子に乗ったヴィリーがアイパッチの巨漢に小便されて心が折れるくだりはね、あまりにあまりに酷すぎてドン引きしたし、スゲー同情いたしました (´・ω・`) カワイソウ みなさん、よく知らない人に気安い口調で話しかけたりしないようにしましょうね、マジで。


タバコの火をホンカに借りた大学生ペトラ。犠牲者になるのかと思いきや、そんなことはなかったです (´∀`) ヨカッター


背伸びしたために初デートで酷い目に遭うヴィリー。強く生きてほしいものです。



その他、思ったことを書いておくと、「死体の臭いが漂う部屋で暮らせるのはスゴい!」とか「犯行自体は杜撰なのに『捕まったのは偶然』なのが怖い!」とか「掃きだめのような酒場を観て、人生がドン底だった時期、話題が風俗とギャンブルしかない地獄のような職場の記憶が蘇った」とか「いなくなっても誰も気に留めない娼婦たちが犠牲になるあたり、『フロム・ヘル』を思い出したというか、結局、被害者は弱者なんだよなー」とか「ルッキズムは問題だけど、その支配から逃れるのは大変ですよね(ホンカはルッキズムの被害者なのに、自分もルッキズムに囚われている)」とか「ホンカの“美人”と“場末の娼婦”への対応の違いを観て、鴻上尚史さんの炎上した人生相談が脳裏に浮かんだ」とかとかとか。何はともあれ、さすがは「女は二度決断する」を撮ったファティ・アキン監督というか、いろいろと考えさせられるリアルな殺人鬼映画でしたよ。まだ公開されている地域がある&二番館などでも上映されると思うので、この手の作品がお好きな方はチェックしといた方が良いんじゃないかしらん (・∀・) オシマイ




唯一観ているファティ・アキン監督作。僕の感想はこんな感じ。



ヨナス・ダスラーが重要な役を演じた作品。僕の感想はこんな感じ。



連想したアラン・ムーア御大のコミックス。マジでオススメ!



園子温監督が撮った、実話からインスパイアされた犯罪ムービー。僕の感想はこんな感じ。