三浦春馬さんの自殺動機は? 

   小学校高学年男児が自殺した事件の背景を探るために特別取材したのは、もう四半世紀も前のことです。遠方なので3泊4日の出張日程でした。大阪本社の記者にも同行してもらい丸4日間取材しました。しかし結局、原稿は一行も書かずじまい。自殺取材の難しさを痛感したのを鮮明に覚えています。

 

 男児が首を吊った現場に立ったとき、ちょうど、午後5時を知らせる夕方チャイムが霞たなびく田園に流れました。♪夕焼け小焼けで日が暮れて♪。その時に、ひらめきました。朝、登校時間に家を出たまま学校には行かなかった彼は、そのチャイムに死を決意したのです。もう家には帰れない・・・。

 

 しかし、一通りの取材を終えても動機は不確定のままでした。出張初日にまず飛び込んだ所轄署に改めて行きました。事件を担当した老刑事に再び会い、言いました。「彼が自殺したのは午後5時でしょう」。刑事は「よくわかつたなあ」と、驚きました。検視による死亡推定時刻は、その通りだったのです。

 

 首をつった紐の跡が首に真一文字に残る男児の写真を見せながら「これは覚悟の自殺だよな、それで、どこまでわかつたの?」と、刑事は聞きました。四半世紀前とはいえ、詳細は書きませんが、その老刑事は言いました。「いい線までいつてるね。でも警察は、もうこれ以上踏み込まないよ」。

 

 警察が捜査を打ち切ったのだな、ということかはわかりました。「自殺動機はやはりそうか。そういう原因か」と思いましたが、取材上の確証はありません。海鳴りを聞きながら自宅を訪ねた学級担任は、とうとう出てきませんでした。急襲した校長先生は、泣き崩れるばかり。教員組合はしどろもどろ。男児の母親は、もうそっとしておいてもらえませんか、と泣きました。

 

 4日後に東京に戻りましたが、自殺は動機の究明が全て。それがはっきりしない以上は特別レポートは書けないと思いました。老刑事が言った言葉を覚えています。「金や色恋沙汰など、この世にいっぱい未練を残す大人と違い、子どもの自殺は、スパッとしているから動機が分かりづらいのだよ」。その子のためにも、分かったことは記事にしたい、と思う一方で、もし違っていたらその子に申し訳ない、と警察署で見たデスマスクが目に浮かびました。

 

 

 昔の自殺取材を思い出したのは、7月18日に男優、三浦春馬(みうら・はるま)さん(30)が死亡したからです。関連の記事がネットにあふれています。芸能音痴な筆者は初めて聞く名前ですが、ずいぶんな売れっ子だったようです。自宅で首を吊り、遺書めいたものがあるなど、どうやら自殺の線が強いとか。それにしても動機が不明なのです。

 

 映画に歌に、将来を嘱望される青年でした。まじめでストイックな性格だったようです。子どもの自殺に似た感じがします。純粋で折れやすい心が追い詰められ、世俗的なこの世への未練を残さずにスパッと死んでしまったのでしょうか?

 

 追い詰めたものは、何だったのでしょう。推測の芸能ルポでなく、まともな動機解明記事が読みたいと思います。警察は徹底的に動機解明の捜査を続けてください。社会的に重要な意味を持つ自死事件の予感がします。