人種の偏見を乗り越えたおばあちゃんの恋
この家に引っ越してから間もなく、近所の日本人のおばあちゃんに、手紙の翻訳を頼まれるようになりました。もう70くらいの小奇麗なおばあちゃんですが、その一連の手紙、何とラブレターなのです。おばあちゃんは、ある国の女性に騙されて会社を取られてしまい、その後ご主人を亡くしたのだそうですが、その同じ国のある男性が会社のことでいろいろと世話をしてくれて、その国の人に対する偏見など忘れてしまって、ぞっこん惚れ込んだと言うわけです。
何度も頼まれたので、だんだんと相手の男性のことが分かってきました。まずは人種、そして名前、仕事は弁護士、そしてその人はクリスチャンだと言うことも分かりました。実は、この四つの条件を満たしている人を知っていたのですが、おばあちゃんよりかなり年下なので、まさかと思っていました。
何年も前、ある日本人老夫婦が、仕事に失敗して何もかも無くし、ハワイに持っていた別荘で余生を過ごすために引っ越して来ました。ところが債権者がハワイまで追いかけて来て、訴訟を起こしていました。この弁護士は、何もかも亡くしたご夫婦のために、無償で彼らの弁護を引き受けたのです。私も、ボランティアで通訳を引き受けました。
それ以来、彼と会ったことはなかったのですが、先日ある訴訟の通訳をしていて、またお会いしました。彼も、私を覚えていてくれ、丁重に挨拶してくれました。仕事の後、XXさんという老婦人をご存知ですかと聞いたところ、苦笑いしながら、「あなたが訳してくれた手紙は全部読ませていただきました」と言う返事が返ってきました。私が訳したことなど、知っているはずはないのですが、彼もピンと来たのでしょう。
恋心は、老いを知らないようです。
米軍基地の美人コンテストで優勝した日本人のおばあちゃん
ホノルル郊外に、カネオヘと言う町があります。カネオヘには、とてもきれいな米軍の墓地があるのですが、その近くに、戦後、日本に駐屯していた米兵と結婚した日本人のおばあちゃんが住んでいました。私がこのおばあちゃんに最初にお会いしたとき、フランス俳優のイブ・モンタンに似ていると言うご主人は、癌でもう数週間の命でした。ご主人が亡くなってから後のことをお世話するために、ソーシャル・ワーカーが彼女を訪問したのですが、私はその通訳として行ったのです。
おばあちゃんは、とてもフレンドリーで、年は取っていましたが、とても美しい方でした。壁には、まだ若い頃、ビキニを着てフラを踊っている写真が飾ってありました。私の方が先に着いたのですが、ソーシャル・ワーカーが来るまで、いろいろな昔話をしてくれました。おばあちゃんは、米軍基地で働いていてご主人と知り合ったのだそうですが、まだ独身だった頃、基地で美人コンテストがあったそうです。彼女は、候補の一人に選ばれ、ほかの金髪美人の候補に混じって、彼女の写真も壁に飾られました。写真の下には、募金箱のような箱が置いてあり、兵士が、その中にお金を入れるのだそうです。箱に入っていた金額が一番多かった人が選ばれるのだそうですが、彼女は見事、その年のミスに選ばれたのでした。美人だっただけでなく、その屈託のない性格がものを言ったに違いありません。
ご主人は痩せこけていて、会話もろくに出来ないような状態でした。隣の部屋にご主人がいる中で、おばあちゃんと、ご主人の亡き後の話をするのは酷ですが、おばあちゃんはもう覚悟ができていました。彼女は、ソーシャル・ワーカーの話をしっかりと聞いて、はきはきと返事をしていました。
私は数ヶ月の間に何回か通訳に行ったのですが、ご主人は間もなく亡くなりました。驚いたことは、そのほんの短い期間に、彼女が見る見るうちに痴呆になって行ったことです。あんなにチャーミングでしっかりしていた方だったのに、もう、ひとりで生活を続けられるような状態ではありませんでした。たぶん家族が引き取ってくれたのでしょう。私は間もなく、通訳を頼まれなくなりました。
十年以上も前のことです。たぶんあのおばあちゃんは、もう、カネオヘの墓地で、ご主人のそばに眠っていることでしょう。
みんなが人生ドラマの主人公
もう20年近くも前のことですが、オアフ島のカネオヘという町の大きな教会で働いていたときに、ある信徒さんの親戚の方のお葬式をしたことがありました。実は、私は、お葬式の司式をするのは初めてでした。遅れてはいけないと思って、ずいぶん早く墓地に来てしまった私は、墓石を一つ一つ読みながら、時間をつぶしていました。
30歳も年上のロシア人と結婚した日本人の奥さん・・・、未亡人になってから亡くなるまでの40年、どのように過ごしたのでしょう。二人の年子の兄弟のお墓・・・二人とも生まれて数週間で亡くなり、同じお墓に埋葬されていました。二人をここに納めたときのご両親の悲しみが伝わってくるようです。姓が私の知り合いの姓と同じでしたので、後で聞いてみたところ、ここに埋められていた兄弟は、何と彼が生まれる前に亡くなったお兄さんとお姉さんだったそうです。彼は本当に健康そうな人で、きっとご両親の悲しみを喜びに変えてくれたことでしょう。第二次大戦後まもなく亡くなったフィラデルフィア出身の軍人。彼がここに埋葬されてから、いったい何人の人がこの墓を訪ねたのでしょうか。なんとなく、寂しそうなお墓でした。
最近のお墓は、ご本人のお名前、生年月日、そして死亡日が書いてあるだけのことが多いのですが、昔のお墓は、亡くなった方についていろいろなことが書いてあったり、写真まで付いているものもあったりして、何か興味深い、感慨深いものがあります。そこに埋葬されている方、一人ひとりに、人生ドラマがあるのだなと感じさせられます。
「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。」
(聖書、イザヤ書43章4節)