20話「エピロオグ」
鬱ノ宮高校の悲劇
第20話「エピロオグ」
鬱ノ宮高校新聞部の部室。
こういう場所は15年経っても意外と変化しないものだ。
記念式典が終わって、そこを訪れたのは現理事長と現教頭。
元新聞部部長の小沢七雲と、
新聞部と敵対していた元風紀委員長、右田翼だ。
「入れ」 尊大な女子の声。
「緑子ちゃん!
本当に、ホントオに何にも変わんないんだね!」
七雲が部室に飛び込むなり弾んだ声で言う。
部室の奥に座っているのは、緑色の髪の少女。
黒いスーツの大人2人と違って、
欝ノ宮高校のブレザーの制服を着ている。
緑子と言われた少女は、
自分より明らかに年上に見える七雲に向かって、
対等というよりむしろ上から、甚だテンション低く応えた。
「……ふうん。 貴様は老けたな、七雲」
「あ~んもうッ! どうして綺麗になったな、くらい言えないのよ!
何千年も生きてるんだから少しはお世辞くらい言いなさいよ!」
「2686年じゃ」
「あんたね!…どーでもいいけど婆ぁのくせにその肌は反則よッ!」
翼は会話には積極的に加わらず、
たまに眩しそうに緑子をチラ見している。
「…そうそう…世辞と言えば中条だがな」
中条は緑子の使い魔の神鳥の名前。
外見はただのウソという野鳥だが、
人語を解し詭弁を看破する能力を持つ。
かつては七雲も借りていたことがある。
「今の新聞部部長に預けてあるのだがなぁ。
あまり役に立つ機会がない、とぼやいておったぞ」
緑子が七雲に言う。
「あ~。いまの執行部は嘘をつかないのを絶対信条にしてるからね。
本当のことをありのままに言ってるから、さすがの中条も出番が無いかも」
「感心感心。
結局、真実を言ってしまうのが一番の近道なのじゃ。
どんなに破滅的に見えようともな」
「えへへ。緑子ちゃんの言ったとおりにしてるよ」
「ところで真実と言えばなぁ、教頭」
緑子がいきなり矛先を翼に振る。
「 ! なっ なななんだよ」
「本当のことを答えろよ、翼」
「…だ、だから何だよ!」
「さっきから気になっておったんじゃが」
「な何が」
「貴様が私を見る視線の熱さじゃ。 これは只事ではないぞ?」
「…! ばッ ばか! 何言ってやがるッ!」
「スーツにネクタイでその視線は犯罪ではないのか? 相手はJKだぞ?」
「ばッ! なななな何がJKでいッ! ざけんなよこのアマ」
「ほらほら昔の不良言葉がだだ漏れじゃ。のぉ教頭先生?」
こわもて生徒指導の右田教頭も、緑子にかかれば掌中の手玉と同じ。
「あ。…ああ~。右田クンやっぱりロリコンだったんだぁ」
「…りり理事長まで何言って」
「ツンデレのロリとはのぅ」
「違ッ つかテメどっからそんな用語仕入れやがった」
「17年も生きてると自然に耳に入ってくるものよ」
「さっき2686年と言ったろうがあああぁぁぁぁあああ」
「ふうぅ…熱いのう。…それとも理事長狙いか?
本人は自分では綺麗になったと思っておるらしいぞ?」
「ちょ何言って」
おみやげのシュークリームの箱を開くまでには、
まだまだ時間がかかりそうだった。
鬱ノ宮高校の悲劇 [ 終 ]
おまけ。 中条 要約中。
七雲: と、いうことで ひとまず終了です。
3月11日以前と以後では、日本が全く変わってしまいましたねぇ。
また、日本の国民もハッキリ2極に分化していまいました。
緑子: 毎回怒りに満ちた原発の記事しか上げん「絶対に反対」派と、
まるで何も無かったように不自然に無視し続ける「結局は容認」派か。
どっちもどっち、両方とも常軌を逸しとるように見えるがのぉ。
七雲: というか、日本国自体がもう狂っているのかもしれません。
今回の事態は中間層がほとんど存在しないのが特徴です。
そういう意味では完全に2極化してますね。
緑子: 反対と容認のどっちが正しいかは、
数年後に子供たちの健康状態となって現れるわけじゃ。
七雲: 賭ける人とそのツケを払う人が別、というのも残酷な話です。
緑子: ところでこのブログは元に戻るのか?
七雲: 事ここに至ると、後戻りするのはなかなか難しいでしょうねぇ。
しばらくはまた私たちが登場することになるかと思います。
緑子: 嫌がる人が多そうじゃのぉ(笑
19話「公金で食っていくシステム」
鬱ノ宮高校の悲劇
第19話「公金で食っていくシステム」
「鬱ノ宮高校 世界ランク第5位復帰記念 式典会場」
第5位復帰?
…そう。
震災と原発事故を機に鬱高の世界ランクは2ケタまで転落した。
それをたった15年でそこまで反転させたのは、
何といっても奈良時代以来1200年ぶり(笑)に現れた女性指導者、
小沢七雲の存在が大きい。
緑子いわく、どの時代も
国家財政と共生する輩が増えれば増えるほど国力は傾く。
古くは公家・旗本・大名・御用商人。
近代になると軍人・軍需産業。
現代は政治家・土建業、…そして原発。
トップと一心同体であれば
それがどんなに理不尽でもヒラの鬱高生は反抗できない。
ふだんの鬱高ならそのまま長期低落傾向は何十年、
下手すると何百年も続くはずだった。
だが、七雲は理事長に就任すると前例を全く考慮せず、
いきなりこの「公金で食っていく」システムに大鉈を振るい始めた。
なんたら審議会の長い長いガス抜き議論という、
骨抜き行程を一気に吹っ飛ばして。
もちろん特権を失う者たちが
死刑宣告をただ座して甘受するわけがない。
かつて四民平等と廃刀例を押し付けられた武士階級のように、
その反撃は熾烈を極めた。
マスコミに圧力をかけてのネガティブキャンペーン。
連日連夜、些細なことを悪意をもって針小棒大にとりあげ、
七雲を稀代の毒婦に仕立て上げようとする。
それでも敵わないとみるや、
ついに暗殺の魔手までも伸ばしてきた。
普通なら七雲は悲劇の政治家として
その志なかばで夭逝したことであろう。
だが、今回に限って「普通」ではなかった。
それは裏社会に通じた右田家の跡取り、右田翼の存在である。
本来なら暗殺者のほうにまわるべき彼が七雲の味方についたことにより、
形勢は五分以上に逆転した。
さすがは蛇の道は蛇、裏社会が仕掛けてくる死のトラップを次々と見破り、
翼は七雲を影から守りきった。
こうして活力を奪っていた上の重しが綺麗に取り除かれると、
鬱高の経済は一気に活性化した。
今まで無駄な目的に浪費されていた膨大なエネルギーが全て復興へと回り、
その目覚しい進捗ぶりは維新後や終戦後を彷彿とさせた。
鬱高は上のバカさえ取り除けば、その勤勉ぶりはいつでも世界一なのだ。
そして、一時期2ケタまで落ちていた世界ランクも、
急速に上昇に転じる。
緑子に言わせると、まだ余力のあるうちに方向転換に成功したのは
有史以来初めてのことらしい。
「鬱ノ宮高校 世界ランク第5位復帰記念 式典会場」
風に翻る横断幕の下、七雲が言う。
「私が今、
生きていられるのも翼君のおかげだね」
後方を歩いていた翼が応える。
「ん? ああ。緑子に言われてるからな。
お前の代わりはいくらでもいるが七雲の代わりはおらん、と」
「ん もう! 緑子ちゃんたら!
…でも、ありがとね」
「ふん。まったく。好き放題に物事を進めやがって。
お前を守るほうの身にもなってみろ」
二人は式典の会場へと入っていく。
緑子: …なあんて結末になればいいんじゃがのう。
七雲: ………。
あ、あたし暗殺されかかるんですかぁ?
緑子: …むう。
これは覚えておくとよい。
この国ではホントに最後の最期、いよいよ断末魔になると
政治家の暗殺が横行し始める。
それが終わりの始まりじゃ。
ここでハッキリ予言しておくぞ。
七雲: もし…そうなったら…どうしたらいいんですかぁ。
緑子: 本編でもくどいほど言っておるが、
そうならんためには一人一人が自分のアタマでモノを考える。
それに尽きる。至極簡単なことなんじゃがのう。
アジア人種にはこれが意外に難しいらしい。
七雲: ところで、風評被害という、
魔法のぉ言葉ぁ~♪
が独り歩きしてますね。
緑子: コレについてはいずれじ~っくりと
文句を言う必要があるな。
18話「嘘をつかない仕事はやっぱりいい」
鬱ノ宮高校の悲劇
第18話「嘘をつかない仕事はやっぱりいい」
「理事長!」
スーツ姿の30歳前後の若者が駆けて来て言った。
「式典の準備ががもうすぐ整うぞ」
石碑の前にしゃがみこんでいた、
理事長と言われた人物が振り返る。
「わかりました。右田教頭先生」
赤い髪の、やはり30くらいの女性。
髪型は少し変わったが、童顔は高校生の頃そのままだ。
小沢七雲…今や鬱ノ宮高校の若き女性理事長。
その理事長を補佐するナンバー2の教頭は、なんと元風紀委員長右田翼だ
「あれから15年が経ちました。
皆さんが救ってくれた鬱高は、ようやくここまで回復しましたよ」
七雲は石碑に語りかける。
結局、鬱高は原発事故の自主解決を断念、
国連とIAEA、USA高校・USSR高校・EU学園
などからなる国際救援団により冷温停止に成功した。
やる気のない逃電一派にまかせきりだったら、
おそらく解決は何ヶ月もかかったことであろう。
放射性物質はその間ダダ漏れだったかと思うと、
七雲はあらためてゾッとする。
石碑は記された名前は
松本 アキラ
逃田 電一郎
右田 核栄
あの事故の際、鬱高の危機を救った3人の名前だ。
3人は事故から5年以内にいずれも他界した。
また、その後現地での陣頭指揮に奮戦した、
当時の民井理事長と弟の民井教頭も今はもういない。
死因はもちろん全員、癌である。
放射能との医学的な因果関係は立証されていない。
急性の放射性障害ならともかく、
晩発性の障害を立証するのは実際は不可能に近いのだ。
その意味では「ただちに」身体に影響はなかったし、
「その後も」身体に影響はなかった。
原発擁護派が言うように、たしかに癌の発症率は上昇した。
だが、それを原発由来のものと認めさせるには、
気の遠くなるほど長い裁判での戦いが必要となる。
大気中・水・土壌・野菜・魚介類・牛乳
バラバラに計測してバラバラに安全の太鼓判をおしているだけ。
花粉程度のアレルゲンでさえ個人差がものすごいのに、
どうして放射性物質が一律に安全だと断言できよう。
しかも人体での蓄積はまるで考慮されていないのだ。
仮に ひとつひとつが「安全値以下」 だとしても、蓄積すれば同じこと。
当時化学室があったあたりは閉鎖され、
15年後の今でも一般生徒立ち入り禁止区域となっている。
もちろん、原子力発電は段階的に縮小され すべて廃止となった。
ただし現段階ですべて廃炉に成功したわけでもない。
核廃棄物もすべて消えて無くなったわけでもない。
地中に埋めて後はなるべく考えないようにする、
そんな情けない方法しか今でも見つかっていないのだ。
「地学の先生たちも式典に出席するのよね」
七雲が翼に聞く。
「ああ。竹本教諭は担当の太陽光発電システムで、
梅本教諭は風力と地熱発電でそれぞれ表彰される運びだ」
「長かったよね、あれから」
七雲が屋上に斜めに敷き詰められた可動式太陽光パネルと、
遠くで回る白い風車群を見渡す。
事故当時の化学部の生き残り、竹本と梅本は今は地学の教諭となり、
新しい発電システムの担い手となっている。
もちろん、放射性廃棄物の後始末のかたわら、だ。
多忙を極める彼らだが、明るさは昔とは比べ物にならない。
口癖は
「嘘をつかない仕事って、やっぱりいいもんですね!」
小沢理事長、右田教頭のふたりは式典準備に慌しい会場に入っていく。
会場入り口に横断幕に書かれた文字は
「鬱ノ宮高校 世界ランク第5位復帰記念 式典会場」
七雲: ちょ、ちょっと!いきなり15年後ですか!
緑子: まあ…しかたなかろ。
この作者に原子力の知識はなく、技術的な解決策など書けるわけがない。
だが、震災以来ずっとウォッチしてきたが、
東電の言う技術論が全くアテにならんということだけは、
ウンザリするほどよくわかった。
七雲: 彼らの唱えていた安全論はほとんど例外なく
時間の経過とともに悪いほうへ霧消していきましたからね。
緑子: サッカーの詳しい戦術はわからん。
だが この監督では連敗を止められない、
というのは素人でもわかる。
七雲: 選手もイヤイヤ集められた協力企業の社員ばかりです。
東電本社が安全なところからクチだけ出しても、士気は上がらないでしょうね。
緑子: この事故は本編でも書いたように、
「やれることをやってる」だけでは解決せんよ。
「放射能を安全なレベルに下げるには放射能に近づかねばならない」
という論理的で致命的な矛盾。
それを打破するという無茶をしなけりゃならんのだから。
七雲: その無茶をしなければ、
今度は国民のほうに犠牲者が出るわけですね。
緑子: 東電は無事かもしらんがの。
七雲: それから、今晩10時より、衝撃的な内容で再々放送までされたETV特集、
その続編が放映されます。
緑子: 見ると鬱になるんじゃが…見ないわけにもいかん(笑
「ネットワークでつくる放射能汚染地図~福島原発事故から2か月~」
(後日談)
緑子: 続編は時間も短いし、ほとんどインタビューだったの。
七雲: 1時間半にわたって福島第一原発近隣をリポートした前回とは、
ずいぶん様相が違いましたね。
緑子: 前回は避難地区の養鶏家の話がショックじゃったのう。
汚染を怖れて餌の配送が拒否されとるんじゃ。
七雲: 1回目にテレビカメラが入った時は、
カラの餌箱をニワトリが首を出して必死につついているんですよ。
一粒も餌が入ってないのに、ギャーギャー鳴きながら。
…それが数日経って2回目に入った時には、
あんなに騒々しかった小屋が物音一つしなくなっていて…(絶句)
緑子: 屍の山じゃった。
人間はなんて勝手で残虐な生き物なのじゃろう。
17話「制御下でしか制御できない」
鬱ノ宮高校の悲劇
第17話「制御下でしか制御できない」
「待て翼」
「?」
緑子と翼、その二人の間に割ってはいる人物。
理事長でさえ一目置く、
鬱高風紀委員会の委員長を呼び捨てにできる人物。
それは鬱高広しといえど2人しかいない。
緑子以外には…前理事長右田核栄のみ。
「 ち、父上? 」
2人の関係は祖父と孫、と知らされていた一般生徒たちがざわつく。
もちろん七雲も初耳だ。
「翼。昨晩言ったはずだぞ。
ワシがつくりあげたものはワシが全て使い切ると」
「……」
核栄は白煙を吹き上げる校舎を仰ぎ見ると言葉を続けた。
「永遠に毒を吐き続ける化け物か。
ワシが ともに逝くのにふさわしい道連れ だ」
「…父上?」
「翼、お前の命はお前らの代のために使え」
「…!」
「逃田ぁッ!」
核栄がしゃがれ声で怒鳴る。
ジリリリリリリリリリ
「はぁいい」
少し離れた所から逃田の声があがり、
よろよろとした足取りで右田親子のほうへ近づいて来る。
「覚悟は決めたか、逃田ッ!」
核栄が再び怒鳴る。
「…はぁいい。決めたですぅ」
「ほう。珍しく潔いな。
逃げの逃田が最後の最期で心変わりか」
「…はいぃ。
…理由は…たぶんあなたと同じ…ですぅ」
「ふふん。見せてやるぞ。
ガキどもに大人の生き様をな!」
「今となっては 逝きざま ですねぇ~」
「…緑子様」
核栄が少女に向き直って言う。
「行ってまいります」
「うむ」
はるかに幼く見える緑子が、不遜な態度で応える。
「遅くなりましたが、今回の事態を招いた責任者として、
責任をとってまいります」
「おい」
「は」
「死ぬ気か」
「御意」
核栄が淡々とそう答えると、緑子の声もさすがに湿り気を帯びる。
「そうか。…頼む、核栄」
「もったいなきお言葉」
70過ぎの老人が敬語で、女子高生が横柄なタメ口。
「ち、父上…」
そんな核栄の姿を何年かぶりに見た翼もたじろぐ。
「翼、次の世のことは頼むぞ」
「父上ッ!」
ジリリリリリリリリ
耳をつんざくような非常ベルの音が
ひとつの時代の終焉を感じさせる。
「制御下」でしか「制御」できない…
そんな技術は「制御」と呼ぶに値しないのだ。
至極当然のことを学ぶのに、
途方もない歳月と天文学的な金額、
そして気が遠くなる数の生き物の命が失われていく。
オリンピックのメダルもノーベル賞も、
世界有数の生徒数に比して鬱高生の受賞は意外に少ない。
USA高校の半数は獲っていてもおかしくはない人口数なのだが、
実際は足元にも及ばない。
さらに数の少ないEU学園の各分校のほうが、よっぽど健闘している。
つまり鬱高生は身体能力も知的頭脳も、
世界的には大したレベルではない のだ。
それが世界第2位までのし上がれたのは、
ひとえにその従順性と集団性、それに真面目さのおかげである。
だが、従順性は両刃の剣、すぐに「盲従」へと変化する。
歴史的に見るとだいたい数十年から百年の単位で
「従順→右肩上がり」と「盲従→長期低落」を繰り返している。
特に上昇期はなぜかどの時代も50年程度の寿命しかない。
「上の命ずるがまま、危険なことも我慢して、無駄の仕事を懸命にやり続ける」
こういう状態になると、鬱高はもはや坂道を転がり落ちるだけだ。
ギリギリまで我慢しているから、攻撃的で聞く耳を持たない。
無駄や無意味を薄々自覚しながら、それを理論的に指摘されると逆ギレする。
なまじ一所懸命にやっているものだから、転落の事実が受け入れられない。
冷静に事実を諭し路線変更を主張する仲間を、裏切り者として攻撃する。
低落の事実を受け止めきれず、「世界一優秀な民族」という幻想にすがり続ける。
幕末、第二次大戦、…繰り返される病理的現象。
そして今も同じ。
もはや「安価」でも「安全」でもなく、「安定」すらしていない原発…
容認論者が念仏のように唱えてきた3Aは既に瓦解した。
あとは「危険」「汚い」「高価」の3Kしか残っていないのだが、
過去の過ちを認める余裕を既に失っている鬱高は、
逆ギレしたまま原発と共倒れの道を選ぶ。
あとは 「上」 が 「こんな危険なモノはもう止めましょう」 と言ってくださるのを
ひたすら待つしかない。
「上」 が滅亡前にそう言ってくれれば明治維新となり、
滅亡するまで言ってくれないと終戦のような惨事となる。
そういう「上」を取り替えることができるのが民主主義なのだが、
知識として知ってはいても実際にそう発言行動するのは至難の業らしい。
(おまけ)鬱高とNIPPON
七雲: さて。皆様に嫌がられてきた「鬱ノ宮高校の悲劇」ですが、
いよいよ最終回が近づいてきました。
一方、鬱高ではなく日本の現状はどうなっているかというとぉ…
緑子: 123号機全部メルトダウンで
格納容器にも多かれ少なかれ穴が開いている。
あははははは。 もう考えられうる最悪といってよいレベルじゃ。
正直、ここまで酷いとは思いたくなかったの。
あとは核物質本体が格納容器の外まで落ちてるかどうか、
という問題だけじゃが…
七雲: 誰も「それはない」と言ってませんからねぇ。
これがアリなら日本はもう本当にヤバいですね。
その事実を認めたくないばかりに、
結局2ヶ月以上も対策すら怠ってきました。
最悪の想定にどう対処するのかというのは、
例によってこれから出たとこ勝負になりそうです。
緑子: もうあきれるばかりの無責任ぶりじゃ。
人の命を何だと思っておる!
七雲: 日本はこの先どうなるかわかりませんが、
鬱高の物語は決着をつけないといけません。
緑子: 核物質が万が一、いや十に一、外に出てたらもう解決法はないぞ。
七雲: このラノベは事態がそこまで最悪ではない、
という架空の仮定でお送りしたいと思います。
緑子: そうじゃないと終わらないからのお。
七雲: 日本の事態がそこまで最悪じゃないことを心の底から祈っています。
16話「我々も同じように無能でした」
鬱ノ宮高校の悲劇
第16話「我々も同じように無能でした」
「そんなの駄目だよ!」
「それは駄目だ」
声が重なる。
「…?!」
七雲が振り返るとそこには学ランの少年。
「駄目だ緑子」
翼は繰り返す。
「お前がいないと
この鬱ノ宮高校は成り立たない」
緑色の髪の少女が、からかうような流し目で言う。
「ふん。どうした翼。また趣旨変えか。
ようやく他人の痛みも自分の痛みとして
感じられるようになったのか?」
翼はそれが癖なのか、怒ったように言う。
「ああ、自分の痛みだよ。
お前を失うくらいなら、俺が危険を冒したほうがマシだ」
「……?」七雲は口を挟めない。
ジリリリリリリリ
相変わらず非常ベルは耳をつんざくように鳴り響く。
七雲の肩にとまっている小鳥は、
彼女の耳にくちばしを寄せて囁いた。
「つまり…好きってことだよ」
この中条は人語を解し、要約する神鳥なのだ。
「へ? …誰が誰を?」
「右田翼が緑子様を」
「はぁ? 敵同士なんじゃないの?」
一方、逃田のところには化学部員竹本と梅本が駆け寄ってくる。
「逃田先生!」
「松本先輩が!」
「?? 松本がどうかしましたかぁ~」
「…高濃度汚染水が川に流出して!」
「止めようとして防護服に汚染水を浴びて!」
「えええええぇぇっ?」
何があっても飄々としている逃田の顔が、
事故以来初めて驚きに歪む。
「そそれで、松本はどうしました!」
「命はありますが今は保健室に!」
「ど、どどどうしてそんなことに…
決して無理をするなと言ってあったはずですよぉ!」
ジリリリリリリリリ
非常ベルは非情に鳴り続ける。
遠くでは民井理事長が携帯電話に叫んでいる。
「そうだ! USA高校に大至急救援を頼め!
そうだ! もう主権がどうこうと意地を張ってる場合じゃない!
あ、あとEU学園猿故事分校にも連絡を!」
民井教頭も指示に必死だ。
「そうです! USSR高校に支援要請を!
チェルノブ○リではあの高校の対応を小馬鹿にしていましたが、
もうそんなことは言ってられません!
と言うより我々も全く同じように無能でした!
いや、あれ以下かもしれません!
全世界の力を借りない限り、
もはや我々だけでは収束は不可能です!」
先進校は通常、その領土内で主権を失うことを極度に嫌う。
どんな災厄であろうと、原則自校のみで解決しようとする。
それはメンツの問題でもあり、
他校に指揮権を委ねるようなことは、まず絶対にない。
だが、この時ばかりは別だった。
もはや鬱高は問題解決能力を無くしかけていたのだから。
七雲: 「未来や子供たちのために、何が何でも事故を収束させる」、
そういう強い意志を 東電や政府に感じないんですけど。
緑子: どっちかと言うと、
被害の実態に国民生活を合わせるのにもう一杯一杯、
…という感じだな。
七雲: 先日、文科省がついに学校での安全基準を
20ミリシーベルトから1ミリに引き下げましたね。
緑子: あれほどやる気のないコメントを連発してた文相以下を改心させたのは、
なんといっても世論の力が大きい。
もちろん、後ろ指を差されながら頑張った反対派のおかげじゃ。
七雲: 最大多数の現状追認派は、結局何一つ役に立ちませんでした。








