16話「我々も同じように無能でした」
鬱ノ宮高校の悲劇
第16話「我々も同じように無能でした」
「そんなの駄目だよ!」
「それは駄目だ」
声が重なる。
「…?!」
七雲が振り返るとそこには学ランの少年。
「駄目だ緑子」
翼は繰り返す。
「お前がいないと
この鬱ノ宮高校は成り立たない」
緑色の髪の少女が、からかうような流し目で言う。
「ふん。どうした翼。また趣旨変えか。
ようやく他人の痛みも自分の痛みとして
感じられるようになったのか?」
翼はそれが癖なのか、怒ったように言う。
「ああ、自分の痛みだよ。
お前を失うくらいなら、俺が危険を冒したほうがマシだ」
「……?」七雲は口を挟めない。
ジリリリリリリリ
相変わらず非常ベルは耳をつんざくように鳴り響く。
七雲の肩にとまっている小鳥は、
彼女の耳にくちばしを寄せて囁いた。
「つまり…好きってことだよ」
この中条は人語を解し、要約する神鳥なのだ。
「へ? …誰が誰を?」
「右田翼が緑子様を」
「はぁ? 敵同士なんじゃないの?」
一方、逃田のところには化学部員竹本と梅本が駆け寄ってくる。
「逃田先生!」
「松本先輩が!」
「?? 松本がどうかしましたかぁ~」
「…高濃度汚染水が川に流出して!」
「止めようとして防護服に汚染水を浴びて!」
「えええええぇぇっ?」
何があっても飄々としている逃田の顔が、
事故以来初めて驚きに歪む。
「そそれで、松本はどうしました!」
「命はありますが今は保健室に!」
「ど、どどどうしてそんなことに…
決して無理をするなと言ってあったはずですよぉ!」
ジリリリリリリリリ
非常ベルは非情に鳴り続ける。
遠くでは民井理事長が携帯電話に叫んでいる。
「そうだ! USA高校に大至急救援を頼め!
そうだ! もう主権がどうこうと意地を張ってる場合じゃない!
あ、あとEU学園猿故事分校にも連絡を!」
民井教頭も指示に必死だ。
「そうです! USSR高校に支援要請を!
チェルノブ○リではあの高校の対応を小馬鹿にしていましたが、
もうそんなことは言ってられません!
と言うより我々も全く同じように無能でした!
いや、あれ以下かもしれません!
全世界の力を借りない限り、
もはや我々だけでは収束は不可能です!」
先進校は通常、その領土内で主権を失うことを極度に嫌う。
どんな災厄であろうと、原則自校のみで解決しようとする。
それはメンツの問題でもあり、
他校に指揮権を委ねるようなことは、まず絶対にない。
だが、この時ばかりは別だった。
もはや鬱高は問題解決能力を無くしかけていたのだから。
七雲: 「未来や子供たちのために、何が何でも事故を収束させる」、
そういう強い意志を 東電や政府に感じないんですけど。
緑子: どっちかと言うと、
被害の実態に国民生活を合わせるのにもう一杯一杯、
…という感じだな。
七雲: 先日、文科省がついに学校での安全基準を
20ミリシーベルトから1ミリに引き下げましたね。
緑子: あれほどやる気のないコメントを連発してた文相以下を改心させたのは、
なんといっても世論の力が大きい。
もちろん、後ろ指を差されながら頑張った反対派のおかげじゃ。
七雲: 最大多数の現状追認派は、結局何一つ役に立ちませんでした。

