17話「制御下でしか制御できない」
鬱ノ宮高校の悲劇
第17話「制御下でしか制御できない」
「待て翼」
「?」
緑子と翼、その二人の間に割ってはいる人物。
理事長でさえ一目置く、
鬱高風紀委員会の委員長を呼び捨てにできる人物。
それは鬱高広しといえど2人しかいない。
緑子以外には…前理事長右田核栄のみ。
「 ち、父上? 」
2人の関係は祖父と孫、と知らされていた一般生徒たちがざわつく。
もちろん七雲も初耳だ。
「翼。昨晩言ったはずだぞ。
ワシがつくりあげたものはワシが全て使い切ると」
「……」
核栄は白煙を吹き上げる校舎を仰ぎ見ると言葉を続けた。
「永遠に毒を吐き続ける化け物か。
ワシが ともに逝くのにふさわしい道連れ だ」
「…父上?」
「翼、お前の命はお前らの代のために使え」
「…!」
「逃田ぁッ!」
核栄がしゃがれ声で怒鳴る。
ジリリリリリリリリリ
「はぁいい」
少し離れた所から逃田の声があがり、
よろよろとした足取りで右田親子のほうへ近づいて来る。
「覚悟は決めたか、逃田ッ!」
核栄が再び怒鳴る。
「…はぁいい。決めたですぅ」
「ほう。珍しく潔いな。
逃げの逃田が最後の最期で心変わりか」
「…はいぃ。
…理由は…たぶんあなたと同じ…ですぅ」
「ふふん。見せてやるぞ。
ガキどもに大人の生き様をな!」
「今となっては 逝きざま ですねぇ~」
「…緑子様」
核栄が少女に向き直って言う。
「行ってまいります」
「うむ」
はるかに幼く見える緑子が、不遜な態度で応える。
「遅くなりましたが、今回の事態を招いた責任者として、
責任をとってまいります」
「おい」
「は」
「死ぬ気か」
「御意」
核栄が淡々とそう答えると、緑子の声もさすがに湿り気を帯びる。
「そうか。…頼む、核栄」
「もったいなきお言葉」
70過ぎの老人が敬語で、女子高生が横柄なタメ口。
「ち、父上…」
そんな核栄の姿を何年かぶりに見た翼もたじろぐ。
「翼、次の世のことは頼むぞ」
「父上ッ!」
ジリリリリリリリリ
耳をつんざくような非常ベルの音が
ひとつの時代の終焉を感じさせる。
「制御下」でしか「制御」できない…
そんな技術は「制御」と呼ぶに値しないのだ。
至極当然のことを学ぶのに、
途方もない歳月と天文学的な金額、
そして気が遠くなる数の生き物の命が失われていく。
オリンピックのメダルもノーベル賞も、
世界有数の生徒数に比して鬱高生の受賞は意外に少ない。
USA高校の半数は獲っていてもおかしくはない人口数なのだが、
実際は足元にも及ばない。
さらに数の少ないEU学園の各分校のほうが、よっぽど健闘している。
つまり鬱高生は身体能力も知的頭脳も、
世界的には大したレベルではない のだ。
それが世界第2位までのし上がれたのは、
ひとえにその従順性と集団性、それに真面目さのおかげである。
だが、従順性は両刃の剣、すぐに「盲従」へと変化する。
歴史的に見るとだいたい数十年から百年の単位で
「従順→右肩上がり」と「盲従→長期低落」を繰り返している。
特に上昇期はなぜかどの時代も50年程度の寿命しかない。
「上の命ずるがまま、危険なことも我慢して、無駄の仕事を懸命にやり続ける」
こういう状態になると、鬱高はもはや坂道を転がり落ちるだけだ。
ギリギリまで我慢しているから、攻撃的で聞く耳を持たない。
無駄や無意味を薄々自覚しながら、それを理論的に指摘されると逆ギレする。
なまじ一所懸命にやっているものだから、転落の事実が受け入れられない。
冷静に事実を諭し路線変更を主張する仲間を、裏切り者として攻撃する。
低落の事実を受け止めきれず、「世界一優秀な民族」という幻想にすがり続ける。
幕末、第二次大戦、…繰り返される病理的現象。
そして今も同じ。
もはや「安価」でも「安全」でもなく、「安定」すらしていない原発…
容認論者が念仏のように唱えてきた3Aは既に瓦解した。
あとは「危険」「汚い」「高価」の3Kしか残っていないのだが、
過去の過ちを認める余裕を既に失っている鬱高は、
逆ギレしたまま原発と共倒れの道を選ぶ。
あとは 「上」 が 「こんな危険なモノはもう止めましょう」 と言ってくださるのを
ひたすら待つしかない。
「上」 が滅亡前にそう言ってくれれば明治維新となり、
滅亡するまで言ってくれないと終戦のような惨事となる。
そういう「上」を取り替えることができるのが民主主義なのだが、
知識として知ってはいても実際にそう発言行動するのは至難の業らしい。
(おまけ)鬱高とNIPPON
七雲: さて。皆様に嫌がられてきた「鬱ノ宮高校の悲劇」ですが、
いよいよ最終回が近づいてきました。
一方、鬱高ではなく日本の現状はどうなっているかというとぉ…
緑子: 123号機全部メルトダウンで
格納容器にも多かれ少なかれ穴が開いている。
あははははは。 もう考えられうる最悪といってよいレベルじゃ。
正直、ここまで酷いとは思いたくなかったの。
あとは核物質本体が格納容器の外まで落ちてるかどうか、
という問題だけじゃが…
七雲: 誰も「それはない」と言ってませんからねぇ。
これがアリなら日本はもう本当にヤバいですね。
その事実を認めたくないばかりに、
結局2ヶ月以上も対策すら怠ってきました。
最悪の想定にどう対処するのかというのは、
例によってこれから出たとこ勝負になりそうです。
緑子: もうあきれるばかりの無責任ぶりじゃ。
人の命を何だと思っておる!
七雲: 日本はこの先どうなるかわかりませんが、
鬱高の物語は決着をつけないといけません。
緑子: 核物質が万が一、いや十に一、外に出てたらもう解決法はないぞ。
七雲: このラノベは事態がそこまで最悪ではない、
という架空の仮定でお送りしたいと思います。
緑子: そうじゃないと終わらないからのお。
七雲: 日本の事態がそこまで最悪じゃないことを心の底から祈っています。


