ピ、ピピ、ピピピ、ピピピピ・・・。
「ん~。ヒロシ、朝だよ。学校に行く時間だよ。」
ん~。体を思いっきり伸ばす。あ~、気持ちいい。
ゆうべは、結局死なないで済んだみたいだ。今朝、
目が覚めたってコトは、生きてるってコトだ。
ホッとした。
結局、マスターの所に、店が終わる午前0時をはる
かに過ぎる5時くらいまで居させてもらった。話は、
まだ終わっていない。でも、柴田がこれ以上は俺が
もたねーって言って、お開きになった。
始発で帰ろうってみんなで店を出た時、柴田が
「一応念のため、今日は自宅には帰らない方がいいん
じゃない?。学校から帰ることにはなっちゃうから。
もう少し大自(大黒くんのこと)に調べさせるから、
安全が完全に確保されるまで時間を稼いでおいてくれ
よ。俺の家に来るか?。」
と言ってくれた。俺は、
「おお、サンキュー。気持ちだけもらっておくよ。」
と答えた時点で、根本が
「あははは。俺の勝ち~!。」
って言った。どうやら、行く先は柴田の家か、それと
も違うか、賭けていたらしい。
「美子ちゃん、襲われないように気をつけろよ。」
柴田が言うと
「誰に?。ヒロシにですか?。全然OKですよ(^^)。」
と、ニコニコしながら言ったもんだから、柴田は、
少し不機嫌な顔をした。
「あははは。柴田は美子ちゃんがだいぶ気に入った
みたいだな。」
根本が言うと、「うるせー」と小さな声で言って
柴田は根本を叩く格好をした。
俺は美子の部屋に帰って来て、そのまま2人でベ
ッドにコロン。2人とも全部脱いで、何も着ないで
毛布だけ掛けて寝た。美子は眠る前に必ず、俺の
腕を枕にする。くっつくとすぐに寝息を立てていた。
今日、俺が持ってるコマは4時限目と5時限目。
あれ?。今はオリエンテーション期間だから、まだ
ゼミはないなあ。じゃあ、俺、休みじゃん!。寝て
られる(^^)。
隣を見る。美子。ううっ、とか言いながら、一所
懸命起きようと腕を突っ張ってる。ぷるぷるしてる
ぞ。
「なあ、今日は何時から仕事?。」
「今日は休みだよ。夜、メシアだけ。」
「じゃあ、もう少し寝ようよ。俺、まだゼミはない
から。」
「ほんと!。あ、そうか。じゃあ、もっと寝てられ
るんだ!。わーい!。嬉しい(^^)。」
また、俺の腕を枕にしてピタッとくっついてくる。
キスしようと思って、腕に力を入れようとすると、
もうすやすや寝息を立てていた。しかたないので、
寝ている美子の唇に軽く「また、おやすみ」のキス
をした。
柴田に「俺の家に来るか?」と言われた時、嬉し
かった。何かがあった時、俺よりも柴田の方が対処
法とかいろいろ知ってるだろうし、頼りになるだろ
うと思った。でも、死んでしまうとしたら、最後に
一緒にいるのは美子だ、と思った。
それに昨日はたった1日で、約1年分の勉強をし
たような日だった。起きた時、柴田は間違いなく、
続きを喋り始めるだろう。それは正直言って、少々
キツイ。全て納得出来てるわけじゃないから。
目の前で気持ち良さそうに寝てる美子も、いろい
ろ経験してきてるんだなあ。俺とはそういう系統の
話は1度もしたことがなかった。何か、実感できる
事件とか、何かが起きたとか、そういうことがない
と、なかなか自分のこととして自覚できるようには
ならない話だから、実感できる何かを経験している
んだろう・・・。
!。思い出した。あの声。
『だって、聞こえたんだもん・・・。あなたの言霊が・・・。』
美子の声だった。あの切なそうな声。いつも明る
い美子だから、ギャップで気付かなかったのか
な?。なんだか切ない声だった。
俺が、自分の名前の由来を、調べてた時だったよ
な?。ヤマトタケルの子孫だなんて思ってもみなか
ったから、そういう方向では考えてなかったけど、
大和朝廷と何か関係があるんじゃないのか?と思っ
てた頃だった。
その時代の日本語を調べていて、その頃の書物の
中から、ヤマトの対義語がミナトだっていうのが見つ
かって、何で?と思って調べたんだ。低地から山に
向かって行く入口を「山門」といい、陸地から海ま
たは川(河)への入口をミナトという、元々は「水
門」と書いた、という記述を見つけた。調べ始めた
時、それぞれの言葉は「大和」と「港」という認識
だった。
自分探しだったから、「山門」と「大和」の関係性
が導き出せれば成功!、くらいに考えていた。たぶ
ん、ヤマトタケルのことを調べなかったのは「日本
武尊」という表記だから、眼中になかった、と思う。
大学の図書館を出て、そのままメシアに行った。
ドアを開けた時、目に飛び込んで来た美子の姿。体
中を電気が走った、いわゆる「ビビビと来た」って
いう状態になった。美子もそれに近い衝撃を受けた
って、その後、言ってた。「ご注文は?」って訊き
に来て「ジャワカレーとアイスコーヒーですね。」
って、俺が頼む前に言った。「えっ?」て俺が言う
と、「違ってました?」って不思議そうな顔をする。
「いや、頼もうと思ってたモノがどうしてわかった
のかな?と思って・・・。」と言うと「わかります
よ、お客さんのことなら!。」ってにこっと笑った。
俺は、その時から恋に上がった。よく、恋に落ち
た、って言うけど、落ちた感じがしないんだ。美子
に出逢ってから、昨日までずーっと、運気が上がっ
りっぱなしな感じだった。で、結局まだ生きてるっ
てことは、決して運気は落ちてない。それどころか、
テレパシー能力がついて、こんなことでもなければ
会えなかった柴田や根本に会えて、高校時代には知
らなかったことを、今、知ることが出来た。
まだまだ、運気は上がってるのかも知れない。で
も、何よりも、コイツを抱っこして寝てる時は、本
当に安らぐ。それだけあれば、後は何にも要らない
くらいに・・・。
そうだ。あの言葉を聞いたシチュエーションを思
い出してたんだっけ?。
名前を訊いた時、「みなとみこです。」って言わ
れて、俺「もしかして・・・みなとって『水門』て
書いたりするのかな?」って言ったら、「正解!」
って言われて、《やっぱり運命の女性だ!》って、
思ったよなあ。でも、あの切なそうな声とは、結び
つかないなあ・・・。
あの声は、俺の部屋で聞いたんだ。その前に、何
があったんだっけ?。声の主がわかったんだから、
本人に聞いてみよう。
寝てる唇をぷるぷる触ってみる。スヤスヤ寝たま
まだ。首筋をつーっとなぞってみる。少し反応あり。
今度はおっぱいの先をつんつんしてみる。
「ん~、おイタしないの・・・。」
もう少しで起きそう!。太腿を掌で美子の中心に
向かって軽くなぞる。
「・・・コラッ、寝てられないでしょ?」
ちょっとウザイけど、イヤでもないって顔。
「起こしたかったんだもん。あのさ、美子は、俺に
『だって、聞こえたんだもん・・・。あなたの言霊が・・・。』
って言ったことあるよね?。」
「ん~っと、あるよ。私がはじめてヒロシにテレパ
シーを使った時。」
「それって、どんなシチュエーションだった?。」
「2人ではじめてえっちして、すごく気持ちよくな
って、ヒロシが帰って、おうちについて、『どうし
て俺にこんなイイ女が、突然恋人として現れたんだ
ろう?』って、訊いたから。」
「俺のどんな言霊が聞こえたの?。」
「それはね・・・。まだ秘密(^^)。今は、ヒロシが
その時に思ったことを言っても、そんなことないっ
て否定されちゃうと思うから(^^)。」と美子。
めちゃめちゃ気になる。俺が否定しそうなこと?。
何だろう?。
「絶対否定しないから!。お願い!。教えて!。」
俺は必死に食い下がった。
「ホント?。じゃあ教えてあ・げ・る(^^)。その時、
まだ、ヒロシは少し未練があった女性がいた。伊寿
樽さん。何にも関係はなかったみたいだけど、イシ
ュタルの娘だもん。120人の愛人を持ってる女な
んてそうザラにはいない。ちょっとMッ気のあるヒ
ロシは高校時代に、憧れてた人だった。」
ドキッ!。たしかに・・・。そう思ってた時期が
あるのは否定しない。でも、初めて1つになった日
の、心の中は美子で満たされてたあの時に、何でそ
んなことが関係するんだろう?。
「初めてだったヒロシは、女ってすんごく気持ちい
いもんだって思った。だから、私は念を送った。女
が気持ちいいと思わないで!って。美子が気持ちい
いんだよ!って。その甲斐あって、ヒロシは、『今
は、美子だけだ』って思い直した。でも、私はイヤ
だった。ズーッとって思ってて欲しかった。」
本当にそんなふうに思ったんだろうか?。でも、
否定できない自分がいる。
「で、伊寿樽さんの記憶ってどんなふうになってる
のか覗こうとした。そしたら気付いてない筈のヒロ
シが嫌がった。っていうか頭にアクセスされるのは
イヤだって、思った。どうして思い出したいとも思
っていない女の記憶をいじられなきゃならないんだ
よ、って思った。」
あ、それ、何か心当たりがある。そんな気持ちに
確かになった。
「だから『だって・・・、聞こえたんだもん。』て
テレパシーで言った。」
「でも、俺、言霊なんて発してないじゃん。」
美子は悲しそうな顔をして言った。
「ヒロシは、これで伊寿樽さんの前でも、堂々とし
ていられる。だって、俺は『男になったんだーっ!』
って言挙げしたじゃん。」
あ、そうだったかも知れない。でも、すっかり忘れ
てた。しかも、心の中の言葉がそうだったなんて、今
言われて、たぶん初めて自覚した。そう思ってたとい
うより、もうすぐ同窓会、っていう時だったから、誰
と会っても、どんなに綺麗になってても、美子が居て
くれるから、物怖じしないで話せるなあ、って思って
た気がしてた。
「そうだったんだ。自分の心の中を、美子の方がハッ
キリ言葉に出来るなんて・・・。でも、今、俺が思っ
てた気持ちも伝わってるよね?。別に、伊寿樽のこと
そんなふうに思ってた、なんて自覚してなかった。」
俺は言った。
「ヒロシは女王様みたいな女に振り回されるタイプだ
ったから。」美子は言った。
「それに、ヒロシはその頃『聖書』を読んでた。丁度
男女関係について考えてる頃だった。ヒロシは
『天地創造の初めから、神は人を男と女とにお造りに
なった。それゆえ、人は父母を離れてその妻と結ばれ、
2人は一体となる。だから2人はもはや別々ではなく、
一体である。従って、神が結び合わせてくださったも
のを人は離してはならない。』
とか、
『妻を離縁して他の女を妻にするものは妻に対して姦
通の罪を犯すことになる。夫を離縁して他の男を夫に
する者も、姦通の罪を犯すことになる。』とか、そう
いうことの解釈に悩んでたよね?。
旧約聖書の創世記の『エサウとヤコブ』の中に出て来
るラバンが仕組んだ仕打ちにはどう対処するべきかわ
からなかったんだよね?。
ヤコブは妹のラケルを愛していたのに、結婚式の翌朝
目覚めたら隣で寝ていたのはお姉さんのレアだった。
結局姉妹両方ともヤコブの妻になる。そして、レアは
どんどん子供を産むのに、ラケルには子供が出来ない。
神に祈ると子供を授かった。
これは神話の世界とは矛盾しない。神はたびたび人間
と交わり、子を設ける。ただし、神々の「交わる」と
いう言葉の中には「えっち」をするという意味として
だけでは使われていない。例えばアテナ。処女神なの
に、子供は居る。ヘパイストスとの子・蛇身のエリク
トニオス。
アテナを手込めにしようとしてヘパイストスはこっぴ
どく撃退されたけど、興奮してドピュッてイって、そ
の精液(ザーメン)がアテナの足に掛かってしまう。
それを羊毛でぬぐって大地に捨てたけど、そこから醜
い子供が生まれてしまう。それでもアテナはその子を
かくまい、育てる。そして後にアテナイ王として立て
る。母性愛の象徴のような話でしょ?。
実は日本神話でもアマテラスは女1人で子供を産んだ
って言われてるのが不思議だよね。
人間の処女懐胎には神の子だっていう話がたくさんあ
る。でも、ヒロシはそういう話より、何人も好きにな
っちゃった時、どうしよう?っていう答えを求めて、
聖書を読んでたんだよね。
そして、ヒロシは1つの結論にたどり着いた。今、付
き合ってる人と別れちゃ行けない。もう1人と付き合
う時には、最初に付き合っていた人の望むものを取り
上げてはならない。だから、レアとも子供を作るし、
ラケルとも愛し合う。それが正しいんじゃないかって
思ってた。そして言った。『みんなを愛するんだ』。
神話の中では、神様はどうして、奥さんや旦那さんが
居ても人間と交わって子供を作るんだろう?って、思
ってた。だけど、聖書と突き合わせても矛盾しない。
そう思った。
でも、私はヒロシがとっても好きになってたから、ち
ょっと切ない気持ちになった。だから、ヒロシが、付
き合ってるのは私だよね?って言いたかった。これか
らいろいろ言い訳しないように、ヒロシが言挙げした、
『男になったんだーっ!』と『みんなを愛するんだ
!』っていう言挙げに対して、『私だけを見てて欲し
い!』っていう、言挙げをしてから、ヒロシにテレパ
シーを送った。
あ~あ、長い話したからすっかり目が覚めちゃった
よ。」
そうだったのか・・・。
でも、あの頃、そんなにまとまった考え方してなか
ったような気がする。1つ1つ、もっと未熟な考え方
をしてた気がする。でも、否定はしにくい。
不思議だなあ、美子って(^^)。聖書や神話を当たり
前のように話せるんだなあ。
1つ、確実に言えることがある。付き合い始めた頃
の美子より、今の方が美子のこと、全然好きになって
るってコト!。何十倍も何百倍も好きな気持ちが大き
くなってるってコト!。
「愛してる(^^)。」
「てへっ。テレるけど、私も愛してる!。」
抱きしめて・・・、唇をゆっくり合わせた・・・。