産業政策の意義
公私ともいろいろありまして、更新が滞ってました。すいません。
久々ですが、今回は産業政策の意義について、ちょっと考えてみたいと思います。
ご存知の通り、旧通産省(現経済産業省)が行っていた産業政策はすでに役割を終えたという意見やそもそも今までに行ってきた産業政策も誤りであったという意見はよく聞かれます。産業政策を、「国が特定の産業を振興すること」と定義すると、現在の日本経済においては、どこまでその意義があるのでしょうか。
その際、まず第一の論点として、国が振興すべき「特定の産業」を決定できるのかという問題があります。高度成長期のように、日本経済が欧米を追いかけている時は、振興すべき産業というものは確かに明確であったかもしれません。しかし、今の日本経済は世界経済のトップ集団の一角であり、どの産業を振興すれば、その集団から抜け出すことができるかは明確ではありません。むしろ、それがわかる役人がいるとしたら、新規事業を立ち上げるべきでしょう。
第二の論点として、特定の産業を振興することができるかという問題があります。これは入り口の点では依然として可能と思われます。入り口とは具体的には企業でモノを作るまでの段階で、研究開発に対する補助や設備投資に対する補助・減税などが考えられます。しかし、このブログでしばしば書いているように、高性能や低価格だけで売れるという状況はアジア諸国の台頭の中でだんだんと解消しつつあります。これからは、出口、すなわちマーケットを意識した支援を政府ができるのかどうかというのが問題となります。
率直に言うと、現在の政府にはほとんど無理と言っても過言ではありません。しかし、不可能というわけではありません。それについての示唆を与えてくれるのは、まさに昨日解散した「産業再生機構」ではないでしょうか。民間の有識者と役人が共存する組織が一つの目標に向けて取り組んでいく。そういう組織であれば、一定の成果をあげられると思われます。
もちろん、各産業ごとには審議会等を活用し、そういう取り組みはある程度進んでいますが、新規産業を立ち上げる場合に、既存の産業の切り口だけでは不十分ではないでしょうか。かといって、役所の業種横断的な審議会は抽象論で終わってしまっているような気がします。自分としては、今後の産業政策はまずそうした組織論を詰めるべきではないかと考えてます。
依然として強い舶来信仰?それともビジネスモデル?
ここ数年、次々と大手ブランドの旗艦店が日本にオープンしている。日本が世界に冠たるブランド消費国であるとすれば、それは当然なのかもしれない。確かにフランス製とかイタリア製とか聞くといいものだと思ってしまうところは自分にもある。
しかし、最近欧米の(特にヨーロッパの)大手ブランドの服には、日本の産地で作った生地を使っているケースも多いというような話を聞いた。衣料品については、縫製地(生地を縫い合わせた場所)が原産国となるため、日本の生地をイタリアで縫い合わせただけで、「made in Italy」になってしまうとのことだ。しかし、そのことを知っている日本人はどれだけいるのだろうか。
聞いた話では、欧米の大手ブランドは、自らが縫製した衣料に日本の生地代の約100倍程度の値段をつけて売っているとのことだ。これだけ聞くと欧米の大手ブランドがうまいことをやって儲けているように思えるが、彼等はそのぶん莫大な広告宣伝費を使い、自らのブランドイメージを高めている。基本的なビジネスモデルが違うのだ。
それに、欧米の大手ブランドが強いのは、衣料だけでなくバックや指輪といったものも扱っている点だ。流行に大きく左右される衣料と異なり、バックや指輪は安定した売り上げを彼らにもたらしている。一方で、日本のブランドで衣料、バック、指輪をトータルに扱えているブランドは皆無である。それは、バッグを作るのに必要な皮革に関係する日本の複雑な事情、指輪を作るのに必要なダイヤモンド等への利権の食い込みの弱さなどが理由として考えられる。
以上のような理由から、日本は世界に冠たるブランド消費国でありながら、独自のブランドを確立することができないでいる。このような話はなにも衣料に限ったことではない。特に衣料だけでなくバックや指輪もというような多角化は、バブルのトラウマか日本の企業が非常に苦手にしているところだ。今後の日本を考えたとき、シナジー効果の高い多角化を実現するビジネスモデルは必要不可欠ではないかと思う。
ソフト投資を支援する税制
先日、フジサンケイ ビジネスアイ紙に「映画製作に優遇税制 英国ロケ復権の兆し」という記事が載っていた。イギリス政府が映画製作に対する優遇税制を講じたことで、ウォルト・ディズニーを始めとした人気シリーズの撮影の誘致に成功したという内容だ。
具体的な税制の制度としては、記事には、英国内での映画製作にかかる税金を作品の規模に応じて16~20%削減するとあるだけなので、正確なことはわからないが、投資額の一定割合を法人税から減税する投資減税のような形だと思われる。
このような税制はイギリスだけではなく、以前にはフランスでも行われていた。
しかし、日本ではそのようなアイデアすら出てこないでいる。
日本で行われるソフト産業への支援といえば、もっぱら補助金が主流、とは言っても、重工業への支援に比べたら、非常に微々たるものになっている。その原因は、基本は業界ニーズの弱さであるが、現在、ゲーム、映画、アニメ、マンガ、ファッションといった日本のソフト産業は徐々にその地位を上げつつあり、世界的には重工業に負けずとも劣らない注目を集めつつある。
けれども、それは政策のレベルにはまだまだ反映されない。麻生外務大臣が個人的にマンガが好きということで、マンガ振興に積極的ということはあっても、それ以外の分野について、政策的に大きく後押しをしようという雰囲気はほとんどない。
それは、日本の政策決定システムが高度成長期からずっと引きずっている重工業産業中心から変わっておらず、一方、ゲームや映画のようなソフト産業に従事する人もまた政治家や役人になんら期待をしていないからではないか。
しかし、ソフト産業は今後も日本経済が持続的成長を実現するためには不可欠な産業であるし、経済的な意味だけでなく、ソフト・パワーとして安全保障にも資する産業である。このような産業に注目し、旧来の政策決定システムを越えて、積極的な振興を図っていくのが今後は重要である。
そして、そのためには、役所が固い頭で審査し決定する補助金ではなく、どのような企業にも適用され、民間のインセンティブを引き出し、民間のアイデアを最大限に活かせる税制を講じる必要がある。
ソフト投資を支援する税制を講じる際には、どのような費用を対象とするかという点について、非常に難しいところがある。しかし、そのような難しさを踏まえたうえでも、この税制を講じて、積極的なメッセージを発することが、アジアの中で今後も日本が経済的にだけでなく、文化的にも存在感を示していくために必要不可欠であると考える。