身内の相談事を、他人の青葉に話して良いものか迷う。

 いくら親しくしてもらっているからといって、そこまでさらけ出して良いものなのか、と。だが同時に既に身内同然なのに、今さらそこで他人行儀になるのも、とも思う。

 それに。

(星良が言わずにいるのに、)

 それを私が口にして良いものなのか。

 ぐるぐる、ぐずぐずと決められずに口を開くことができない。

 青葉なら、頼めば誰にも言わずにいてくれるだろう。しかし青葉に口止めをするのも躊躇われる。

 そうしてずるずると言葉を繋げられない。

 青葉は私が口を開くのを待っている。

 待っているから。

 私は益々、迷って口が重くなる。彼の負担になっていることを申し訳なく思う。

 情けない。

「情けないって何でだ?」

 青葉がきょとんとした目で見ている。自分の口をついて出てしまっていたことに気付かなかった。

「自己嫌悪に陥るようなことでもあったか?」

 それは何だ、と問い詰める。

 青葉の目が真剣で、私は漸く話す気になった。

「星良に、会って欲しいひとがいるって言われた」

 一度、堰を切ってしまうと止まらず、私は 青葉に全て話してしまう。

 会って欲しいひとがいる、と言われたにもかかわらず保留にしていること。どう感じれば良いのか判らずにいること、会うべきか迷っていること。

 洗いざらい話して、もう何も出て来なくると喉の渇きに気付き、冷めたコーヒーを飲み込んだ。

 冷めたコーヒーは酸味が強かった。私は酸味の強いコーヒーは少し苦手だ。

 青葉は私が話し終えるのを待っていた。時に、促すように言葉を挟んだが私の言葉に耳を傾けていた。
 

 青葉は頬杖をつき、私を見た。

「確かに忙しくしているみたいだけどな」

 売上が良い、と彼自身も口にした。アルバイトを増やすか、とも。

「若葉が目的? バイトも要らない?」 

 私の言葉を繰り返す。

 ひとつひとつ確かめるように、疑問を投げてくる。私が逃げないよう追い詰める。

 はぁ、と息を吐く。

 それを「幸せが逃げるぞ」と笑う。

「ま、バイトはな。若葉が上手くやれるとは思えねぇし」

それじゃ困るんだけどなぁ、とボヤいている。私も同意見だったので苦笑するに留めた。

 若葉は意外と人見知りだ。歳が離れた青葉や私たちと接する機会が多かったせいか、歳の近い友人が少ない。

 歳が近くて数真くらいだろう。

「まぁ若葉の話はいいんだよ」

 青葉はひらひらと手を振る。

「それより、お前だよ。何、悩んでンだ?」

 やや乱暴な口調。優しく「悩んでいるなら相談に乗るぞ」と言わず照れ隠しの乱雑な調子が、この兄弟はよく似ている。

 私は「うん」と返事をするものの、うまく言葉を繋げられない。


 青葉は「何があった?」と問うてくる。

 私は「別に」と不貞腐れたような調子で答える。それに対し青葉は「ふん」と鼻であしらう。

「何があった?」

 青葉はもう一度、口にする。

 私はもう隠せなくて、小さく息を吐く。手元のカップをもてあそぶ。ちらりと友人の様子を伺う。

 彼は自分のカップに口をつける。ソーサーに戻すとカチャンと陶器が擦れる音がした。

「尚真(ショウマ)」

 青葉に呼ばれ、彼の方を向く。彼は真っ直ぐ私を見ていた。

「青葉、」

 私の声は掠れて、彼に届いたのか判らない。だが彼は「尚真」と、再び私の名を口にした。

 その声で私は、自分が繋ぎ留められているような錯覚をする。

 カップを口に運ぶ。 苦味と、微かな酸味が口に広がる。それで、はたと気付く。

 雇用主でもある、この友人が店に来るのは珍しい。しかも私と彼は同居しているのに。まぁ忙しくて顔を合わせないことも、しばしばだが。

「星良?」

 彼は「あぁ」とも「うん」ともつかない奇妙な呻き声を出した。

 青葉なら、私の弟妹である数真・星良の二人をよく知っている。

 両親亡き後、親戚もない私たちは彼の家族に大変、お世話になった。特に彼らの両親には。色々と手助けしてもらった。だから数真も星良も、青葉たち兄弟に気安くできる。

「そう。連絡しても返事がないと言われた」

 青葉は再びカップを口に運んだ。