青葉は「何があった?」と問うてくる。
私は「別に」と不貞腐れたような調子で答える。それに対し青葉は「ふん」と鼻であしらう。
「何があった?」
青葉はもう一度、口にする。
私はもう隠せなくて、小さく息を吐く。手元のカップをもてあそぶ。ちらりと友人の様子を伺う。
彼は自分のカップに口をつける。ソーサーに戻すとカチャンと陶器が擦れる音がした。
「尚真(ショウマ)」
青葉に呼ばれ、彼の方を向く。彼は真っ直ぐ私を見ていた。
「青葉、」
私の声は掠れて、彼に届いたのか判らない。だが彼は「尚真」と、再び私の名を口にした。
その声で私は、自分が繋ぎ留められているような錯覚をする。
カップを口に運ぶ。 苦味と、微かな酸味が口に広がる。それで、はたと気付く。
雇用主でもある、この友人が店に来るのは珍しい。しかも私と彼は同居しているのに。まぁ忙しくて顔を合わせないことも、しばしばだが。
「星良?」
彼は「あぁ」とも「うん」ともつかない奇妙な呻き声を出した。
青葉なら、私の弟妹である数真・星良の二人をよく知っている。
両親亡き後、親戚もない私たちは彼の家族に大変、お世話になった。特に彼らの両親には。色々と手助けしてもらった。だから数真も星良も、青葉たち兄弟に気安くできる。
「そう。連絡しても返事がないと言われた」
青葉は再びカップを口に運んだ。