【天声人語】2006年06月13日(火曜日)付

 76年の歴史をもつサッカーのワールドカップは、多くの「伝説」や「奇跡」に彩られている。今回の開催国ドイツが成し遂げたのが「ベルンの奇跡」だ。54年のスイス大会で、西ドイツは優勝候補だったハンガリーを破って初優勝し、世界を驚かせた。


【感想】
キーワード:ワールドカップ
 世界の祭典。サッカーのお祭り。視聴率はオリンピックよりも高いという。期間中は世界中がワールドカップ一色になるのだろう。
 昨日はラジオで日本vsオーストラリア戦を見ていた。得点シーンを見られなかったのが残念だが、それでも、その興奮はスピーカ越しに伝わってきた。
 正直、結果は散々なものだったが、まだ終わりではない。期待は薄くても、ワールドカップには奇跡がつきものだから諦めはしない。ただ、昨日の試合で熱が冷めてしまった部分もあるだろう。
 WBCのような大逆転劇など期待はしないが、試合で一つくらい湧かせてほしいものだ。

【天声人語】2006年06月12日

 事故の記憶を後世に伝える試みが始まっている。日本航空が羽田空港近くに今年4月つくった「安全啓発センター」には、85年に墜落したジャンボ機の圧力隔壁が置かれている。

【感想】
キーワード:経験
 人は不完全な生き物で、いくら考えたところで起こりうるすべての事象を列挙することはできない。だからこそ、自らの過去の経験のみでなく、歴史を学び、先達の経験を活かす。歴史とは、過去を知るだけでなく、未来を切り開くために学ぶものであると考える。
 しかし、歴史は繰り返すという。人の不完全さ、愚かさを象徴する言葉のように感じる。それでも、学ぶことはやめてはならないと思う。それでいくらかの前進があるのなら、続けていかなければならない。
 負の遺産、負の歴史というものは抹消されてしまわれがちであるが、それを公開し、白日の下にさらすことは有用であると思う。与えられるインパクトが大きいほど人は忘れないものだ。
 いかに過去を学び、未来に活かすか。これが安全への取り組みには非常に重要であるのではないか。

【天声人語】2006年06月09日

 米東部コネティカット州のある町で、小学生の姉と弟が、学校に向かう途中で姿を消す。足取りは、なかなかつかめない——。米児童文学の名作『クローディアの秘密』(E・L・カニグズバーグ、岩波少年文庫)は、その2人の物語だ。


【感想】
キーワード:冒険
 小さい頃は近所の裏山に秘密基地を作ったり、自転車で普段より遠くに出かけたりした。小さな冒険をしたものだ。
 しかし、今ではそんな些細な冒険も危険なものになりうる。時代は変わったということか。
 小学生の頃、「クローディアの秘密」を読んだことがある。十五少年漂流記のような本格的な冒険ではなく、家出という小さな冒険に読んでいて心躍らせたものだ。
 今の子供は、本くらいでしか冒険ができなくなってしまうのか。

【天声人語】2006年06月08日

 扉が開く。足を踏み入れる。もし、そこに床がなかったとしたら——。エレベーターに乗る時にふと浮かぶ、現実には起こりえないはずの妄想だ。


【感想】
キーワード:機械
 床や階段が動き、箱が上下に動く。ドアがひとりでに開く。鉄の箱が道を走り、空を鋼鉄の鳥が飛ぶ。昔の人が今の世界を見たら、さぞ驚くだろう。今では当たり前のようになったこの光景を、みな無害なものと思っている。
 それは、技術者の日々のたゆまぬ努力によって生み出された。徹底した安全管理をしてきた。小さい頃はエレベータが落ちやしないかと思い、乗るのが怖かった。
 それでも事故は起こる。交通事故とは比べ物にならないくらい少ないが、エレベータが落下したり、今回のような痛ましい事故も起こるだろう。
 機械の不具合や部品の故障というのは必ず起こる。それを防ぐのは人間なのだが、その人間が説明を拒んでいる。安全を守るほかに、安心をさせることも仕事ではないのか。
 どんなものも凶器になる。それを防ぐのは人間であることを忘れてはならない。

【天声人語】2006年06月07日

 この時季に、しきりに思い浮かぶ中村草田男の一句がある。〈万緑の中や吾子の歯生え初むる〉。木々の緑と、幼子の白い小さな歯との取り合わせが鮮やかだ。そして、人であれ、木々であれ、命を次の世代に引き継いでゆくことの貴さや、生命への深い畏(おそ)れが感じられる。


【感想】
キーワード:子
 動物は自らを犠牲にしてわが子を守る。生まれたときから持っている行動原理だ。人も類に漏れず、もともとはそういう生き物だったし、今も大半はそうしている。
 親が子供を殺す。または、子が親を殺す。そんなおかしなことが起こるようになったのはいつからなのか。大昔からあったのだろうか。それでも今に比べれば少ないだろう。連日のようにTVで報道され、少し聞いただけではいったいどの事件なのかわからなくなるほどに、そんな凄惨な事件が起こっている。
 人は病んでいるのか。病気に対する治療、薬などはどんどん発達している。では、心の病気に対する治療は進んでいるのか。日本ではあまり進んでいるという感じはしない。少なくとも、私は精神科に行くのに抵抗がある。風邪をひいたときのように、気軽に心を癒すことのできる場所へ行けるような世の中を作ることが、これからの日本では必要なのではないだろうか。

【天声人語】2006年06月06日

 捜査機関への出頭を覚悟した人の姿を、何度か見たことがある。口達者な人も、逮捕される時が近づくとだまりがちになった。昨日の、村上ファンドの村上世彰代表の場合は違っていた。


【感想】
キーワード:金
 金の発明は画期的だった。物々交換をしていた時代と比べ、考えられないくらいの取引が非常に簡単になった。市場が活性化され、物が流れた。
 金は人が生きてゆく上で必要なものの1つである。しかし、その便利さゆえに万能のツールのように思われる節がある。生活するために金を稼ぐのではなく、金を稼ぐためにあらゆる手を尽くす。金に執着する人もいる。手段が目的になってしまっている。
 株取引が盛んに行われるようになった。デイトレーダーといった人まで生まれた。そういう株を運用する人にとって、株はどう映るのだろう。株式を発行している会社はどう映るのだろう。ゲーム感覚で、金のなる木のように見ているように思える。会社は人が動かしているのに、そこに目がいっていない。
 株式とは本来そのようなものだったか。株式がらみの一連の事件を見ているとそんなことを思ってしまう。

【天声人語】2006年06月05日

 道の行く手で歓声があがる。「がんばれっ」「しっかり」。校庭の方から声援が聞こえる。昨日、通り掛かった東京都心の小学校で運動会が開かれていた。


【感想】
キーワード:安全
 昔と比べ、安全でなくなったのは、人の精神が病んだからであろうか。犯人はすぐそばに住んでいる人だった。顔見知りの犯行。そんなニュースをよく耳にするようになった気がする。
 だが、それだけだろうか。人と関わらなくなった。これも関係しているように思える。地域のコミュニティというものが希薄に、むしろ、なくなった。核家族化が進んだのもあるだろうが、人と話すのがわずらわしいという人も増えたのか。コミュニケーション能力に問題のある人が増えたのか。
 今の人たちが昔のような方法で安全を守ることは果たしてできるのだろうか。文明の利器、時代の進化に合わせた防犯対策がいいのだろうか。犯罪を防ぐことよりも、犯罪に染まりそうな弱い心を持つ人を救う手段は何か無いのだろうか。こちらに注目すべきなのではないだろうか。

【天声人語】2006年06月02日

 人々が、がれきを手で取り除いてゆく。やがて横たわった母親がみつかる。その母が右腕でつくったすきまの中に、生まれて間もない男の赤ちゃんがいた。インドネシア・ジャワ島を襲った地震で、母を失いながらも、がれきの下で生きのびた小さな命があった。


【感想】
キーワード:生命力
 動物には生存本能というものがある。それは人にも当てはまる。しかし、人間は文明化が進むにつれ、理性を発達させ、本能を退化させてきた。
 昨年の自殺者は3万人を超えるらしい。何が人を死に急がせるのだろうか。動物の世界から見ると、生きていたくないからという理由で自らの命を絶つのは極めて異常だろう。人はすでに動物という概念から外れた生き物になっているのか。
 それでも、力強く生きようという人もいる。同じ“人”というくくりの中で、何が生命力の強さを変えているのだろうか。病んでいるのは人の心か、人間社会か。

【天声人語】2006年06月01日

 坂口安吾が「堕落論」を発表したのは終戦の翌年だった。「若者達は花と散ったが、同じ彼等が生き残って闇屋となる」。読んで共感した若き今村昌平さんは、自分も闇市に入り浸って戯曲を書いていた(自著『映画は狂気の旅である』日本経済新聞社)。


【感想】
キーワード:堕落
 理想は多くの人が持つものだが、それを実現できる人間は極わずかである。現実を知り、夢破れ、それでも現実の中で折り合いをつけてゆく。そんな人が大半なのだろう。だが、理想を持ち続け、しかし、現実の壁に阻まれ、それでも受け入れられない。そんな人も少なからずいる。
 堕落。欲望にまみれ、堕ちる。何かに躓いて起き上がれなくなる。そんな人。救うのはその人自信か。はたまた、友人知人か。まったくの他人か。
 堕ちても起き上がる人は、確かにいる。トランポリンは沈めば沈むほど、高く飛べるものだ。バネになる。堕落する人をゼロにするのはただの理想論。堕ちた人を元に戻すのは可能。
 要は人が人を救うのだ。

【天声人語】2006年05月31日

 朝日新聞阪神支局襲撃事件から19年になる。新築した支局にできた資料室を訪れた女性が「見学者カード」に記した。「『ものが自由に言える』のは、平和でなければ保証されません。ごく普通の私たちに何が出来るのか問われていると思います」


【感想】
キーワード:平和
 日本は平和か?確かに戦争やテロ、飢餓などない。みな、日々を生きてゆくことを当然のように思っている。
 だが、犯罪は増え、外国人犯罪者も増え、にもかかわらず、警察の検挙率は年々落ちている。子供が安心して学校に通うこともできない。果たして、日本は平和なのか。
 人と人との繋がりが薄れ、一方で距離の制約を取り払った電話やメール、インターネットが普及してゆく世界。薄く広く拡散してゆくコミュニティ。
 昔ながらの犯罪者対策やコミュニティはもう望めない。新しいシステムの確立が必要だ。本当に日本を平和だというためには。