自宅のCDプレーヤーがどうもいかれてしまったらしい…ということをこぼしたのは6月終わりのことでしたなあ。その時には、代替機を入手するのかどうか含めてじっくり考えようかな、なにせ世の中では「もはやCDでもあるまい…」てなことにもなっているようでしと、少々の余裕を示しておりましたが、ひとえに「しばらくレコードを聴いてしのごう」という心づもりがあったからなのですな。
ところがどっこい、ダメになるときはとことんダメになってしまうのか、肝心のレコードプレーヤーまで「こりゃ、いけん」と言う状態になっていたことに、気付いたのはほんの数日後ではなかったかと。こちらはこちらで、レコードプレーヤーの代替機までとなるとどうしたものであるか…と悩み始め、気が付けばあっという間にふた月あまりが経ってしまったという。つまり、この夏の間は(オーディオ機器を通じて聴く)音楽は一切無しで過ごしてきたのでありますよ。
ご存知のようにクラシック音楽の世界は基本的に夏場はオフになるわけで、生で聴く演奏会もいわば「夏枯れ」になりますし、一方であれこれの音楽祭やら銘打ったイベントは開催されることはあるも、それはそれとしては暑さ厳しき折にはついつい出はぐれてしまったり、要するに音楽貧乏していたと、そういうことなのでありますよ。
思い返せば先にCDプレーヤーがいかれたとこぼしたのは、東京オペラシティのオルガンコンサートを聴いてきた後だったわけですが、そんなことを思い出したように書いているのも、また東京オペラシティで生音のオルガンを聴いてきたからでもありまして。やっぱり生音(取り分けパイプオルガンは!)に優るものなし、ですけれど、余計に日頃の音楽貧乏が身に沁みたりも…。
ところで、今回の東京オペラシティ、アートギャラリーで髙田賢三展が開催されていることで普段とは異なるわさわさ具合でしたなあ。ともあれ、その人波を掻い潜ってたどり着いたコンサートホールで聴いた「ヴィジュアル・オルガンコンサート」のテーマは「ファンタジアとカプリッチョ~幻想と奇想~」というものでありましたよ。プログラムに「即興的な要素を持ち、厳格的な書法に縛られない楽曲型式」とありますように、取り上げられた5曲それぞれ、作曲上、自由な実験が施されたのではと思えたりもしたものです。
と、テーマとしてはそういうことなんですが、一方で並んだ5曲を見れば、1曲目を除いて他は全てオランダの作曲家による作品だったのですな。音楽史の流れからすれば、バロック音楽、後期ロマン派、二十世紀音楽、リアルタイム現代と、オランダ音楽史を垣間見るような陣容だったわけですが、如何せん、バロック期のスウェーリンクしか知らない。だいたい、オランダの作曲家って他に誰がいたっけ?とも。
しばらく前に読んだ『反音楽史 さらば、ベートーヴェン』でもって、確かに西洋音楽史は独墺中心史観に絡め捕られておるなあということを思い出させてもらいましたけれど、独墺の音楽をメインストリームとして、フランス音楽とかイタリア・オペラとか、はたまた国民楽派などといって、東欧や北欧の国々の音楽を、周辺に位置づけてしまっているのですな。さりながら、そんな中にもオランダ音楽というのは出てこない。Wikipediaには「オランダの作曲家」というカテゴリーもありますけれど、見渡してもやっぱり知っているのはスウェーリンクくらい(最近では吹奏楽曲で知られるヨハン・デ・メイなどもいるにはいますが)。
こうした状況を小国だからといって片付けては事を間違えるのでしょうなあ。美術の世界でみるならば、フェルメールやレンブラントといった画家たちがおり、それが古いとしても、エッシャーやモンドリアンなどもいますしね。ただ、大国とはいえども音楽や美術の点であまり目立たぬ存在であるのが英国でしょうか。そんなところから考えを巡らせてみますと、なんとはなしですが、歴史の流れの中で商業の発展とともに消費社会が早い段階から拡大したことと関係がありそうな。英国もオランダも、です。つまり、音楽や美術の享受が大衆化が早く進んで、生産する側を輩出する以上に出来上がった音楽や美術を消費する仕組みが出来て行ったことも関わりがあろうかと思ったりしたわけです。単に思い付いただけですけどね。
ま、そうは言っても今回のオルガンコンサートの最後に『オランダ民謡によるカプリッチョ』という曲が演奏されたのを見ても、当然ながらオランダにはオランダの、古来伝わる民謡もあるのですよね。といって、スコットランドやアイルランドの民謡やドイツ民謡ほどに知られる曲はないようですし。せいぜい『サラスポンダ』くらいかもしれませんが、これも「オランダ民謡である確証は無い」てな話もあるようでして…。
とまあ、演奏会でオランダの作曲家作品が並んでいたところから、あれこれと思い巡らしをしましたですが、そもそもその国の音楽が世界中に知れ渡っていないからどうだ…ということも無いわけですけれどね。昔も今も、オランダにはオランダなりに流行りの歌などがたくさんあることでしょう。どんな楽曲が?といって(検索すればたくさん出てくるであろうにしても)てっとり早いのはオランダ映画を見て、流れている音楽に耳を傾けることかも。あまり覚えておりませんですが、以前見た『人生はマラソンだ!』などでも、オランダ・ポップスが流れていたのであろうと思ったりしたものでありますよ。