実は昨年12月のうちに見に行っていた展覧会、会期は年明けまであるからゆっくり書こうと思っていましたら、
年末が近づくにつれて騒がしくなったコロナ対応の関係で、会期終了が前倒しされていたとは…。
結果、すでに終わってしまった展覧会の話になってしまうわけですが、まあ、致し方無いとして、
埼玉県立近代美術館で開催されていた「上田薫展」のことを、遅まきながら少々。
フライヤーに大写しの卵の絵。これ、写真でなくて絵なのですよね。
いわゆる「スーパーリアリズム」の作品と言ってよろしいのではなかろうかと。
卵のシリーズは画家の代表作のひとつでしょうけれど、
初めて見たのはずいぶん前になりますが、新宿の損保ジャパン美術館ではなかったかと。
ああ、新装オープンなった損保ジャパン美術館も行ってませんなあ…と、それはともかく、
驚くほどにリアルな描写に、単に描かれた卵を見るといったところとは異なる感興が湧いてきたのですね。
その上田薫作品がずらりと並ぶとあって出かけたわけですが、
見た目のスーパーリアリズムとは異なった受け止め方として、
見ているうちに「これはシュルレアリスムでもあらんか」と思ったものなのでありまして。
作家としてはそれ以前、アンフォルメルの影響を受けて創作に勤しんでいたものの、
抽象表現からは「確固とした自分の表現」を見出せず、内面を見つめる表現に見切りをつけたとか。
そこで「視覚でとらえたものをそのまま描こう」という方向に舵を切ると、本人曰く「スカッとした」そうな。
ただひたすらに「そのまま」を描き出しながら、
その作品が反って見る側にシュールさを抱かせるとは不思議なものですなあ。
何しろ展覧会場を出たところで上映されていた作家へのインタビュービデオでは、
それこそ子供のころから描くことが好きで好きで、好きが高じて美術学校に行ったものの、
流行りの表現にはどうも馴染めず、たどり着いたのはありのままを描き切ることであったと。
そこには妙に思想的な含みとかを感じさせるものは何もなく、
あっけあらかんとそのままを写し取ることが難しくも楽しいとニコニコの作家の姿が見られたものですから、
先に会場で作品を見て回りながら深読みしすぎたのかなとも思ってしまったものでありましたよ。
取り上げる題材が卵のほかにはアイスクリームやゼリー、サラダといったものであることも含め、
なんとはなし比較的若い方の女性作家であるかと、勝手に想像しておりましたけれど、
しかして実体は90歳を超えた好々爺といった雰囲気であったとは…。
それはともかく、写真と見紛うばかりに描き込まれた絵画作品を目の前で見てしまうことは
あたかもマジックの種明かしをされてしまったような気にもなるところがありますが、
その一方で(作者の思いはともかくも?)、背景の無い中空にぽわんと浮かんだ卵や、
アイスクリームをすくったスプーンの大写しなどからシュルレアリスムを想起するあたりの妙味は
確かにありましたですなあ。
上のフライヤーでは作品の下半分が隠されていて、そこには大粒の黄身が描かれているのですけど、
それこそ実物を見てのお楽しみということになりましょうか。
画像でみても「すごいな」とは思いますが、実物に触れたときの感興はまたひとしおなのでありますよ。