「インポッシブル・アーキテクチャー」という展覧会。
(実際の表記は「インポッシブル」の部分に取り消し線が引かれてますが)
そのタイトルが気になって、埼玉県立近代美術館
へと出かけてきたのでありました。
直訳するなら「不可能建築」てなことでしょうけれど、大きく分けると二種類になりまして、
端から建てられることを想定せずに自由に(奇抜に)考えられた建物の案やデザインがひとつ、
そして本来は完成をみるべく考えられていたものが何らかの都合によって計画が頓挫、
その結果として建てることが不可能となってしまったという類いがもうひとつということに。
後者の代表的な例としては、本展会場にも少々の展示がありましたけれど、
ザハ・ハディド
による新国立競技場が挙げられましょうね。
コンペを勝ち抜いて、本来は千駄ヶ谷に出現するはずだった建物ですが、
すったもんだの経緯の挙句に今建築中なのは隈研吾が新たに設計したものなわけですから。
ザハ・ハディドによる建物にはいささか興味がある方なので
この点にはこれ以上言及するのは止めておくとして、本展の展示ですけれど、
まずもって展示室へ入る(入場券を見せる)前の壁面に映し出されていたビデオ作品、
これにはつい見入ってしまいましたなあ。
映像作家ピエール=ジャン・ジルーによる「見えない都市#パート1#メタボリズム」という作品は
過密化する大都市の住宅事情を一挙に解決することになるのか、
東京湾の中に浮島のような構造物を点々と配置した東京の姿をドローンで空撮したように
描いて見せたものなのでありました。
で、その洋上の構造物といいますのが
DNAの二重螺旋を組み合わせたような形でもって空高く立ち上っていくのですけれど、
その後展示会場内で見ることになる黒川紀章の「東京計画1961-Helix計画」で構想された
いわばメタボリックな構造物なのですなあ(というわけで、メタボリズムというビデオ・タイトル)。
全体の景観が実際の東京の映像にかぶせるようにできていますので、
黒川作品が今の東京に立ち現われたならこのような都市の姿を呈していたかもと。
黒川の師匠にあたる丹下健三が設計した静岡新聞・静岡放送のビルやフジテレビ社屋といった
現実に存在する建物ともども見られるところが、感覚をリアリティーに引き寄せる気もします。
こうした未来的な都市景観の映像にちりゆく桜の花びらがかぶさってくるあたり、
リリカルさも感じたりするところですが、およそ生き物がいるという気配がないことにも「う~む」と。
どうしてもSF的な世界にはある種のディストピアをイメージさせるところがありますなあ。
構造物自体が廃墟化しているわけではないものの、ただ建物だけが厳然と屹立している姿は
何とも言い難い空虚感が付きまとうものですね。
翻って(小さな画像ではありますが)フライヤーに配された異形の建築物は
まさにこれだけでディストピアを想起させるものとなっているような。
かつてヘルシンキにグッゲンハイム美術館の分館を建てる構想があってコンペが行われ、
そのときのマーク・フォスター・ゲージの応募作がこの異形の建築物であったそうな。
建物を構成するデザインがオンライン上のフリー素材で組み合わせで出来上がっているとは
極めて現代的といえるところながら、全体として姿を現すと妙な「生き物」感がある。
エイリアン的なるものを思い浮かべてしまっているのかもしれませんですね。
周囲には逆に「生き物」感が皆無なだけに、
生き物でないはずなのに「生き物」感を醸す巨大な建造物がそこにあるのは
気持ちをざわつかせるいかがわしさ、居心地の悪さを感じたりもするのですなあ。
展示会場ではこの外形の詳細に迫ったビデオ映像も見られのでして、
それを見ると「ほお~」と思ってしまうところもないではないですが…。
「生き物」感とは異なりますが、会場に入ってすぐに展示のある
ウラジーミル・タトリンの「第3インターナショナル記念塔」もまた異形ですな。
銅像やら何やら、とにかく大きな建造物をプロパガンダにしたソ連の時代らしく、
エッフェル塔をもしのぐ高さで建てようとしたものであるとか。
会場に置かれた1/500スケールの模型でさえ見上げてしまうような代物で、
あまりに巨大なものの存在に感じる違和感を大いに感じさせるところでありました。
かつてのソビエトの体制には眉をひそめざるを得ない面があるわけですが、
そうしたところと相通ずるところがあるやにも思われたり。
余談ですが、個人的には東京スカイツリーも好きではないのですよね。
こちらは思想色といよりも景観に与える「圧」が強すぎる気がしておるからですが。
と、ここでは展示のうちのひとつふたつにしか触れていませんですが、
結果的に建たなかった建築物、最初から建てようというつもりのない建築物、
それぞれに眺めながら思うところの多かったこの展覧会。刺激的でありましたなあ。