ドイツのライプツィヒ造形美術館で、かつてナチスにより退廃芸術と目された作品のある展示室を巡りましたですが、

オスカー・ココシュカの作品もありました。ナチが見せしめ的に行った「退廃芸術展」にココシュカ作品も取り上げられますし。

 

ウィーンの美術工芸学校で学ぶも、当時の風潮として新しい芸術を創造しようという芸術家集団ができる中で、

ウィーン分離派や「青騎士」、「ブリュッケ」などには加わらず、独立独歩で行ったのがココシュカのようですけれど、

まあ、ナチスにとっては「ダメなものはダメ(理屈無し!)」でもあったのでしょうなあ。

 

 

ただ、ここに展示されていましたのは「Genfer See」(スイスのジュネーブ湖、一般にレマン湖)を描いた風景画、

これを見る限りでは「何がいけないの?」と思うところながら、気に入らなったのはむしろココシュカの行状であったのかも。

ある女性と恋に落ちたココシュカで、いっときは幸福感を得ていたようではありますが、

その時でさえ女性の心は他の男性との間で揺れていたようで、ほどなくそちらの男性と結婚してしまうのですな。

 

これに心を痛めたココシュカはその女性の「等身大の人形をつくり、

馬車で外出する際にも人形を連れていったという逸話が残っている」(Wikipedia)というのですから、

どうにも退廃的と言いましょうか…。

 

ところで、この女性というのが(ご存知の方も多いことと思いますが)アルマですね。

画家のクリムト、作曲家のツェムリンスキーとの恋仲が噂されるも、グスタフ・マーラーの猛烈アタックにより結婚、

マーラー没後にはココシュカと恋愛関係となり、その一方でココシュカより前に知り合っていた建築家のグロピウスと

やおら結婚してしまい、ココシュカを苦悩の淵に沈めてしまう、とまあ、そういう女性でありました。

 

奇しくもここに名前の出てくる三人、ココシュカはライプツィヒ造形美術館の展示室で作品と向き合い、

マーラーのライプツィヒ旧居には出向いていき、グロピウスの関わったバウハウスにも接したわけで

何やら今回の旅とは関わり深いような気がしたものでありますよ。

 

アルマに関してはWikipediaにも「華麗な男性遍歴で知られる」とあるわけですが、

たまたまにもせよ?先に記した男性たちは皆そろって芸術家であるとなりますと、

このアルマという人、ファム・ファタルであると思うと同時に彼らにとってのミューズでもあったのでしょう。

 

関係に幸福感があるときはいいですよねえ。

例えばマーラーの交響曲第5番のアダージェット、映画「ベニスに死す」に使われたことでも有名な、

実に耽美な旋律ですけれど、これがアルマを想って書かれたという話でもあるようでして。

 

ココシュカもまたアルマの存在が刺激になって「風の花嫁」を描いたりしていますけれど、

彼女のファム・ファタル性に気付きつつも惹かれてしまい…という複雑さがあるような気はしますですね。

東京国立近代美術館のコレクション展で見られる「アルマ・マーラーの肖像」などでも

やはり複雑さは隠しようがないといったところかと。

 

アルマとの別離の後、その等身大人形を作って連れまわし…とは先に記したとおりですが、

それだけでも「どうよ…」である上に、人形と画家自身を描いた作品まで残されているとは、

激しい思い込みはヒトにこんなことまでもさせるのであるなと思うところなのでありますよ。

 

戦争中はナチスから逃れ、その後もヨーロッパ各地を渡り歩いたようであるも、

93歳まで長生きをした(没年は1980年!)ということは、穏やかな晩年を過ごせたのでもありましょか。

 

後年の作品はあまり目にすることはできませんが、

最後にはスイスのモントルーで没したということですので、何かしらの風景画でもあれば見てみたいところです。

上に貼った1923年の風景画とどんなふうに変わったのかが気になるものですから。