少々タンゴづいておりますな。まあ、時の勢いというものがありますし。
アルゼンチン・タンゴ に続いて、今度はコンチネンタル・タンゴを聴いてみたような次第。
今まで全く違いを意識したことがなかったものですから。
そこでまたしても図書館に頼ってCDを借り出してきたのでありますよ。
普段はいったい誰が借りるのか?と思ったりしてましたが、手に取るときが来たりするのですなあ。
「コンチネンタル・タンゴ・スペシャル・ベスト/アルフレッド・ハウゼ楽団」という一枚です。
ライナーノーツではコンチネンタル・タンゴのことをこのように説明しています。
1920年代に入ってフランシス・カナロを始めとするアルゼンチン・タンゴの音楽家達がヨーロッパに渡り、タンゴを流行させました。そしてゲッティに代表される多くのタンゴ音楽家が現われヨーロッパ独自の優美なタンゴ・スタイルで’30年代にはタンゴの黄金時代を築き上げました。このヨーロッパ産のタンゴをアルゼンチン・タンゴと区別してコンチネンタル・タンゴと読んでいます。
ここ出てくるフランシス・カナロは、先にアルゼンチン・タンゴのCDを聴いたおり、
記憶にとどめておくことにした一曲「パリのカナロ」の、タイトルにもなったカナロですね。
パリでの公演が大成功だったことを曲にしたというのですから、人気のほどが偲ばれます。
一方、ゲッティというタンゴ音楽家とはどういう人かいね?と検索しても、ヒットしない。
あれこれ探してみたところ、これはもしかして「バルナバス・フォン・ゲッツィ」なのかなと。
ハンガリー出身のバンドマスター(しかしてその実態はブダペストのオケのコンマスだったとか)で
自らの楽団を率い、今ではコンチネンタル・タンゴのスタンダードの位置にある「碧空」を
ヒットさせたということで、草分け的な存在なのでありましょう。
ところで、このCDではその「碧空」がいちばん初めに収録されており、
続いてコンチネンタル・タンゴ随一の名曲とも思しき(というのも、自分が知っているから)
「ジェラシー」を聴くことができるのですな。
ちなみに「碧空」はドイツ人が作曲し、「ジェラシー」はデンマーク人が作曲した作品。
まさにコンチネンタルたる由縁でもあるわけですが、例の「ダッタッタッタ」というリズムは
「ああ、タンゴだな」と思うものの、曲の印象はアルゼンチン・タンゴとは全く異なりますね。
アルゼンチン・タンゴでは主役級のバンドネオン が例のリズムを刻むためにあるような立場で、
楽器編成も多様であると同時に、聴かせどころはもっぱらストリングスにあるというのが
コンチネンタル・タンゴであるようです。
ですが、いわゆるコンチネンタル・タンゴとしての作品もある一方で、
その楽団が演奏するのはそうしたオリジナル曲ばかりではなく、
既存曲のタンゴ風(それもアルゼンチンっぽくはない)アレンジものが多いような。
今回のCDも「コンチネンタル・タンゴ・スペシャル・ベスト」というタイトルでありつつも、
映画音楽 やクラシック音楽からのアレンジが結構入っているのですよね。
例えばヴェルディの歌劇「椿姫」 の密やかなメロディーが
件のタンゴのリズムに乗ってテンポよく元気よく奏でられる「ヴィオレッタに捧げし歌」とか、
ビゼーの歌劇「真珠採り」 の名アリア「耳に残るは君の歌声」が元の「真珠採りのタンゴ」とか。
また、アルゼンチン・タンゴの名曲までもコンチネンタル風アレンジで
華麗に演奏してしまうにおよんで、どこまでをコンチネンタル・タンゴと読んでいいのか。
その後の日本でムード音楽とかイージーリスニングとか呼ばれるようになった音楽の
はしりがここにあるように思えるところでありますよ。
かつてバンドネオンという楽器がドイツから大西洋を越えてアルゼンチンにたどりつき、
タンゴと出会って楽器の独自性を如何なく発揮することになったわけですけれど、
タンゴそのものは大西洋を逆に渡ってヨーロッパにたどり着いた。
「碧空」の作曲者や今回聴いたCDの演奏者であるアルフレッド・ハウゼもドイツ人で、
ドイツでも相当に人気を呼んだコンチネンタル・タンゴになったのですなあ。
そして、その演奏のゴージャスな雰囲気はタンゴという枠に留まらず、
さまざま曲を独自のアレンジで聴かせる楽団をたくさん生みだす元になっていったのではと
思うのでありました。