※ご注意※

 

本記事は、映画および舞台作品『十二人の怒れる男』のネタバレを含みます。

 

 

 

 

ここまで。

名作『十二人の怒れる男』の解説をお話ししてきました。

 

こちらの作品は、僕の演技ワークショップ“EQ-LAB”で現在実施している「春の特別クラス『十二人の怒れる男女、あつまれ!!」で稽古中の、演劇史・映画史に名を残す名作です。

 

 

本日は、作品解説・第4弾!!

いよいよ、最大の謎が明かされ、本当の『十二人〜』が姿を現します!!

 

 

 

これまでの記事は、こちら👇

 

 

 

 

 

 

 

 
ここまでのお話で。
 
タイトル『十二人の怒れる男』が示す通り。
この作品は、「“男” だけの陪審員制度」から始まり、人種、貧困、移民等のマイノリティーといった「差別・偏見への問題提起」が描かれていることが分かりました。
 
加えて。
思い込みや周囲の世界に惑わされ、自分自身の「心の声」に従うことができなくなっている現代人の在り方が描かれていることもお伝えしました。
 
 
その結果。
彼ら……いえ、僕らは常に、自分の心に従えないことへの「怒り」を抱えて生きている。
 
 
この作品の、「法廷ドラマ」「社会派サスペンス」という表情の裏側には、こうした「現代人の心」の問題というテーマが潜んでいることが見えてきましたね。
 
 
『十二人の怒れる男』というタイトルは、まさに、こうしたテーマを現しています。
 
 
 
……いえ。
タイトルのうち、「怒り」「男」の意味は紐解けましたが。
 
 
もう一つ、残っているワードがあります。
 
 
「十二人」です。
 
 

  ヒントは、この “聖なる書”

 

『十二人の怒れる男』はアメリカの作家によって書かれたものですが。

 

アメリカやイギリス等で生まれた作品の場合、読み解く上で必ず可能性を探った方が良い “参考資料” があります。

 

 

それが、キリスト教であり、聖書です。

 

 

 

 

キリスト教圏の国で書かれた作品の多く(というか、ほとんど)が、キリスト教の考え方をベースに書かれているので。

そうしたことに馴染みが浅い日本人が、何も知識がないままに作品に取り組むと、大切なメッセージを見逃してしまう可能性が高いんですね。

 

欧米の映画や舞台作品を読み解く際、ぜひ一度は「キリスト教」という角度からの検証をすることをお勧めします。

 

 

 

さて、ここで。

聖書に登場する、あるエピソードをご紹介したいと思います。

 

 

有名なお話なので、ご存知の方も多いかもしれません。

 

それは「マタイによる福音書 14章24節〜32節」に書かれています。

 

 

 

……弟子たちは、イエスが湖の上を歩いてこちらに来るのを見ました。

それを見て、弟子たちは恐怖のあまり「幽霊だ!」と叫び声をあげました。

 

そんな彼らに対し、イエスは「恐れることはない」と言い、弟子の一人であるペテロに「来なさい」と言いました。

 

 

そこで、ペテロは舟から出て、波打つ​湖面​に​足​を​踏み出し​ます。

すると、なんと​水​の​上​に​立つ​こと​が​でき​た​の​です。

 

ところが、彼は、吹き荒ぶ風​あらし​を​見​て怖く​なりまし​た

波​が​舟​に​当たっ​て​しぶき​を​上げる​様子​に​目​を​向け​て​しまい、パニック​に​陥ってしまうのです。

 

 

すると、身体がどんどん湖に沈み始めます

 

 

「主よ、お助けください!」

そう叫ぶペテロに、イエスは手を差し伸べ。

 

彼を引き上げながら、イエスはこう言われました。

「信仰の薄い者よ。なぜ疑ったのか」と……。

 

 

 

 

 

 

信仰とは。

周囲で起きていることに惑わされず、自分の心を信じること。

 

少しでも、周囲のことに流されたりして、自分自身の信念に疑いを抱けば。

信仰心は、いとも簡単に湖の中へと沈んでいってしまう。

 

 

 

  信仰の薄い者よ…

 

僕がここまで、4回に渡りお伝えしてきた『十二人の怒れる男』の解説。

 

 

アメリカの黒人差別に端を発した公民権運動。

この時代を背景に、偏見や差別の問題を明らかに意識して書かれた、この物語。

『十二人の怒れる

 

 

彼らは、自らの心、信念に従うよりも、偏見や周囲の意見、他人の目を気にして、それに流され。

自分自身の信仰心を、失いかけている。

そうした、自分の心に従えない不甲斐なさ、苦しさによって、自らの心は地獄の業火のような怒りの火に晒され。

苦しさのあまり、その怒りの牙を、他人に向けることで正当化しようとする。

『十二人の怒れる男』

 

 

そして、この物語は、単なる「架空のキャラクター」だけのオハナシではなく。

「あなた」の物語。

 

 

 

あなたは。

偏見や周囲の意見、他人の目に流されて。

自らの心の声を、無視していないか??

 

信仰心を、失っていないか??

 

 

 

あなたが学校の友達や会社の部下をいじめてしまう時。

それは、あなた自身の中に巣食う偏見や、他人からの同調圧力によってではないか??

 

一瞬でも、あなたの中に、「これは間違っているんじゃないか?」という “心の声” がよぎらなかったか??

 

 

白人の少年が、黒人の少年に石を投げる時。

それは、大人から教えられ、植え付けられた差別意識からではないか??

 

一瞬でも、その黒人の少年を「かわいそう」と思う、あなた自身の本当の声が聞こえなかったか??

 

 

 

▲映画「フルートベール駅で」(2013年)

 

 

 

▲映画「グローリー」(1989年)

 

 

 

▲映画「シンドラーのリスト」(1993年)

 

 

 

この、一瞬の “心の声”。

それが、あなた自身の本当の声。

 

周囲からの風を恐れず、その “心の声” に従うことが、信仰心

 

 

 

あなたは。

この裁判で、被告の少年に対し、「なんだかわからないが、何かが違う気がする」という “心の声” を聞かなかったか??

 

あなたは、自分自身のフィーリングが「もう少しだけ議論した方が良さそうだ」と語りかけて来る声を、聞かなかったか??

 

 

 

 

もう、お分かりでしょう。

 

 

 

 

『十二人の怒れる男』とは、

我々の「信仰心」の物語

 

 

偏見や差別意識、他人の意見や同調圧力などではなく、どこまで自分自身の “心の声” に従えるか。

 

 

そうです。

 

タイトルのキーワード、最後に残された「十二人」とは、

イエスの12使徒を示しており。

 

ここに登場する人物たちは皆、その「信仰心」を試されているのです。

 

 

 

▲レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」の、イエスと12使徒。

 

 

 

  彼らが本当に裁こうとしている相手は、誰か?

 

先ほど登場した、12使徒の一人ペテロについて。

もう一つの有名なエピソードがあります。

 

 

 

彼は、イエスが逮捕され拷問を受けている様子を、群衆に紛れて見ていました。

すると、彼の存在に気づいた群衆から「この男もあいつ(イエス)の仲間だ!」と詰め寄られます。

 

するとペテロは、こう答えます。

「私は知らない。あなたが何を言っているのか、分からない」

 

 

そこから彼は。

同じように、3度、否定を繰り返します。

 

……その時、にわとりが鳴く声が聞こえます。

 


ペテロはその瞬間、以前イエスに言われた言葉を思い出す。

 

「にわとりが鳴く前に、あなたは、3度私を『知らない』と言うだろう」

 

 

そして彼は、身を投げ出して号泣するのです。

 

 

 

▲「ペテロの否認」と呼ばれるこのエピソードは、多くの絵画作品としても残されています。

 

 

 

イエスが逮捕され、処刑されようとしている時。

12人の使徒たちが、自らの信仰心を試されたように。

 

 

一人の少年が電気イスで処刑されようとしている今、この時。

12人の陪審員たちは、いま、その信仰心を試されている。

 

 

 

つまり。

 

12人の陪審員の男たちが裁こうとしているのは、他でもない。

「自らの信仰心」なのです。

 

 

 

だから、この物語の中では、殺人事件の真犯人の特定などはせず。

“わざと”、その犯行の真実の行方はボカしてあるんです。

 

 

それがはっきり書かれてしまっていると、12人の信仰心という重大なテーマがぼやけてしまうからなんですね。

 

 

 

▲1959年の映画版で冒頭に映し出される「被告の少年」。

アングロサクソンの白人でも、アフリカ系の黒人でもありません。

このキャスティングが、作品の本質を知る大きなヒントです。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

いま、皆さんには、『十二人の怒れる男』というタイトルが、これまでと違って見えるのではないかと思います。

 

 

いよいよ、次回で、『十二人〜』解説は最終回です。

残りの疑問点……劇中に登場する「合理的疑問」というワードと、考察についてお話しします。

 

 

 
 
 
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