第74回高文連石狩支部演劇発表大会の感想2日目
忘れないうちに書き留めておかなくちゃ!あと、大会結果が公表されてたのでブログに追加しておきました。大会2日目 10/12(土)10:00 札幌啓成 「アンコール」評価B 結果優良単調な二人芝居を長時間見せられるのがつらい。昔なつかし三谷幸喜の「やっぱり猫が好き」「子供欲しいね」的な日常会話劇なんだけどあの番組も話ごとの当たりはずれが多かった思い出。台詞の暗記負担が減る分練習も手短に済んでタイパも良好だからか今大会で他にも似たような演劇はちらほらありました。失敗してもリカバーしやすい安心感もあるのかもね。脚本がおもしろければ、あるいは演者が魅力的ならばこの手法も有効かもしれないけど、実際にお笑いコント以外で商業ベースに乗らないのは単純におもしろくさせにくいからだろうか。今作で言うなら特に先輩役の棒読み演技や共感できない心理描写、整合性のない物語展開や強引なまとめなど、失敗する要素しか積んでないうえにそれを56分たっぷり見せられるのでやはりつらい。この流れでは台詞の間の取り方さえただの時間稼ぎに思えてしまう悪循環。無理を承知で去年と同じことを言うけど、各校、身の丈に合った芝居から始めたほうがいいのでは?最後の台詞「やっぱり演劇って楽しいな!」がとても白々しく聞こえました。11:30 恵庭南 「副業戦隊フリータース」評価B 結果奨励主役の女の子は風邪をひいてたっぽい?開演直前に客席まで聞こえていた鼻をかむ音はこの子だったのでは?えらい鼻声だったけどよくがんばったと思う。全体にオンドゥル訛りがひどくてさらには役者間での技量差もあったので安心して観られる芝居ではなかったのだけど、それでも去年の6倍くらいは良い演劇で楽しかったです。たぶん学祭でやってもそこそこは受けるはず。ただ今作において語られるヒーロー論は、誰がどの立場で主張してるのかがとても分かりにくかったです。特に戦隊の4人は記号的に扱われるわりには男性なのか女性なのか子供なのか知能障害なのかが判然とせず、借り物の夢や危機感を投げかけあうだけの不毛なやり取りを続けたあげくに何か、希望を得たような終わり方をさせるのがとても偽善的に感じました。男性役は男性の服装をして男性側のスタンスを記号的に演じるなど構図の整理にもうちょっと期待したい。全員が大根役者というわけでもないのだから、演者を絞ってそれに適した脚本を選んでやりたいところだけど、どうもこの演劇部はそうした方向性とは別のところを目指しているっぽいのでまあしゃあないか。13:30 市立札幌啓北商業 「トシドンの放課後」評価A 結果優良学校が鬱陶しくて教師が無能系のよくある演劇。高校生の不満を代弁できそうで結局は大人側の驕ったステレオタイプをなぞる演劇になりがちなので昨年はこのタイプの脚本に正直辟易していたのだけど今年は違った!茶髪にケータイにさだまさしに中島みゆきにミヒマルGTと、これでもかというくらいに平成の時代設定に拘ったせいか、ある種の時代劇として納得して観れました。そのうえで「今どきの高校生」なんて台詞を劇中で言わせるのは確信犯なのか悪ふざけなのかはわからないけど、少なくとも昭和生まれ平成育ちのおじさんハートにはグッサリ突き刺さりましたよ。特に最後の「生きていかんか!つよし!」の台詞は、途中の芝居で少しでも躓いていたら響かないはずの会心の一撃だったように思います。ちょっと不愉快で目障りな主役の子が、地味ながらも堅実で誠実な芝居を積み重ねてきたからこそのカタルシスがあのラストにはありました。むやみに後追いしなかった潔さもいいし、遠藤周作の名を出して周辺情報を類推させる余白も良かったと思います(まあ既成脚本らしいけど)。演劇はちゃんとつくればおもしろい。それを知るためにもっと多くの学生さんに観て欲しい芝居でした。遠藤周作つながりで「DEEP RIVER」貼っておきますね15:00 石狩南 「アサガオ」評価A- 結果奨励昨年の『羽ばたきたい』と似たような趣旨なんだけどここは脚本が生徒創作のわりにセンスが古いんだよなあ。「親の期待」とか「職業選択」への問題意識が2,30年くらい遅れてる感じなので、せっかく演者の技量は高くてもどこか「言わされてる感」が出てしまう。これはいわゆる興行劇団が抱える問題でもあるのだけど、演劇界って価値観アップデートへの動きが鈍いのよね。お話自体はよくあるご先祖様交流日記で「思い出のマーニー」とかの子供(と老人)向けクソ作品の定番を、もともと実力のある演劇部がやってるので作品としてちゃんとよくできてはいました。舞台で花とか雪とか降らす演出は自分も大好きなんだけど、こうした試みは学生演劇の世界でももう少し評価されて欲しい気はします。去年みたいに華のある女優さんはいなかったので(お姉さん役はかわいかったけど)その分でAマイナスといったところかな。17:00 札幌北斗 「猫を猫と呼ぶ」評価A 結果最優秀連続でA評価なんか付けて大丈夫か?とメモをとりながら考えていました。お話は最低限で芝居を見せるための作品なので基本的にnot for meではあるんだけどそれでも完成度の高さは認めざるを得ない。特にホリー役の女優さんには役が降りてきてるのを感じました。すごい美人というわけでもないのに目が離せない感じ。演者が高い技量を有しているからこそ信頼して「昭和かよ!」みたいなデリケートに時代性を付与する台詞を言わせられる安心感があるのでしょう。ただこれはあくまで優劣を競う大会だから仕方ないのだけど、自分には正直おもしろくはなかったです。「ゴドーを待ちながら」とか「戦艦ポチョムキン」を見せられた気分(伝わるのか?)。18:30 立命館慶祥 「たりないわたしたち」評価A 結果最優秀またしてもA。心からA。札幌北斗が「戦艦ポチョムキン」ならこちらは「マルタの鷹」や「バスターキートン」のおもしろさ(伝わるのか?)。テンポが良くて見やすいうえに演技力も十分で物語の緩急も秀逸。情報量の多さがキャラクターに説得力を加えて台詞に、発する言葉に力を与えてくれる。演劇の本質とは何か?何が魅力なのか?自分はいまだにわからないけど、こうした言葉にできない何者かに輪郭を与えるものこそが演劇であり芸術なのだと、この芝居を観ると考えさせられる。思わせぶりな台詞で煙に巻くのではなく、悩んだ末の「無理につくった友達は不幸だ」とか、やるせない悔しさから生まれた「むずいなー!世界!」といった肉声(叫び)を、記号ではなく思いとして観客と共有できたなら、それは演劇として最上級の成功ではないかと思えます。これがあるから学生演劇はおもしろい。リアルタイムなご当地ネタとか高度に設計されたオカダさんのキャラクターとか、再現性もコスパも極端に低い奇跡の演劇だったと思うので、あの日あの時間に教文ホールに足を運んだお客さんは大変な幸運を手にしていたと言えるでしょう。そしてこの水準のものを毎年出すのは絶対無理でしょう。無理だよね?とりあえず「Aじゃないか」貼っておきますね大会二日目の土曜日ということもあって満席が多かったですが、演劇部の生徒さんにこそ観て欲しい演劇がいくつもあったのでやっぱり大ホールでやってほしかったなあというのが正直なところ。もちろん大ホールの最後列にまで届く芝居が求められるとなると舞台設計も大きく変わってしまうというジレンマはあろうけど、自分みたいなただの演劇好きが優先的に会場に入れてもらえることには申し訳なさと後ろめたさがいっぱいです。であるからこそ、お世辞など書かずに厳しい意見を吐き出してどこかの誰かを嫌な気分にさせてもいます。ごめんなさい。せめて審査員からの評価に落ち込んでいるような演劇部さんに、勇気を与えられることが書ければいいのだけど。