前回のデータを参考に電源トランスを探しながら、黎明期の送信機と受信機に使う電源を考えてみることにしました。
 
当時のアンカバー(無免許)を含む素人無線局は、自励発振を使ったリグが多かったようで、周波数変動(QRH)は普通だったようです。現代に再現するとき、周波数変動を少しでも抑えるために、電源電圧の変動は大きな課題になると思います。
 
当時の水晶発振子(振動子)は大変高価で素人には手が出なかった。また軍用無線、公衆無線、船舶無線など業務通信と異なり、決められた周波数で交信する訳ではなかった点もある。
 
三號型水晶
三號型水晶片(昭和18年)
海軍型水晶
海軍型水晶発振子(昭和17年)
旧型水晶
海軍旧型水晶振動子(戦前)
当局が開局した1950年代に使われていた水晶発振子はFT-243、HC6/Uになっていた。おそらく米ジャックの影響で日本規格のクリスタルは見かけなくなっていたのだろう。
 
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以下は真空管用電源トランスを使って、送信機および受信機に電源を供給する回路の構想を具体的にまとめてみました。
 
フィラメントを点灯させる電源は、センタータップを引き出す必要から、±トラッキング電源を採用することにした。プレートに印加する高電圧電源は、FETとツェナーダイオードを組み合わせて安定化を図る。
 
直熱管真空管はフィラメント電圧の種類が多い。さらに送信用と受信用でフィラメント電圧が一致するとは限らないから、それぞれ独立して計画することにする。
 
ブロック図
真空管用電源-全体構成ブロック図
 
トランスの高電圧は送信では280V-0V-280Vの両端を使って560V、受信では0V-280Vの片巻の使用で280Vを得る。プレート供給電源は、送信回路では560Vrms(792VP-P)で、受信回路では280Vrms(396VP-P)になる。
 
フィラメントの両電源への供給は、0V-5V-6.3Vの2回路を連結して使用する。5V-0V+0V-5V=10VrmsCT(14.2VP-PCT)および、6.3V-0V+0V-6.3V=12.6VrmsCT(17.9VP-PCT)となり、各トラッキング回路に使用する。
 
高電圧安定化回路とトラッキング回路のいずれも、直流電圧計で確認しながら可変抵抗器を調整して希望の電圧を供給する。
 

 
現代ではパワー半導体が進歩して、高電圧でも安定した回路を考えることができそうだ。プレート回路に使用する高電圧電源は、送信用で最大500Vで50mA、受信用は最大250Vで1mA前後が必要になる。
 
高圧安定化
プレート用高電圧安定化電源 基板回路図
 
最近は真空管に使える高耐圧の電解コンデンサが少なくなったので、比較的入手容易な耐圧420Vを直列にしてP-Pで800Vまでの脈流に対応する。コンデンサと並列に分割抵抗を入れて容量の受信用の場合は420Vを1本で良いでしょう。
 
IRFBG20
IRFBG20
要となるパワー素子は、Vdss=1000Vmax、ID=1.4AmaxのMOS-FET-IRFBG20-を選んだ。
 
電圧を決定するツェナーダイオードは300V以上は入手困難なため、240Vを直列接続にして480Vを得て送信用に用いる。出力電圧はVds=2V~4Vがプラスされる。受信用は240Vを1本使用する。
 
CRD(定電流ダイオード)で-2SC4662-(VCBO=500V)のコレクタに供給する。外付けの100KΩB可変抵抗器でベース電圧を調整して目的の電圧を得る。
 

 
直熱管のフィラメントは中点タップ調整のかわりに、±が同電位になるトラッキング電源を設計します。送信用は4V~7.5VCT(±2V~±3.75V)、受信用は2.5V~5VCT(±1.25V~±2.5V)になる。
 
トラッキング
フィラメント用トラッキング安定化電源 基板回路図
 
正電源の安定化には、VO=37Vmax、IO=5Amax 可変三端子素子の-LM338T-が便利だ。負電源用として以前はLM333があったが廃番になってしまった。
 
LM338T
LM338T
2SD2375
2SD2375
代用品としてVCEO=80Vmax、IC=3Amax、hfe=500~1500のパワートランジスタ-2SD2375-を使うことにする。
 
オペアンプは単電源可能であれば何でも良いが-LM358-とした。基準電圧ダイオード-TL431-で0~2.5Vを出力し、可変抵抗器で電圧を設定する。正極側のオペアンプはLM338のアジャスト(AJD)端子に入力して制御する。オペアンプは9V単電源で動作させます。
 
負極側のオペアンプは、正極出力と負極出力の誤差を検出して自動的に調整する。オペアンプの出力をパワートランジスタのベースに接続する。2SD2375は比較的hfeが大きいので、オペアンプで直接駆動することが出来そうです。
 
LM338Tと2SD2375はTO-220タイプです。いずれも最大2Aまでの電流が流れるので、当然ヒートシンクは必須でしょう。
 

 
今回は、単球送受信機に必要なフィラメント(A)電源とプレート(B)電源を備えた電源回路を半導体で設計してみました。パワーFETによる高電圧の安定化と、両電極±同電位のトラッキング回路を使ってフィラメントの中点を得る回路とした。
 
rabbit
トランスが入手次第バラックで組立てて、部品定数の見直しなどを行い、最適値に修正するつもりです。
 
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ハム黎明期の探索 連載リスト
 
  戦前の素人無線局    技術革新とハムの黎明期
  オートダインへの篤い想い    虎の子をはたいたお宝送信管
  盆栽趣味の単球送信機    盆栽趣味は安定電源から
  使えそうなトランスがあった   真空管用電源の回路設計
    
旧軍トランス
戦前の送信機の高圧トランス
前回、黎明期の送受信機を考える前提として、安定電源の考え方を整理しました。ここでトランスが大きな課題であることを感じて、少しネットを検索してみました。
 
考えていた以上に真空管用電源トランスは種類が豊富で、想定に近い仕様の既製品がありました。調べたのは、秋葉原の老舗の東栄変成器ゼネラルトランス販売(ノグチトランス)春日無線変圧器の各社と、名古屋のエイトリックトランスフォーマーの4社です。
 
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サンスイ、ラックス、タンゴ、アトム、菅野(SEL)など一世風靡したトランスメーカーが撤退し、ニッチな真空管オーディオ市場に向けて、直販中心で高級志向に特化して手掛けているようだ。
 
記載の価格は令和5年4月末現在
型番B電圧B電流A電圧A電流税込単価
N-100280V-250V-0-250V-280V100mA5V
5V-6.3V
6.3V
2.0A
1.0A
1.0A
13,200円
P-75N280V-250V-0-250V-280V75mA5V-6.3V
6.3V
2.0A
3.0A
9,100円
(特価)
KmB110S280V-250V-0-250V-280V100mA5V-6.3V
5V-6.3V
6.3V
2.0A
2.0A
2.5A
17,270円
KmB280F280V-250V-0-250V-280V150mA5V
2.5V-6.3V
2.5V-6.3V
6.3V
3.0A
3.0A
3.0A
2.0A
14,300円
PMC-35E-B260V-230V-0-230V-260V30mA5V-6.3V
6.3V
0.8A
2.0A
6,200円
(特価)
PMC-100M280V-240V-200V-0-200V-240V-280V100mA5V-6.3V
5V-6.3V
5V-6.3V
2.0A
2.0A
2.0A
9,650円
(特価)
GS-115280V-250V-0-250V-280V120mA5V-6.3V
5V-6.3V
5V-6.3V
2.0A
1.5A
1.5A
14,300円
 
センタータップ(CT)付のフィラメント回路のうち、送信回路は6.3V+6.3V=12.6V(CT=6.3V)、受信回路は5V+5V=10V(CT=5V)で、レギュレータ素子のドロップアウトを考慮しても問題ないでしょう。
 
PMC-100M
電源トランスの例(PMC-100M)
送信用プレート(B)AC電圧は、最大260V~280V×2=520V~560Vになります。
 
受信用プレート(B)AC電圧は、CT(0)から片側の巻線を使って240V~250Vを得ます。
 
受信用B電源は必要な電流が4mA~5mAでで最大10mAまでなので片側の巻線だけでも、バランスが崩れる懸念は少ないと思います。
 
あとは最大送信出力を考慮すればB電流を決定でき、適当なトランスを選べるでしょう。ただし四極管以上の場合、スクリーングリッドで消費する電流も考慮する必要があるが、シングル(単球)であれば最大60mAもあれば良いでしょう。
 

 
最近のトランス事情について当局が無知だったのは確かだった。それにしてもトランス業界を含めた日本の部品屋さんの底力に感動を覚えた次第です。
 
rabbit
今回はトランスの入手可能となり一安心。次回はフィラメント用トラッキング回路と高電圧安定化回路に入る予定です。
 
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  戦前の素人無線局    技術革新とハムの黎明期
  オートダインへの篤い想い    虎の子をはたいたお宝送信管
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使えそうなトランスがあった    安定化電源の回路設計
    
VE3AWA横
VE3AWAの80 mtr. P-P TPTG
黎明期のハムのことを調べていく内に、プリミティブでシンプルなパーツに取り組む様子が浮かんできた。そして遂に究極のCW無線機にハマってしまいました。
 
何とか黎明期の無線機にチャレンジしてみたいと思い始めた次第です。そんな時にQRZ.comでVE3AWA Lou OM のページを拝見する機会がありました。
 
どうせ作るなら当時のスタイルを守りながら、単球式でブレッドボードを使うことを前提にした。もちろん自励式発振を使う以上は、周囲温度や周辺回路からの影響もさることながら、最大の不安定要素は電源でしょう。
 
前回までの「オートダインへの篤い想い」、「盆栽趣味の単球送信機」で考えたように、整流管を使うのも良いが、まず受信機と送信機に集中することにした。
 
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現代の技術で安定した電源を供給できれば、周波数の変動(QRH)を最小限に抑えることができるだろう…との考え方で、まず電源から挑戦することにした。必要な電源仕様はおもに日本でも入手可能な真空管を、以下の通りを想定した。
 
TC03/5
TC03/5(Philips)
Vf=4.0V If=0.275A
Vp=300Vmax
Po=5W
受信機用電源は三極管(UX-201A、UX-12A、UY-27Bなど)と四極管(UX-222、UY-224、UY-24B、UY-35Bなど)で異なるが、フィラメント(F)の2.5V(1.75A)/3.3V(0.14A)/5V(1A)、プレート(P)の135V(4mA)/180V(4mA)/250V(5mA)あたりになる。
 
送信機用としては出力により大きく異なるが、UX-210(15W)はフィラメント(F)7.5V(1.25A)でプレート(P)425V(18mA)、TC04/10(10W)ではF=4V(1.1A)P=400V(43mA)、TC03/5(6W)でF=4(0.275A)P=300V(20mA)、UX-202A(5W)はF=7.5V(1.25A)P=435V(39mA)、UY-807(15W)で、ヒータ(H)6.3V(0.9A)P=600V(42mA)を満足する規格必要なようだ。
 

 
まとめると受信用フィラメントとしては、2.5V/3.3V/5Vで最大2A程度、プレートに印加するB電源は135V/180V/250Vでスクリーングリッドを考慮しても10mA以下となる。送信用フィラメントは4V/6.3V/7.5Vで最大1.25Aで、B電源としては250V/400V/500Vで50mA程度で良いだろう。
 
こうして考えると受信機用には、フィラメント回路(A電源)をハム雑音の防止から直流点灯で中点出力を設け、安定化で2.5V~5Vの可変式とする。プレート回路(B電源)は135V/180V/250Vステップアップとして出力安定化とする。
 
送信機用は、フィラメント回路(A電源)を受信同様の直流点灯中点出力として4V~7.5Vの可変式とする。プレート回路(B電源)は250V/400V/500Vで安定化可変出力とする。
 
シリーズ電源
真空管用シリーズ電源回路のブロック・ダイアグラム
 
早速ブロック図を起こしてみると上図のようになった。最大の課題はこんな都合の良いトランスがあるはずもないだろう。近い仕様の電源トランスが見つかると良いが、特注すると最低2万円前後になる。
 

 
思い切ってスイッチング電源で組むのも一つの方法かもしれない。スイッチング・レギュレータで一から組み立てるのは、それなりに大仕事になりそうだ。下図は既製品のスイッチング電源で構成してみた。正負両電源のスイッチングユニットはメーカー各社から出ていて価格も手ごろだ。
 
一方高電圧のスイッチング電源は、「松定プレシジョン」があるが、個人取引は行っていないのでアマチュア的には入手困難なようだ。
 
スイッチング電源
真空管用スイッチング電源回路のブロック・ダイアグラム
 
いずれにしても既製品のままでは、出力電圧の可変範囲が狭いので、少なからず改造、調整など手を加える必要がありそうだ。またスイッチング電源は比較的、高周波雑音の要因になり易いので、コモンモード・フィルタやノイズ防止キャパシティーなどのEMS対策が必須でしょう。
 

 
今回は単球送信機と受信機に使う電源回路の構想してみました。コスト・パフォーマンスを最優先に考えると、適当なトランスが見つかれば自作が良いのかも知れない。
 
rabbit
とりあえず(先送りの常套句)トランスを探すことに専念して、それから方針を決定したいと思います。
 
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  戦前の素人無線局    技術革新とハムの黎明期
  オートダインへの篤い想い    虎の子をはたいたお宝送信管
  盆栽趣味の単球送信機   盆栽趣味は安定電源から
  使えそうなトランスがあった    安定化電源の回路設計
    
JG1RQT
JG1RQTの盆栽趣味
当ブログの「となりの芝生探訪記」で訪問した「JG1RQT局」との話題で、今時AM(振幅変調 A3)に挑戦するのは「ハムのの盆栽趣味」だとの明言を頂きました。
 
様々な半導体パワーディバイスが世の中に出回って、今更フィラメント(ヒーター)に大きな電力を使う真空管に対する価値観を見出すことは難しい。
 
そこで真空管の趣味は、小さな樹木に丹精込める盆栽に寄せる思いと酷似しているように思えた。
 
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話を本題に戻して、前回の「虎の子をはたいたお宝送信管」で当時の種々の送信管と、QSTハンドブック(1934年)に掲載された送信機の翻訳記事を取り上げた。
 
記事は TYPE 10 の自励発信回路を使った単球の送信機で、現代の電波技術では想像できない。電源や温度による発振周波数の変動(QRH)、不要な電波の輻射(スプリアス)など、余りにも大らかな時代てあったようだ。
 
当局が開局した昭和41年(1966年)の7MHz帯でも、送信周波数と受信周波数がズレているのは日常だった。しかも自励式VFOを使っていると、スタンバイ(送受信を切替える)する度に相手の周波数が動いて探す状態だった。
 
またスプリアスでラジオ(BCI)、テレビ(TVI)、電話(テレフォン・アイ)、オーディオ機器(アンプ・アイ)などで、近所迷惑になることもあった。こうした電波障害(Interfere)の問題によって、無線機に対する規制は強化された。
 

 
黎明期のハムでも、すでにBCIは問題になっていたようで、出力タンク回路の性能向(ハイQ)やアンテナのマッチングに苦労してたようだ。QSTハンドブックで銅パイプで大きなコイルを使っているのはハイQの目的が大きかったのだろう。
 
QST10
説明
ここでQSTハンドブックの回路を振り返ってみよう。周波数の発振は大正4年(1915年)にラルフ・ハートレーが発明した発振回路である。
 
高圧電源はタンク回路を通してプレートにつながっている。フィラメントの中点とアースのあいだに電鍵を入れてキーイングしている。
 
QSTハンドブックにコイルのデータは以下に記載されている。
 
これらのコイルの説明は本文に記載されていますが、それぞれの巻数は以下に示されています。
 
    CoilBandTurns
  P13,50012
  P27,0005
  P314,0003
  G13,50060
  G27,00025
  G314,0009
1750-kc バンドの場合、直径 3インチのフォームに No. 14 二重絹巻線(d.c.c) の 25ターンのプレート コイル、ターン間の間隔がワイヤの直径に等しく、150 ターンのグリッド コイルが他のフォームと同じサイズのフォームに巻く。グリッド コイルの巻き数には、多少の変更が必要になる場合があります。
 
セットが必要な周波数帯域で安定して効率的に動作するまで、ターンを追加または削除する必要があります。アンテナコイルは、コイル P-1 に使用されているものとまったく同じ 6 ターンです。 このコイルのクリップにより、最適な巻数を選択できます。
 
P1~P3のコイルとアンテナコイルは、1/4インチ(6.35mm)の軟銅管(なまし銅管)を、外径2-3/8インチ(50.8mm)の筒に巻き付けて成型する。
 

 
それでは自励式単球送信機の実際の回路を考えてみた。電源部分の真空管を含むと2球になるが、今の時代なら電源のディバイスはダイオードを使うのが妥当だろう。
 
UX-210
UX-210を使った自励式単球送信機
 
10W前後のUX-210だが、UX-202Aも差し替えて使える。小電力にするのであれば受信管のUX-171A、UX-201A、UX-199なども使える。当然ながらB電圧の上限、フィラメント電圧は、それぞれの真空管に合わせることが必要だ。
 
あくまで1934年版「ARRLハンドブック」に掲載された回路の再現であり、どうせなら金属製シャーシでなく、ブレッドボード(木製の平板)に1/4インチなまし銅管でコイルを作って組んでみるのも一興だろう。
 

 
UX-210の類似管の一つで、Philips社製アマチュア無線向けの10W出力「TC04/10」は当時は高根の花だったようだ。フイリツプ社は京橋に日本法人を開設していた。昭和6年(1931年)発行の「フイリツプス・ラヂオ・ハンドブック」には、TC04/10と共に5W出力の「TC03/5」も掲載されている。
 
TC04/10
TC04/10を使った自励式単球送信機
 
回路はUX-210と同じだが、プレートとグリッドは管上部に端子を設けてあり、ブレッドボード組立てには向いていそうだ。フィラメントが4V/1Aと「經濟送信管」をうたい文句にしていた。整流管はPhilipsの「1561」でそろえた。
 

 
米国では昭和12年(1937年)、我が国では昭和15年(1940年)に東京電氣が国産化した「UY-807」だが、黎明期のハムには手の届かない存在だったのだろう。しかし戦後のアマチュアに最も愛された送信管の一つだろう。そこでUX-210をビーム四極管に置き換えてUY-807の回路を考えてみた。
 
UY-807
UY-807を使った自励式単球送信機
 
これもUY-807と同世代のKX-5Z3を整流管に使っているが、現代ならダイオードブリッジで充分だろう。
 
ビーム管としては、オクタルベースの6L6-G、GT管の2E26、6146なども使えそうだ。また小電力であれば、受信用五極管のUY-247、UY-47、UY-47B、3Y-P1、6Z-P1など電力増幅管であれば、数ワット程度の出力は得られそうだ。いずれにしても7MHzが上限だろう。
 

 
今回は、実際に使えそうな単球送信機の回路を考えてみたが、おそらく安定度はもとより、ハム対策、スプリアス対策、回り込みなどで苦労することは必定ですね。
 
rabbit
シンプルな送信機ながら、チマチマ苦労することは、まさに「盆栽趣味」に相応しいと思いました。
 
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  戦前の素人無線局    技術革新とハムの黎明期
  オートダインへの篤い想い    虎の子をはたいたお宝送信管
盆栽趣味の単球送信機    盆栽趣味は安定電源から
  使えそうなトランスがあった    安定化電源の回路設計
    
現在で聞くことはまれだが、太宰治も「虎の子」と云う言い回しを使っていた。「虎の子」は大切にしていたお金のことで、昭和世代までは日常的に耳にした。その大金を投じないと手を出せなかったのが送信管だったようだ。
 
黎明期のハムたちは、前回の「オートダインへの篤い想い」で話したように、艱難辛苦を経て短波受信機を手にして、国内外の無線を聞いたことだろう。
 
米国KDKAが大正9年(1920年)、英国BBCが大正11年(1922年)、日本NHKが大正14年(1926年)などラジオ放送が始まる以前には、様々な実験局の通信を聴いていたと思われる。そうした無線通信の中には、アメリカのアマチュア無線に触れることもあったようだ。
 
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UX-860
川西 UX-860 出力100W
先達は自分も挑戦してみたいと考えて、受信だけから次第に送信まで手を染める切っ掛けとなった。放送局が開設されるまでの大正後半には、小電力の無免許(アンカバー)素人無線局が中波帯を中心に出没してたようだ。
 
しかし送信に使える真空管は大変に高価で、使用電圧も1000V以上の電源を必要とした。さらに軍用や業務用に開発された送信管を一般庶民が入手することは絶望的だった。
 
ちなみに昭和18年(1943年)に五社眞空管技術委員会(川西機械製作所、東京電氣、日本無線電信電話、日本電氣、理研眞空工業の五社)発行の「VES眞空管標準規格」に収録された送信管を見てみよう。
 
UX-860
UX-860
Ef=10V If=3.25A
Ep=2000V Dp=100W
出力=100W>
UV=861
UV=861
Ef=11V If=10A
Ep=3000V Dp=500W
出力=500W>
UV-812
UV-812
Ef=10V If=6A
Ep=2000V Dp=250W
出力=250W>
UV-211A
UV-211A
Ef=10V If=3.25A
Ep=1000V Dp=75W
出力=80W>
上図の規格を見ても、素人無線局に手を出せる真空管ではありません。一方で各地の軍関係や逓信省などの無線局に勤務する職員が、アマチュアのコールサインを付けて交信を行って、米国雑誌にも記録が残りQSLカード(交信証)の交換まで行っている。
 

 
1920~1930年代に、実際に日本のハムが使える真空管は限られていた。その中で当局が入手したことのある戦前の真空管の写真を選んでみました。
 
UX-210 TC04/10 UX-202A C-202A UZ-510
UX-210
TC04/10
UX-202A
C-202A
UZ-510
RCA Radiotron
Vf=7.5V
If=1.25A
Vp=425Vmax
Ip=18mA
Philips
Vf=4.0V
If=1.0A
Vp=400Vmax
Po=15W
東京電氣
UX-210の
国産軍用品
川西真空管
UX-210の
国産軍用品
川西真空管
Vf=10.0V
If=1.25A
Vp=1000Vmax
Pb=45W
UY-807 HO-101F UX-171A UX-201A UX-199
UY-807
HO-101F
UX-171A
UX-201A
UX-199
東京電氣
Vf=6.3V
If=0.9A
Vp=600Vmax
Pb=60W
日本電氣
Vf=4.0V
If=0.5A
Vp=190Vmax
Ip~10mA
東京電氣
Vf=5.0V
If=0.25A
Vp=180Vmax
Po=0.7W
東京電氣
Vf=5.0V
If=0.25A
Vp=135Vmax
東京電氣
Vf=3.3V
If=0.063A
Vp=90Vmax
Ip=2.5mA
アマチュアで最も手軽に使えて、米雑誌にも登場するのがUX-210だろう。フィリップスのTC04/10はアマチュア向けに作られていて、使い勝手は良いもの高価であった。UX-202、UX-202A、C-202Aなど202系は、盛んに使われていたようだが、出力が最大5W程度で物足りなかった。
 
UZ-510とUY-807は完全に送信管に分類され、軍用無線機に使われていたことから入手が難しかったようだ。HO-101Fはウェスタンエレクトリックの101Fの国産版で、通信用真空管として搬走電信(無線による公衆電報)に使われていた。
 
UX-171A、UX-201A、UX-199はラジオの電力増幅用真空管で、後のUX-47B、3Y-P1、6Z-P1、6AR5などに匹敵する受信間になる。電力を扱える受信管を、アマチュアの送信機に使っていたようだ。
 

 
それではハムが実際に使っていた送信機の例を見てみよう。
 
以下は、昭和9年(1934年)の「ARRL Handbook」に掲載された PLANNING AND BUILDING TRANSMITTERS の記事を Google 翻訳で日本語してもらいました。わずかに修正したが、AI翻訳は進歩したものです。
 
- 以下、Google 翻訳 +α -
 
Fig703
Fig.703 THE LOW-POWER SINGLE-TUBE TRANSMITTER
図 704 に回路図と定数を示します。写真はセットがどのように構成されているかを示しています。選択されたレイアウトは、短い r.f. リードを可能にするものです。
 
ブレッドボードは、長さ 12 1/2 インチ、幅 10 インチです。プレートコイル L1 を支えるために、写真に示すように、2 つの磁器製スタンドインシュレータが一方の端に取り付けられています。これらの絶縁体は、中心間で 47 ~ 2 インチ離して配置する必要があります。この取り付けは機械的に非常に頑丈で、コイルを簡単に交換できます。チューニングコンデンサーC5。 この場合、21 プレートのカードウェルが小さな真鍮製のアングルに取り付けられています。
 
Fig704
Fig.704 THE CIRCUIT OF THE TRANSMITTER
プレート バイパス コンデンサー C2 は、ブレッドボード上のチューニング コンデンサーの近くに取り付けられています。無線周波数チョーク L4 は、そのすぐ後ろにあります。フィラメント バイパス コンデンサー C3 は、チューブ ソケットのすぐ後ろにあります。これらのコンデンサーの目的は、チューブのフィラメントに流れる異周波電流に簡単な経路を提供することです。これがなければ、抵抗器 R1 を通過する必要があります。真空管のフィラメントが交流電流で加熱される場合、フィラメントの交流電圧がグリッドに到達するのを避けるために「センタータップ」抵抗が必要です。これは、送信信号に変調または「リップル」が発生するためです。フィラメントへのリードの電圧は 60 サイクルの電源周波数で常に変化していますが、抵抗 Rt の中心点の電圧は一定です。同じ結果を達成する別の方法は、トランスのフィラメント電源巻線にセンター タップを使用することです。ただし、センタータップ抵抗器の配置が好ましい場合もあります。これは、フィラメント トランスの一次側ではなく二次側でフィラメント レオスタットを使用できるためです。二次巻線用のレオスタットは、他のタイプよりも容易に入手できます。
 
Fig705
Fig.705 PLAN VIEW OF THE TRANSMmER
グリッド コンデンサー C4 とリーク R2 は、フィラメント バイパス コンデンサーの右側にあります。このセットのコンデンサーは、ブレッドボードを貫通する小ネジによって平らに取り付けられています。フィラメント センター タップ抵抗 R1 は、フィラメント バイパス コンデンサーの上部に直接取り付けられています。
 
すべての接続は、Fahnestock クリップで終了するボードの背面に実行されます。写真の右から左へ、クリップの最初のペアはアンテナまたはフィーダー接続用、2 番目は「プラス」とマイナスの高電圧用、3 番目はフィラメント供給用、4 番目のペアはキー用です。セット全体の配線は非常に簡単で、複製する場合でも、図と写真に従うことは難しくありません。
 
Fig706
Fig.706 WINDING A COPPER-TUBING INDUCTANCE
プレート コイル L1 は、1/4 インチの軟銅管で、外径 2-3/8 インチのパイプに巻き付けられています。コイルの端は万力で平らにされ、穴が開けられて取り付け用絶縁体の小ネジにフィットします。3500kc コイルは、より高い周波数帯域のコイルで行われるように、終了時に端が曲がることなく絶縁体にちょうど収まるように、巻き間隔を空ける必要があります。7000kc コイルの巻き間隔は約 3/16 インチ、14,000kc コイルでは約 7/8 インチです。
 
グリッド コイル L2 は、No. 30 二重絹巻線です。 長さ 2-1/2 インチの 1 インチのチューブに配線します。これは、ベークライト、紙、木材、またはその他の一般的な絶縁材料でできています。コイルは、その特性を維持するために、コロジオンまたは透明な Ducoワニスでコーティングする必要があります。2つの小さな真鍮のアングルは、これらのコイルの接続とサポートの両方の役割を果たし、巻線の端は、コイル フォームの端に挿入された小さな機械ネジに引き出されます。
 
Fig707
Fig.707 THE PLATE AND GRID COILS
アンテナ コイルは、タンク コイルと同様の方法で作成され、タンク コンデンサーのすぐ後ろの絶縁体に取り付けられます。このコイルの遠端への接続は、クリップと柔軟なワイヤの小片によって行われます。したがって、アンテナ結合を変化させるために、コイルをプレート・タンク・コイルから遠ざけることができる。
 
第10章で説明されている 350ボルトの電源は、送信管が Type 45 の場合、この送信機で使用するのに最適なものです。この電源は、 Type 10 オシレータ用のプレート電圧を供給するためにも使用できます。その場合、10 用に別の 7.5 ボルト フィラメント トランスが必要になります。 あるいは、第 10 章で与えられた情報から、Type 10 チューブ用の 550 ボルト電源を構築することもできます。ラジオ用の 550 ボルト電源トランスのほとんどは、プレート巻線に加えて、発振器または増幅器および整流管用の 7.5 ボルトのフィラメント加熱巻線を備えています。Type 01-A 受信管を使用する場合、プレート電源は 135 ボルトの "B" 代替品または 135 ボルトの "B" バッテリーにすることができます。
 
- 以上、Google 翻訳 +α -
 
真空管の TYPE 10 はUX-210、D-X210、 G-10、NU-10、PA-210、C210、T-10、Z-210、JX-210、RYB210、SLX210、T-210、NX-210、510、X210、RayX-210、SE-2566A、MX210、410deForest、38110、GSX-210、AC-10、CF-510、ER-210、57T210、X-210、FX-210などが相当品です。
 
さすがARRLのハンドブックで、初心者にも解りやすく書いてありました。ブレッドボードのサイズは、長さ12-1/2インチ(約 32cm)、幅10インチ(約 26cm)で、A4判の紙より一回り大きいサイズのようです。
 
 
ARRLハンドブック「第7章 PLANNING AND BUILDING TRANSMITTERS」の原文は、上記 Google Drive で閲覧、ダウンロードが可能です。
 

 
送信機について書き進めようと思っていたが、ARRLハンドブックの翻訳があまりにも冗長なってしまいました。
 
rabbit
次回は、ARRLハンドブックの記事を参考に当時のゆるさで考えた単球送信機について突っ込んでみます。
 
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