突然ですがジャズ大喜利。Prime Time Bandとかけて、美味しいアルトの音色と解きます。その心はVirgin Beauty一択です。Ornette Colemanはその経歴から、音楽スタイルを中心に語られることが多い。かくいう私も彼のPrime Time Bandの音楽が大好きなのだが、しかし一方で彼の最大の魅力はアルトサックスの音色だと思う。こんなに美味しい音色のアルトを奏でる人はそうそういない。で、そんなOrnetteの美味しいアルトがとことん味わえるアルバムときたら、やっぱりこのアルバムでしょう。
Sun Raで一枚となると、この辺になるかなと思う。一曲目のぶっ飛んだ世界を一通り終えて、2曲目以降をしっかりと聴きこんでみると、意外にもごくフツーの伝統にのっとったJazzが繰り広げられていたりもする。自称、土星人のくせに。そういう、ハッタリ一発勝負ぷりがいかにもSan Raらしいという一枚(2枚組だけど)。
Maria Schaneiderは自分の具体的に経験した景色と感情の動きを音にして、自分のグループ全体を使って表現するタイプの音楽家。そういう点では、本質的な部分は意外とチャールズ・ミンガスに非常に近い。ただし、表現する感情のベクトルは、ミンガスとは完全に真逆。その世界に影も憤りもなく、軽やかでしなやか。そんな彼女の音楽の特性は、彼女の故郷をメインテーマにしたこのアルバムでも如何なく発揮されている。穏やかで派手さはないが、実は多彩で豊かなカントリーの景色に相応しいオーガニックな音楽。
Miles Davis/Prelude in Tokyo 1975/2/7-bootleg(Agharta-Pangea)/1975
1969年から始まるMiles Davisの挑戦は1975年に一つのピークに達する。その1975年の1月末から2月に行われた来日公演は、公式にはAghartaとPangeaという2枚のアルバム(2月1日大阪公演、昼の部および夜の部)で聴くことができるし、他の講演もほとんどをBootlegで聴くことができる。Prelude in Tokyo 1975/2/7もそのウチの一枚。バンド全体の調子もとても良く、目まぐるしく表情を変えるこの時期のMilesの音楽が堪能できる。しかし、ここで展開されているのは、もうこの一寸先には虚無しかないギリギリのところで成立している本当に物凄い音楽で、天使が血反吐を吐きながら地獄の底で歌う悪魔の音楽とでも言おうか。長いキャリアの中で数々の新たなジャズのスタイルを生み出し、数多のフォロアーを作ったMilesだが、この音楽だけは誰も真似ができなかった。この演奏の半年後、燃え尽きたMilesは約6年間の沈黙に入る。
Miles Davisのアルバムも晩年のものになると、たとえ往時の力強さはなくなる。しかしながら、彼のトランペットの音を一つ聴くだけで「あぁ~、いいなぁ~」と反応してしまう。惚れたものの弱みである。ただし、このアルバムの価値を彼の最後のアルバムということ以上に高めているのは、1992年の時点でヒップホップの要素を取り込み、ラッパーとの共同作業でアルバムを作成したという事実。辛辣なことを言ってしまえば、現代ジャズの旗頭として盛んに宣伝されているRobert GlasperのBlack Radio(およびBlack Radio2)でさえ、このアルバムが示した世界観から一歩も外に踏み出せてない。長くジャズの帝王として君臨したMilesが最後に残したジャズの黙示禄。
このアルバム辺りからJoe Zawinulの最後の黄金時代が始まった気がする。世界中の腕利きの、多くは無名だったミュージシャンを集めて繰り広げられる、どこか懐かしい、でもそれまで何処にも存在しなかった最高にヒューマンな音楽。私は特に冒頭から4曲目、”You Want Some tea,Grandpa?”までの流れが大好きで、この4曲目を聴いていると、何故か子供のころに一日中友達と遊び疲れて家路につく際に眺めた夕日を思い出す。
2015年にいきなり3枚組のCDでデビューした今を時めくサックス奏者、Kamasi Washingtonの2作目。これは前作とうって変わってトータル32分のミニアルバム。最初に3~4分の小曲5曲でモチーフが提示され、最後の6曲目でそれが複雑に組み合わされた13分半の組曲が演奏される。彼の音楽は70年代のスピリチュアルジャズとの関連で語られていることも多いが、音楽が圧倒的にポジティブな点はむしろRassahan Roland Kirkに近い。聴き終わった時に「あぁ~、幸せ」と心から思えるアルバムは多くはないが、これは何度聞いてもそう思わせてくれる一枚。
Gil Evansも70年代はJimi Hendrixに傾倒するなど、60過ぎのじいさんとは思えないほど(失礼!)、それまで以上に元気でアグレッシブであった。これはそんな時期の彼のオーケストラの代表作。Gil Evansのアルバムの魅力は、彼のアレンジした重層的な音の重なりをバックにして、ソリストが本当に気持ちよさそうに熱い演奏するところなのだが、このアルバムは特にそれが際立っていてマジで最高。”音の魔術師”というあだ名と小難しそうなイメージでGilのアルバムを敬遠している人がいたら、それは絶対に人生損している。このアルバムを聴いてその先入観を取り払うべき。
彼のベースにはボ~ンという音一発で”あぁ良いなぁ~”と思ってしまう魔力がある。加えてその音楽性はけっこう広い。しかし、Hadenのリーダーとしての特徴は叙事詩的アルバムで最も発揮される。その代表例がLeberation Music Orchestraだが、その4枚(ライブを入れたら5枚)のアルバムの中で私が最も好きなのは、恐らく最もマイナーなこれ。アルバム全体を通して繰り広げられるドラマチックな展開がHadenらしい。歴史本を読む際のBGMとしても、妙にマッチしてテンションが上がる。
70年代のジャズの面白さは、ジャズの表現を広げるべく本当に幅広く数多くの個性的な試みがなされ、そこで提示された要素が再結合するかのように現在のジャズシーンに繋がっている点。例えば、Don Ellis。訳の分からない変拍子のリズムで最高にスイングするジャズオーケストラを率いた”変拍子の鬼”。彼の存在がなければ、現在のジャズシーンで変拍子がここまで当たり前にはなっていなかった!ような気もしないでもない。オーケストラの演奏(例えば Don Ellis at Fillmore)も良いのだが、ここではあえて晩年のスモールコンボでのアルバムをチョイス。このアルバムを聴けば、彼はトランぺッターとしても相当な腕前を持っていたことがよく解る。切れるべきところで切れない流麗な唯一無二のソロ。もっと正当に評価されるべき存在だと思う。
シャンソン歌手のBrigitte Fontaineが前衛派ジャズ集団Art Ensemble of Chicagoと作り上げた奇跡。呟くようなFontaineの歌声の背後で響くArt Ensemble of Chicagoの不安定な(でも完全にコントロールされた)ハーモニー。優れたアートは空間を捻じ曲げる力を持っていると思うが、このアルバムは当にそれ。音楽をかけた瞬間に目の前の日常が非日常になってしまう。とにかく必聴の大名盤。
Archie Shepp/Attica Blues/1972
Avishai Cohen/Gently Disturbed/2008
Brigitte Fontaine/Comme A La Radio/1970
Build An Ark/Peace With Every Step/2004
Cassandra Wilson/New Moon Daughter/1995
Cecil Taylor/Silent Tongues/1974
Charlie Haden/Dream Keeper/1991
Chick Corea/Return to Forever/1972
Don Cherry/Organic Music Society/1972
Don Ellis/Live In India/1978
Duke Ellington/The Afro Eurasian Eclipse/1971
Fela kuti/Kalakuta Show/1976
Gato Barbieri/Chapter Three:Viva Emiliano Zapata/1974
Gil Evans/Priestess/1977
Henri Texier/Remparts D'Argile/2000
Harbie Hancock/Directstep/1978
Joe Zawinul/My People/1996
Kamasi Washington/Harmony Of Difference/2017
Keith Jarrett/The Survivors's Suite/1976
Kip Hanrahan/Beautiful Scars/2008
Kurt Rosenwinkel/Caipi/2017
Maria Schneider/The Tompson Fields/2015
Miles Davis/Prelude in Tokyo 1975/2/7-bootleg(Agharta-Pangea)/1975
Miles Davis/Doo-bop/1992
Nils Petter Molvaer/NP3/2002
Ornette Coleman/Virgin Beauty/1988
Pat Metheny/The Way Up/2005
Rasshan Rorand Kirk/The Return of the 5000 Pound Man/1975
Sun Ra/Disco 3000/1978
Tokyo Zawinul Bach/a8v(on the Earth)/2004